57 / 197
#57 排水口の世界へ
しおりを挟む「あれ、詰まったな……」
カケルは台所の排水口に顔を寄せた。何かが奥に引っかかって水が溜まり始めている。手を伸ばし、奥の方を探るが、ぬるっとした感触が指先に広がるだけで何も掴めない。
「もっと奥か?」
彼は勢いに任せて手を深く突っ込んだ――その瞬間、体が一気に引っ張られ、視界がぐるりと反転した。
目を開けると、カケルは不思議な場所に立っていた。周囲は巨大なパイプと水路だらけで、上空には無数の排水口が浮かんでいる。
「ここは……下水道のような異世界?」と戸惑うカケルの前に、奇妙な生物が現れた。体は水でできているようで、どことなくジェル状だ。
「ようこそ、『パイプ王国』へ!」その生物が陽気に叫ぶ。
「俺はスライム王、ここでのガイドだ。さて、君はどの排水口から来た?」
「いや、俺はただ水道が詰まってて……」
とカケルが事情を説明すると、スライム王は真剣な表情になった。
「それは一大事だ! パイプ王国に水の流れを司る『排水の女神』の怒りが及んだかもしれないな!」
スライム王の案内で、カケルは女神の神殿へと向かった。道中では、「流されし者」と呼ばれる他の迷い人たちが暮らしていた。彼らは、異世界に来た人々がここに閉じ込められ、パイプの流れに沿って生きることを強いられていると語る。だが、その中の一人が言った。
「この世界、実は出口があるんだ。だが、それは見つけた者しか通れない――排水口の“逆流”に飛び込む勇気があればな。」
神殿に到着すると、「排水の女神」と名乗る巨大な蛇のような姿の神が現れた。
「貴様、排水の流れを乱した罪でここに召喚されたのだ。だが、試練を乗り越えれば元の世界に戻してやろう。」
試練は、流れを読み解き、女神に正しい水のルートを示すことだった。カケルは家での水道修理の経験を思い出し、勇気を持って答えた。
「水の流れは、抵抗が少ない方へ――つまり、ここでは心を軽くすることが解決だ。」
すると、女神は笑った。
「その心の流れこそ正解だ。戻るがよい!」
次の瞬間、カケルは再び回転する視界の中へ――
目を開けると、カケルは自宅のキッチンにいた。排水口を覗くと、水はきれいに流れている。
「なんだったんだ、あれは……?」
そうつぶやきながらも、彼はふと感じた。異世界で学んだように、物事は時に流れに任せた方がうまくいくのだと。
「ま、これからはあまり詰まらせないようにしよう。」
そう誓ったカケルは、少しだけ成長した気がしていた。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。
→賛否分かれる面白いショートストーリー(1分以内で読了限定)
ノアキ光
大衆娯楽
(▶アプリ無しでも読めます。 目次の下から読めます)
見ていただきありがとうございます。
1分前後で読めるショートストーリーを投稿しています。
不思議なことに賛否分かれる作品で、意外なオチのラストです。
ジャンルはほとんど現代で、ほのぼの、感動、恋愛、日常、サスペンス、意外なオチ、皮肉、オカルト、ヒネリのある展開などです。
日ごとに違うジャンルを書いていきますので、そのときごとに、何が出るか楽しみにしていただければ嬉しいです。
(作品のもくじの並びは、上から順番に下っています。最新話は下になります。読んだところでしおりを挟めば、一番下までスクロールする手間が省けます)
また、好みのジャンルだけ読みたい方は、各タイトル横にジャンル名を入れますので、参考にしていただければ、と思います。
短いながら、よくできた作品のみ投稿していきますので、よろしくお願いします。


異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる