🎊異世界転生が流行っているので１ミリも知らないけど書いてみたら何か良作が生まれた件 （▶20から毎日投稿挑戦開始）

#56 スーパームーン

彼は目を覚ました。そこは見知らぬ土地で、満月が不気味なほど大きく空に浮かんでいた。彼は昨夜、崖から転落し命を落としたはずだったが、どうやら異世界に転生したらしい。

「ここは……どこだ？」

周りを見渡すと、不思議な風景が広がっていた。山は紫色に輝き、草木は月光を浴びて淡く光っている。奇妙な動植物が彼をじっと見つめているが、誰も彼に近づこうとしない。
彼は自分の姿を確認すると、驚くべきことに、体が半透明で月光と同じ色に光っていることに気がついた。

「俺、もしかして……満月の精霊か？」

その瞬間、彼の体はふわりと宙に浮いた。彼の頭の中に満月の声が響く。

「お前は月に選ばれし者だ。月の力を授けるが、その代わり、満月の夜だけしか存在できない運命を受け入れよ。」

彼は一瞬戸惑ったが、異世界で得たこの力を利用すれば、満月の夜にだけでも英雄になれると考えた。
そして、月の光を自在に操り、夜の影を消し去る能力を手に入れた。毎月満月の夜になると、彼は異世界中を飛び回り、悪を退け、弱き者たちを救い続けた。

だが、次の満月の夜、彼はあることに気づいた。月の光が弱まり、彼の力も失われつつあるのだ。満月の力は無限ではなかった。月が欠けていくたびに、彼の存在も薄れていく。

「この世界での時間は……もう少ししか残っていない……」

彼は最後の夜、すべての力を使い、世界に平和をもたらすための最終戦いに挑んだ。敵を倒し、人々を守ったその瞬間、月は完全に欠け、彼の体もまた消え去った。

満月の夜にだけ存在した英雄は、誰も知らない伝説となり、空にはまたも、静かに満月が輝いていた。
英雄は知らぬ間に、自身の光を月に返したのだった。