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#55 玉突き事故から始まる異世界転生
しおりを挟むその日は、最悪の玉突き事故が起きた。
原因は高速道路の中央を猛スピードで走り抜けた一匹の野良猫。
追突された車は次々と連鎖し、計25台が絡む大惨事に。最前列の赤いスポーツカーに乗っていたのは、ブラック企業で過労死寸前だった男・加瀬隆。彼は事故の瞬間、視界が真っ白になり――気がつけば見知らぬ草原に立っていた。
「ここは……どこだ?」
頭を抱えていた加瀬の前に、一冊の古びた書物を抱えた精霊が現れる。
「おめでとうございます! あなたは他界し、異世界に転生されました」
「え、転生?」
夢か現かと疑っている暇もなく、精霊は説明を続ける。
「あなたの魂は運命の連鎖により、この異世界に引き寄せられました。しかも、特典として『スキル:玉突き連鎖』を付与します!」
「……玉突き?」
加瀬が困惑していると、突然、周囲の空気がピリついた。遠くから魔物の群れが迫ってくる。絶望的な状況に、加瀬は仕方なく新しいスキルを発動した。
「よし……やってみるか! 玉突き連鎖、発動!」
すると目の前の岩が弾け飛び、その衝撃で周囲の木々が次々と倒れ、巨大な丸太が魔物に向かって転がっていく。
丸太がぶつかった魔物は吹き飛び、後ろの魔物たちも次々と巻き込まれた。まるでビリヤードのように、群れ全体が無秩序に飛び交い、あっという間に全滅。
「……すげぇ。これ、無限に連鎖するのか?」
加瀬は思わず笑ってしまう。何の役にも立たないと思っていたスキルが、異世界では最強の武器になっていたのだ。
だが、彼の物語はここでは終わらない。連鎖するのは玉突きだけではなかった。奇妙なことに、この世界にいる他の転生者たちも、同じ玉突き事故で命を落としていたのだ。しかも全員が自分だけが主人公だと思い込んでいる。
森の奥で出会った、剣士の青年が叫ぶ。
「お前も転生者か? 俺は『スキル:連鎖攻撃』を持ってるんだ!」
その瞬間、加瀬は気づく。この世界は、事故の連鎖が魂の連鎖を生んだ場所だったのだ。異世界そのものが、一つの巨大な玉突きのように動いている――何かがぶつかれば、必ず別の何かが動き出す。
加瀬は苦笑いしながら、剣士に手を差し出した。
「ま、せっかくだから協力しようぜ。俺の玉突きで、お前の連鎖を爆発させてやる」
こうして、彼らの物語は終わりなき連鎖の旅路へと突き進んでいく。
玉突き事故から始まった命の連鎖は、やがて世界そのものを巻き込む巨大な物語へと成長していくのだった。
――これは、転生者たちの奇妙で壮大な玉突き連鎖の物語。どこまで続くのか、それは誰にもわからない。
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