🎊異世界転生が流行っているので1ミリも知らないけど書いてみたら何か良作が生まれた件 (▶20から毎日投稿挑戦開始)

ノアキ光

文字の大きさ
上 下
54 / 197

#54 止まらない独白

しおりを挟む

気がつくと、俺は知らない森の中にいた。青い葉が風に揺れ、どこか甘い香りが漂っている。どうやら、噂の異世界転生というやつらしい。よくある展開だ。けれども、この状況は明らかにおかしい。  

なぜなら、俺はずっと独り言を喋り続けているからだ。  

「やれやれ、転生かよ。しかもまたファンタジー系だなんて……まあ、剣と魔法は悪くないけどさ。あー、せめて現代日本に戻れると思ったのに……」  

喋りながら気づく。俺は言葉を止められない。口が勝手に動く。黙ろうとしても、喉の奥から言葉が次々と溢れ出る。  

「ふう、まったく。これってもしかして、呪いか何かなのか? いや、冷静に考えよう。まず、この状況を整理するんだ。異世界に来た俺、そして止まらない独り言……」  

俺は混乱しつつも、ひたすら声に出して考え続けた。森の木々がざわめく音の隙間さえ、独り言で埋まっていく。 

「とにかく、誰かに会えば解決策が見つかるかもしれない。いや、そもそもこんなに独り言を言い続けてる時点で、正気を保てるのか俺? あー、でも……意外とこれ、悪くないな。ほら、自己分析が深まるし、孤独感も紛れるしな。うん、何事も前向きに捉えないとね!」  

俺は歩き出した。
目の前に現れたのは、小さな村だ。村の入り口には門番のような男が立っている。  

「おい、そこの旅人!」門番が声をかけてきた。
「どこから来たんだ?」  

「いやー、どこって言われても、説明しにくいんだよな。ほら、俺、さっきまで日本にいて、ブラック企業で仕事してたんだけど、ふと気がついたらここにいてさ。それで何か知らないけど、独り言が止まらないんだよね。いやあ、参った参った!」  

門番は無言で俺を見つめ、しばらくしてこう呟いた。  

「……また"独白病"の感染者か。」  

「え?」  

門番が顔を曇らせた。  
「この世界では、一度独白を始めた者はもう戻れない。どこへ行っても喋り続け、最終的には言葉に呑まれて消えていくんだ。」  

俺の心臓が一瞬止まる。  
「それ、冗談だよな?」  

「冗談なものか。お前のような"独白者"は、いつか自分の言葉で自分を溶かし、存在そのものが消えてしまう。言葉とは刃だ。使いすぎれば、必ず自らを傷つける。」  

俺は思わず一歩後ずさった。だが、足が震えるのも構わず、言葉がまた溢れ出る。  

「まさか、そんなことってあるか? いや、どうしよう、どうしよう。黙ろうとしても黙れないなんて、これじゃあ地獄じゃないか! 何とか方法を見つけないと。いや、でもそんなの可能なのか? ああ、もうだめだ、だめだ、だめだ!」  

門番は静かに首を振る。  
「無駄だ。お前はもう、一人で喋り続けるしかない運命だ。」  

俺の言葉は止まらない。  
「いやいや、諦めるのはまだ早い! ほら、異世界ってことは奇跡とか魔法とか、まだ何かあるはずでしょ? 俺、まだやれるよな? なあ、そうだろ? なあ!?」  

門番はもう俺に背を向け、村の奥へと去っていった。  

――そして俺は、一人喋り続ける。  
言葉を止める術もなく、誰に届くこともなく。  
この身が尽きるその瞬間まで。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

処理中です...