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#54 止まらない独白
しおりを挟む気がつくと、俺は知らない森の中にいた。青い葉が風に揺れ、どこか甘い香りが漂っている。どうやら、噂の異世界転生というやつらしい。よくある展開だ。けれども、この状況は明らかにおかしい。
なぜなら、俺はずっと独り言を喋り続けているからだ。
「やれやれ、転生かよ。しかもまたファンタジー系だなんて……まあ、剣と魔法は悪くないけどさ。あー、せめて現代日本に戻れると思ったのに……」
喋りながら気づく。俺は言葉を止められない。口が勝手に動く。黙ろうとしても、喉の奥から言葉が次々と溢れ出る。
「ふう、まったく。これってもしかして、呪いか何かなのか? いや、冷静に考えよう。まず、この状況を整理するんだ。異世界に来た俺、そして止まらない独り言……」
俺は混乱しつつも、ひたすら声に出して考え続けた。森の木々がざわめく音の隙間さえ、独り言で埋まっていく。
「とにかく、誰かに会えば解決策が見つかるかもしれない。いや、そもそもこんなに独り言を言い続けてる時点で、正気を保てるのか俺? あー、でも……意外とこれ、悪くないな。ほら、自己分析が深まるし、孤独感も紛れるしな。うん、何事も前向きに捉えないとね!」
俺は歩き出した。
目の前に現れたのは、小さな村だ。村の入り口には門番のような男が立っている。
「おい、そこの旅人!」門番が声をかけてきた。
「どこから来たんだ?」
「いやー、どこって言われても、説明しにくいんだよな。ほら、俺、さっきまで日本にいて、ブラック企業で仕事してたんだけど、ふと気がついたらここにいてさ。それで何か知らないけど、独り言が止まらないんだよね。いやあ、参った参った!」
門番は無言で俺を見つめ、しばらくしてこう呟いた。
「……また"独白病"の感染者か。」
「え?」
門番が顔を曇らせた。
「この世界では、一度独白を始めた者はもう戻れない。どこへ行っても喋り続け、最終的には言葉に呑まれて消えていくんだ。」
俺の心臓が一瞬止まる。
「それ、冗談だよな?」
「冗談なものか。お前のような"独白者"は、いつか自分の言葉で自分を溶かし、存在そのものが消えてしまう。言葉とは刃だ。使いすぎれば、必ず自らを傷つける。」
俺は思わず一歩後ずさった。だが、足が震えるのも構わず、言葉がまた溢れ出る。
「まさか、そんなことってあるか? いや、どうしよう、どうしよう。黙ろうとしても黙れないなんて、これじゃあ地獄じゃないか! 何とか方法を見つけないと。いや、でもそんなの可能なのか? ああ、もうだめだ、だめだ、だめだ!」
門番は静かに首を振る。
「無駄だ。お前はもう、一人で喋り続けるしかない運命だ。」
俺の言葉は止まらない。
「いやいや、諦めるのはまだ早い! ほら、異世界ってことは奇跡とか魔法とか、まだ何かあるはずでしょ? 俺、まだやれるよな? なあ、そうだろ? なあ!?」
門番はもう俺に背を向け、村の奥へと去っていった。
――そして俺は、一人喋り続ける。
言葉を止める術もなく、誰に届くこともなく。
この身が尽きるその瞬間まで。
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