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#53 異世界株式会社
しおりを挟む目が覚めると、そこは普通のオフィスだった。
……いや、「普通」とは言い難い。机の上には水晶玉が並び、壁には剣や魔導書がずらりと並んでいる。天井からは小さな妖精たちが空を舞い、カリカリと何かの帳簿を付けていた。
「おお、ようこそ! 異世界株式会社ファンタズムへ!」
スーツ姿の人狼が爽やかな笑顔で近づいてきた。
「え、ここは……?」
俺は確か、ブラック企業で深夜まで働いていて、そのまま机で力尽きたはずだ。
「説明しよう! あなたは過労死しました。そして今、異世界で転生して、我が社の一員となったのです!」
人狼が嬉しそうに白い歯を見せる。
「な、なんで俺が転生してまで働かなきゃならないんだ!?」
「おっと、待ちたまえ。これはただの仕事ではない。我が社は魔王討伐プロジェクト、略して『MTP』を展開しているのだよ!」
「魔王討伐プロジェクト?」
スライドを操作しながら、人狼がプレゼンを始める。
「ここ異世界では、魔王を倒した者が莫大な利益を得る。しかし、個人の冒険者では非効率だ。そこで我が社は討伐事業を法人化し、装備の貸出、転職サポート、そして魔王攻略プランを提供しているのだ!」
俺の頭が追いつかない。つまり、俺は「異世界のサラリーマン」として、今度は魔王討伐に巻き込まれるわけだ。
「ちなみに、初任給は金貨20枚。成果報酬もつくし、昇進すればドラゴン級の福利厚生もあるぞ!」
「ドラゴン級の福利厚生ってなんだよ?」
「文字通り、社用ドラゴンのレンタルサービスだ!」
人狼は誇らしげに胸を張ったが、俺は正直なところ、ドラゴンに乗って通勤する未来を想像できなかった。
「……辞退はできないんですか?」
「無理だ。我が社に転生した以上、退職は"死"を意味する。そして死んでも再び転生し、また我が社で働く運命だ。これぞ、我々が誇る『エターナル・リテンション制度』!」
俺は絶望した。転生しても働き続けなければならないなんて、まさに地獄ではないか。
「では、配属は営業部だ。さあ、君には"魔王候補リスト"を渡そう。まずは次期魔王の心を掴んで、契約を取ってきてくれ!」
そう言って人狼は、にやりと笑いながら分厚い資料を手渡してきた。その表紙にはこう書かれていた。
「契約すれば、敵もクライアント」
異世界でも変わらない、仕事の波に呑まれていく俺。
ああ、いつになったら「人生の定時退社」は訪れるのだろうか。
早くも過労の未来が目に浮かんできた――。
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