🎊異世界転生が流行っているので１ミリも知らないけど書いてみたら何か良作が生まれた件 （▶20から毎日投稿挑戦開始）

#47 弓道は己の道である

異世界に転生してから数年が経った。私は、元々弓道部に所属していた高校生だったが、なぜかこの異世界では「風神の射手」として知られている。

「風を読む者よ、また的を射るか」

領主の館の前庭で訓練していると、見知った声が背後から響く。振り返ると、盟友の剣士カリスが笑みを浮かべて立っていた。

「そうだな、今日は風がいいからな」

この世界では、弓はただの武器ではない。魔力を弦に乗せて放つことで、矢は風と融合し、敵を貫く。私にとって、矢を放つという行為は、もはや呼吸のようなものだ。
しかし、最初は苦労した。魔法も、風の流れを読む感覚も、全てが異質だった。けれど、弓道で培った集中力と平常心が、私を支えてくれた。

カリスは、私の隣に座り込み、遠くの的を見つめる。

「お前が来てから、この国も変わったな。風の魔法なんて誰も使えなかったのに、今では軍の切り札だ」

「弓道とは、ただ的を射るだけの競技じゃない。心を整え、己を超えることが本質だ。それが、こっちでも役に立つとは思わなかったけどな」

言葉と同時に矢をつがえ、風を感じ取る。弓を引き絞り、目の前の空気が一瞬だけ静止する。放たれた矢は風を切り裂き、見事に遠方の的の中心を射抜いた。

「また的中か。お前の弓は神業だな」

カリスはため息をつくが、その目は感嘆している。

「的を射抜くのは簡単だが、心を射るのは難しい」

私は弓を下ろし、風の流れが再び自然に戻るのを感じながら、ふと遠い昔の日本を思い出す。

「この世界では、弓道はただの武器として扱われているけれど……僕にとっては、やっぱり道なんだ。心を鍛える道」

カリスは静かに頷き、立ち上がる。

「お前の道がどこまで続くか、見守ってやるさ」

風が再び強くなり、遠くの雲がゆっくりと動き始めた。私は弓を握り直し、次の的に向かって矢をつがえる。

「そうだな。この風が吹く限り、僕の道は続くよ」

異世界でも変わらないもの。それは、己の心と向き合うことの大切さなのだ。