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#36 理論値が全て
しおりを挟む「理論上、私はもう死んでいるはずだが、どういうわけか生きている。」
青年、ナオトは不思議な空間に立っていた。目の前に巨大な計算式が宙に浮かび、その先には異世界が広がっていた。
「ここは……どこだ?」
すると、白髪の老人が突然現れ、静かに言った。
「ここは『理論界』だ。すべての事象が理論上の限界を超えた世界……君が望んだものだろう?」
ナオトは高校時代から常に最善、すなわち「理論値」を追求してきた。それはゲームのスコアだけでなく、テストの点数や人間関係までもだ。しかし、現実はいつも理論通りにはいかない。
「俺が望んだって? どういうことだ?」
老人は微笑む。
「君は常に完璧な解を求めていた。しかし、理論値を求めるあまり、現実を無視してしまった。だから、ここに来たんだよ。」
ナオトは少し戸惑いながらも、目の前に浮かぶ計算式をじっと見つめた。
「この世界では……すべてが理論値通りに動くのか?」
老人は頷いた。
「そうだ。しかし、完璧な理論が必ずしも幸せをもたらすとは限らない。さあ、君がその目で確かめてみるといい。」
ナオトは理論値を信じていた。だが、異世界に降り立つとすぐにその考えは揺らぎ始めた。
戦場では、理論上無敵とされる兵士たちが完璧な戦術を駆使して戦っていた。しかし、彼らの目には生気がなかった。感情のない、ただ計算された動きだけが繰り広げられている。勝利は確実だが、誰も喜びを感じていない。
戦う大義を感じず、信念もなく、上層部からの指示に従っているだけだった。
「これが理論値の世界か………」
ナオトは悩んだ。理論上最善の選択が、必ずしも人間にとって最善ではないのではないか?
その時、一人の少女が現れた。彼女は微笑みながらナオトに近づき、言った。
「理論だけでは、心は満たされないわ。完璧を追い求めるあまり、大切なものを見失ってしまう。」
ナオトはその言葉に心を打たれた。
そして、気付いたのだ。この世界で求めていた「理論値」こそが、彼にとっての牢獄だったことを。
「俺は……理論じゃなくて、人間として生きたい。」
その瞬間、ナオトの周りの景色が崩れ、現実世界へと戻った。彼は、理論値を超えるものがあることを知り、その後の人生を少し違った視点で歩み始めた。
「理論じゃない感情の揺らぎこそが、俺たちを、そして世界を、本当に動かしているんだな……」
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