🎊異世界転生が流行っているので１ミリも知らないけど書いてみたら何か良作が生まれた件 （▶20から毎日投稿挑戦開始）

#34 電波塔の向こう側

「死ぬときはあっけないものだな……」

高層ビルから落ちる最中、西野はふとそんなことを考えた。
仕事のストレス、上司の罵声、彼女に振られたこと。すべての問題が風に消えていくて……と思った瞬間、目の前に巨大な電波塔が現れた。光が走り、強烈な電流が身体を貫いた。

目が覚めると、西野は見知らぬ草原に立っていた。周囲を見回すと、空高く伸びる巨大な電波塔が一本。だが、塔の先端にはアンテナの代わりに奇妙なクリスタルが輝いていた。

「ここはどこだ……？」

突然、背後から声がした。
「お前も電波塔に転生したか！」

振り返ると、動くテレビとラジオが立っている。彼らは一緒に電波塔の謎を解明する仲間だという。

「ここは電波の世界だ。俺たちは人間界の雑音や信号の残骸が転生した場所なんだ」
とテレビが説明する。
「でも、ここには電波の王がいる。そいつは我々を絶えず監視してるんだ。」

西野は「電波の王？」と聞き返した。

「そうだ。電波の王は、この世界のすべての信号を支配し、我々を束縛している。だが、君にはその支配を覆す力がある。君は“特別な周波数”を持っているからだ。」

西野は半信半疑だったが、なぜかその言葉に引き寄せられた。
そして、塔を目指して歩き出した。塔に近づくにつれ、耳元で奇妙な音が響く。それは古いラジオのノイズのようだった。やがてその音が言葉に変わった。

「戻りたいか？　人間の世界に。」

塔の内部には、無数のケーブルが絡み合い、まるで生き物のように脈動していた。中央に座っていたのは、電波の王。彼は西野に向かって手を伸ばす。

「お前の周波数を寄こせ。そうすれば、人間界に戻してやろう。」

だが西野は首を振った。
「俺は自分で道を切り開く。お前の支配には屈しない！」

その瞬間、彼の体が発光し、特別な周波数が放たれた。電波の王は崩れ落ち、塔全体が揺れ始めた。空には無数の信号が解放され、自由になった者たちの歓声が響き渡った。

「やった……」

そう思った瞬間、西野の視界が急激に白んでいき、再び目を開けると、自分の部屋に戻っていた。

携帯を見ると、電波のマークがいつもより一つ多かった。

「やれやれ、現実に戻ってこれたか……」
西野は苦笑し、携帯を握りしめた。

でも、その瞬間、携帯が低い電子音を放ち、西野に語りかけた。

「次の電波塔へようこそ。」

冒険はまだ始まったばかりらしい――。