上 下
31 / 100

#31 完璧な選択の結果

しおりを挟む
平凡なサラリーマン、田中は、残業からの帰り道、突如としてトラックに撥ねられ命を落とす――かと思われたが、気がつくと異世界の広場に立っていた。
目の前には天使のような美しい女性が微笑んでいる。

「あなたには、転生の特典としてスーパーヒーローの能力を与えます。どんな能力でも一つだけ選べます」

「スーパーヒーロー……?」
田中は戸惑った。しかし、憧れのヒーローになれるならと、子供の頃からの夢が蘇る。
「じゃあ……無限の力を持つスーパーパワーを!」

「承知しました。では、あなたは『全ての選択を完璧にする能力』を持つことになります」

田中は目を見開いた。
「え? スーパーパワーじゃなくて、選択の能力?」

「そうです。この世界で最も重要なのは、何を選ぶかということ。あなたは今後、一切の失敗をしない選択を行うことができるのです。これ以上に強力な力はありません」

その言葉に一瞬戸惑ったものの、田中は異世界での新生活に胸を膨らませた。
「まあいいか、それなら安心だ」

転生後、彼は騎士や冒険者たちに囲まれ、モンスター退治や国の危機に巻き込まれることとなる。
しかし、田中はどんな場面でも絶対に最適な選択をした。戦いにおいては一撃でモンスターを倒し、政治的な陰謀も一瞬で解決。人々は彼を「完璧な英雄」と称賛した。

だが、時間が経つにつれ、田中の心には疑問が芽生え始めた。
「自分はただ、正しい選択をしているだけで、本当の意味で何かを成し遂げているのだろうか?」

英雄としての栄光は次第に虚しいものに変わっていった。全てが予測通りで、驚きや挑戦が一切ない。彼の人生は、単なる「選択の結果」に過ぎないものとなっていた。

ある日、田中は宿屋の窓から広がる星空を見上げながら、静かに呟いた。
「完璧な選択なんて、いらなかったんだ。失敗や苦しみも、人生には必要なんだよな……」

そして、彼はその瞬間、自分のスーパーパワーを放棄する選択をした。

スーパーパワーを放棄する選択をした瞬間、田中の体に何かが走った。

次の瞬間、彼はどこか見知らぬ場所にいた。薄暗い路地の先に見覚えのある看板が見える――居酒屋のネオンが瞬いている。

「ここは……?」
田中は自分の服装を見下ろすと、スーツ姿の自分に気づいた。
「元の世界だ…!」

まさか、異世界から戻ってきたのか? 驚きのあまり、しばし立ち尽くしていた田中だが、ふと道端の反対側に目をやると、またしてもトラックが猛スピードで迫ってくる。

「ま、またか!」

思わず飛び退こうとしたが、その瞬間、田中の思考は奇妙にスローになり、自分がどう動くべきか完璧にわかる感覚が蘇ってきた。避ける場所、タイミング、すべてが瞬時に計算されていた。

「選択の能力が……まだ?」

とっさに横へ飛び退き、無事にトラックを避けた。しかし、田中はすぐに悟った。能力は消えていなかったのだ。彼が自分の意志でそれを放棄したと「選択」したこと自体が、またしても完璧な選択だったのだ。

田中はため息をつき、ふと空を見上げた。星一つない夜空が広がっている。  
「結局、どこに行ってもこれかよ……」

だが、すぐにニヤリと微笑んだ。
「ま、これが俺の人生ってことか」

彼はそのまま夜の街に消えていった――二度と失敗しない人生を、楽しむ覚悟を決めて。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...