🎊異世界転生が流行っているので１ミリも知らないけど書いてみたら何か良作が生まれた件 （▶20から毎日投稿挑戦開始）

#28 陰口の囁き

佐藤翔太は、職場の人間関係に悩んでいた。
どこに行っても、誰かが彼の悪口を言っている気がした。実際、裏で囁かれる陰口が彼の心を蝕み、次第に職場へ向かうのが苦痛になっていた。

そんなある日、突然の頭痛と共に視界が暗転し、気づけば見知らぬ場所にいた。目の前には美しいが、どこか不気味な街並み。石畳の道を歩く人々は、皆なにやら囁きあっている。翔太は不安に駆られ、辺りを見回したが、自分のいる場所が全くわからなかった。

「ここはどこだ……？」

その時、声が頭の中に響いた。
「ここは『陰界』だ。陰口によって生まれた者たちが集う場所。お前は、己の影に囚われ、ここに導かれたのだ。」

翔太は驚き、声の主を探すが、周りには誰もいない。ただし、街の住民たちは皆、彼を一瞥すると再び囁きあっていた。それはまるで、全員が彼についての噂をしているかのようだった。

「また陰口かよ……」

翔太がため息をつくと、突然、一人の男が彼に近づいてきた。背の高いその男は笑いながら言う。

「ようこそ陰界へ。お前のように、陰口に囚われた者がここに来ることは珍しくない。」

「俺は、ただ普通に暮らしていただけなのに……」

「それが陰口というものだ。お前が何をしようと、どこにいようと、影は必ずつきまとう。だが、ここでは違う。陰口を操れば、この世界を支配する力を手に入れられる。」

「陰口を操る？」

男は頷き、指を鳴らす。すると、近くで囁き合っていた人々がピタリと動きを止め、男の方に目を向けた。

「見ていろ。」
男は声を低くして、何かを囁いた。その瞬間、囁いた人物が膝をつき、苦しみ始めたのだ。

「ここでは、陰口が力となる。人の影に隠れた言葉を巧みに使えば、相手を屈服させることができるんだ。」

翔太は驚きと戸惑いで言葉を失ったが、次第に一つの考えが頭をよぎった。
「もしこの力を手に入れれば、あの職場の奴らに復讐できるかもしれない……」

「その力、俺にも教えてくれないか？」
翔太は静かに尋ねた。

男は満足げに笑い、「もちろんだ」と答えた。

数日後、翔太は陰口を自在に操る術を身につけ、異世界の住民たちを次々と支配していった。彼は陰界での地位を確立し、あらゆる人々を自分の囁きで操る存在へと成長していった。

しかし、ふと彼は気づく。自分が陰口を囁かれる側に立たされた瞬間の、あの冷たい視線、そして終わらない囁きが、今も彼の周囲で続いていることを。

翔太は、陰界の頂点に立ちながらも、終わりなき陰口の渦に囚われ続ける運命を背負ったのだ。

「陰口から逃れることはできない……」
そう呟いた彼の声は、すでに陰界そのものの囁きとなっていた。
当分元の世界には帰れそうになかった……。