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#27 異世界の月見団子
しおりを挟む転生した先は、静かで穏やかな異世界だった。草原が広がり、空には巨大な満月が浮かんでいる。どこか懐かしく、けれど見たことのない風景に、僕は一人ぼっちで立っていた。
「ここはどこだ……?」
ふと、手の中に温かいものがあることに気づく。見下ろすと、柔らかくて白い、まるで宝石のように輝く月見団子があった。僕は思わず懐かしさに目を細める。
そうだ、僕は月見の夜、家族と一緒に団子を食べていた。だが突然、目の前が真っ暗になり、気がついたらここにいたのだ。
その時、遠くから少女の声が聞こえてきた。
「その団子を食べると、元の世界に帰れるのよ。」
振り向くと、満月の光を浴びた少女が立っていた。月のように白い髪が風に揺れている。彼女は続けた。
「この世界では、月見団子には特別な力が宿っているの。満月に願いをかけながら食べると、どんな願いも叶うって。」
僕は思わずその団子を見つめた。家族のもとに帰りたい、そんな思いが胸をよぎる。しかし、その瞬間、少女が寂しげに笑った。
「でも……一つだけ条件があるの。あなたがその団子を食べると、私は消えてしまうの。」
「どういうことだ?」
「私は、この世界に閉じ込められた魂の一部。あなたが帰るためには、私がその役目を果たさなきゃならないの。」
僕は言葉を失った。目の前にいる彼女が消える――それは、まるで彼女が犠牲になるように思えた。しかし、彼女は優しく微笑む。
「私も、ずっとここで満月を見ていたの。でも、誰かの願いを叶えることでしか、私の存在には意味がない。だからお願い、あなたの願いを叶えさせて。」
その言葉に、僕は月見団子を手に取り、空に浮かぶ満月を見上げた。家族の笑顔が浮かぶ。帰りたいという思いは強いが、彼女を消すことはどうしてもできなかった。
「僕は……帰らないよ。」
少女は驚いたように目を見開いた。
「なんで? 帰りたいはずでしょう?」
僕は微笑んで、月見団子を半分に割った。
「僕が帰れないなら、せめて半分ずつ食べよう。そうすれば、どちらの願いも叶わないけれど、少しでも一緒にいられるだろう?」
少女はしばらく黙っていたが、やがて涙を浮かべてうなずいた。そして、僕たちは一緒に月見団子を口にした。
その瞬間、満月が一層輝きを増し、世界が光に包まれた。気がつくと、僕は元の世界の月見の夜に戻っていた。しかし、手には半分だけ残った月見団子があった。
僕は空を見上げ、満月に向かってそっと祈った。
「ありがとう。君の願いも、いつか叶うように。」
その夜の月は、いつもより少しだけ、優しく輝いていた。
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