前略、神です。

好永アカネ

文字の大きさ
上 下
1 / 2

前略、神です。

しおりを挟む
 ある森の高い高い木のてっぺんに、神様がいました。
 一緒に暮らしていた女神様がずいぶん前に地上に降りてしまったので、今はたった独りでぼんやりと日々を過ごしていました。
 ある日ふと寂しくなった神様は、女神様に手紙を書くことにしました。

——前略、神です。
——そちらの暮らしはどうですか? たまには帰って来て話を聞かせてください。
——草々

 神様は書いた手紙でテキパキと紙ヒコーキを作り、ぽいっと下に向かって投げました。
 紙ヒコーキはまっすぐどこかに飛んで行きました。

 次の日、神様はそわそわしていました。もしかしたら手紙を見た女神様が帰ってくるかもしれないと考えて、ちょっと早起きして住処を掃除したほどです。
 しかし何も起こらないまま昼になり、夕方になって日が沈み始めました。
 神様がため息をついて横になると、枕元に一匹のリスがやってきました。
「おや、珍しいお客さんだ。こんな時間にどうしたね?」
 リスはチチ、と鳴くと、頬袋からどんぐりをひとつ吐き出して、一目散に木を降りて行ってしまいました。
「おーい忘れ物だよ」
 そのうち戻ってくるだろうと考えて、神様はどんぐりをそのままにしておきました。

 次の日も神様は朝早くから起き出して女神様を待っていましたが、帰ってくる気配はありませんでした。
 日没になるとまたリスがやってきました。
 神様は薄く目を開けて寝たふりをしていました。
 リスはちょっとずつ神様に近づいてくるとどんぐりをひとつ吐き出して、昨日のどんぐりの横に並べました。そしてまた木を降りて行ってしまいました。
「どうしたんだろう。また置いて行ってしまったぞ」
 神様は首を傾げました。

 次の日は雨でした。
 女神様は雨が嫌いだったので、今日は帰ってこないだろうと神様は考えました。
 そこで、今のうちとばかりにゴロゴロ、ダラダラしていたら眠ってしまい、目を覚ました時にはすっかり辺りが暗くなっていました。
 いつの間にかどんぐりの数がひとつ増えて、3つになっていました。眠っている間にリスが来たようです。
「うーん、ここに巣でも作る気かな」
 神様はちょっと心配になって来ましたが、今のところとくに問題はないので気にしないことにしました。リスがどんぐりを置いているのは以前女神様が寝ていた場所なので、女神様が帰って来てからなんとかしよう、と。

 また次の日、神様が待ち構えているとやっぱりリスがやって来ました。
 リスは神様が見ていることなど全く意に介していないような様子で、今日もどんぐりをひとつ吐き出しました。
「リスや、そろそろ片付けたらどうかね」
 リスはチチ、と鳴くばかりです。
「もしかしてわたしへの贈り物かね?」
 リスはまたチチ、と鳴いて帰って行きました。
 どんぐりは4つになりました。

 次の日もやって来たリスに、神様は両手いっぱいの木の実を差し出しました。
「ゆっくりしておいき」
 リスは嬉しそうに木の実を貪り、食べきれなかった分を頬袋にいっぱいに詰めて重たそうに帰って行きました。
 神様は5つ並んだどんぐりを見てにっこり笑うと、眠りにつきました。

 次の日、神様は独りでした。
 もうすっかり日が落ちたのに、女神様はおろかリスさえも来ませんでした。
 神様はぼんやりとどんぐりを手の中で転がしていました。すると、
「む?」
 どんぐりに傷がついていることに気付きました。目の前に持って来てよくよく見ると、文字のようにも見えます。
「むむむ?」
 神様は5つのどんぐりを、リスが運んで来た順番にじっくり観察してみました。

 め え る し ろ

 めえる しろ

 メール しろ

「……おぉ」
 神様はポンと手を打って懐から折りたたみ式の携帯電話を取り出すと、ぎこちない手つきでいくつかボタンを押し、耳に当てました。

 プルルルル… プルルルル… ピッ

「あ、もしもし…」
「なんで電源を入れてないんだい!!」
 耳元から突然大きな声が聞こえたので神様は怯みました。
「わ、忘れて…」
「イマドキ紙ヒコーキとかふざけとるんか!メールせんか!メールを!前に教えただろう!」
「だってよくわかんないんじゃもん…」
「全知全能じゃないんかい!」
 神様はぐうの音も出ませんでした。
「ごめんなさい…」
「そもそも近況はインスタに全部あげとるからわざわざ話すことなんぞないわ。っつうかメールも面倒じゃからさっさとLINE登録しておくれよ」
「いんすた?ラーメン?」
「インスタントじゃない!インスタグラム!全くこれだからジジイは…」
「女神ちゃんもババアじゃん」
「神ちゃんといっしょにするな!まだまだ若いもんには負けんわ!」

 その晩、神様は遅くまで女神様と通話していました。内容はほとんどお説教だったので神様のメンタルはズタボロになりましたが、久しぶりに女神様の声が聞けて嬉しそうでした。
 次の日、女神様が帰って来て言いました。
「スマホ買いに行くよ!40秒で支度しな!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...