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アレク編
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「さて、行こうか」
ジョージが立ち上がって歩き出した。足取りには確固とした自信が感じられる。
アレクは彼を追いながら、背中に声をかけた。
「魔法使いのいるところに向かってるんですよね?」
「そうだよ。俺とフリードの共通の友人がこの先に住んでるんだ。彼女もフリードのことを気にかけていたから、きっと君の力になってくれるはずだ。
……この街にいるなら、ね」
最後の一言は半ば独り言のように口の中で囁かれたものだったので、アレクの耳には入らなかった。
アレクは、会いに行こうとしているのが女性と知って少しドキドキしてきた。魔法使いは怖かったが、あの兄の友人なら優しい人かもしれないと思えた。
やがて広い空間に出た。
人通りはまばらだが、アレクが今日見た中で最も道幅が広い。これなら大きめの馬車でも余裕を持ってすれ違えるだろう。
二人はしばらく道の端を歩き、いくつかの大きな建物を右手に見送ってから、あるドアの前で立ち止まった。表札がかかっており、掠れた字でこう書かれている。
『ロウのゴーレム研究所』
(ゴーレムって、魔法で動く人形のことだっけ?)
アレクは故郷に思いを馳せた。
いつだったか、知り合いの農家がゴーレムを調達してきたことがあった。一抱えほどもある大きな岩がいくつも積み重なってできた、巨大な馬みたいな形をしていた。知人はそれに農作業を手伝わせようとしたのだが、ゴーレムは動き出してすぐに誤って転倒し、バラバラになってしまった。
大変だったのはその後だ。ゴーレムを修理する方法なんて誰も知らなかったものだから、畑のど真ん中に積み上がった岩をどうすることもできなかった。結局、村でたった一人の魔法使いである年老いた医者を引っ張ってきて、岩を片付けてもらった。
それを機に故郷では、「魔法に関わるべからず」という暗黙の掟が生まれたようだった。自分の手に負えないものは持つべきではない、ということである。
ジョージは二度ノックしてからドアノブに手をかけた。が、びくともしない。
「開かないな」
「留守ですか?」
「いや、人はいるみたいだ」
ジョージの視線を追うと、横に続く白塗りの壁の高いところに、いくつか四角い穴が並んでいた。どうやら明り取りの窓のようだ。じっとガラスの向こうを見ていると、時折色鮮やかな光が明滅しているのがわかる。
アレクがぼうっと見とれている間にジョージはドアの前から退いて、アレクを呼んだ。
「ちょっと呼びかけてみてよ」
「……え? 僕がですか?」
「そう、君が」
言って、ジョージはいたずらっ子がするようにニコッと笑った。
(サプライズでもしたいのかな)
アレクは不思議に思いながらもドアの前に立った。深く息を吸ってから、ドアを叩いて少し大きめに声を出す。
「すみません、誰かいませんか?」
すみませ~ん、と繰り返し言うと、ドアの向こうから「はーい!」と若い女性の声が聞こえたので、アレクは口を閉じて腕を下ろした。
しばらく待っているとガチャリと音がして、こちらに向かってゆっくりとドアが開いた。
ジョージが立ち上がって歩き出した。足取りには確固とした自信が感じられる。
アレクは彼を追いながら、背中に声をかけた。
「魔法使いのいるところに向かってるんですよね?」
「そうだよ。俺とフリードの共通の友人がこの先に住んでるんだ。彼女もフリードのことを気にかけていたから、きっと君の力になってくれるはずだ。
……この街にいるなら、ね」
最後の一言は半ば独り言のように口の中で囁かれたものだったので、アレクの耳には入らなかった。
アレクは、会いに行こうとしているのが女性と知って少しドキドキしてきた。魔法使いは怖かったが、あの兄の友人なら優しい人かもしれないと思えた。
やがて広い空間に出た。
人通りはまばらだが、アレクが今日見た中で最も道幅が広い。これなら大きめの馬車でも余裕を持ってすれ違えるだろう。
二人はしばらく道の端を歩き、いくつかの大きな建物を右手に見送ってから、あるドアの前で立ち止まった。表札がかかっており、掠れた字でこう書かれている。
『ロウのゴーレム研究所』
(ゴーレムって、魔法で動く人形のことだっけ?)
アレクは故郷に思いを馳せた。
いつだったか、知り合いの農家がゴーレムを調達してきたことがあった。一抱えほどもある大きな岩がいくつも積み重なってできた、巨大な馬みたいな形をしていた。知人はそれに農作業を手伝わせようとしたのだが、ゴーレムは動き出してすぐに誤って転倒し、バラバラになってしまった。
大変だったのはその後だ。ゴーレムを修理する方法なんて誰も知らなかったものだから、畑のど真ん中に積み上がった岩をどうすることもできなかった。結局、村でたった一人の魔法使いである年老いた医者を引っ張ってきて、岩を片付けてもらった。
それを機に故郷では、「魔法に関わるべからず」という暗黙の掟が生まれたようだった。自分の手に負えないものは持つべきではない、ということである。
ジョージは二度ノックしてからドアノブに手をかけた。が、びくともしない。
「開かないな」
「留守ですか?」
「いや、人はいるみたいだ」
ジョージの視線を追うと、横に続く白塗りの壁の高いところに、いくつか四角い穴が並んでいた。どうやら明り取りの窓のようだ。じっとガラスの向こうを見ていると、時折色鮮やかな光が明滅しているのがわかる。
アレクがぼうっと見とれている間にジョージはドアの前から退いて、アレクを呼んだ。
「ちょっと呼びかけてみてよ」
「……え? 僕がですか?」
「そう、君が」
言って、ジョージはいたずらっ子がするようにニコッと笑った。
(サプライズでもしたいのかな)
アレクは不思議に思いながらもドアの前に立った。深く息を吸ってから、ドアを叩いて少し大きめに声を出す。
「すみません、誰かいませんか?」
すみませ~ん、と繰り返し言うと、ドアの向こうから「はーい!」と若い女性の声が聞こえたので、アレクは口を閉じて腕を下ろした。
しばらく待っているとガチャリと音がして、こちらに向かってゆっくりとドアが開いた。
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