魔法仕掛けのルーナ

好永アカネ

文字の大きさ
上 下
23 / 25
アレク編

訪問者 5

しおりを挟む
「さて、行こうか」
 ジョージが立ち上がって歩き出した。足取あしどりには確固かっことした自信が感じられる。
 アレクは彼を追いながら、背中に声をかけた。
「魔法使いのいるところに向かってるんですよね?」
「そうだよ。俺とフリードの共通の友人がこの先に住んでるんだ。彼女もフリードのことを気にかけていたから、きっときみちからになってくれるはずだ。
 ……このまちにいるなら、ね」
 最後の一言ひとことなかひとごとのようにくちの中でささやかれたものだったので、アレクの耳にははいらなかった。
 アレクは、会いに行こうとしているのが女性と知って少しドキドキしてきた。魔法使いは怖かったが、あの兄の友人なら優しいひとかもしれないと思えた。
 やがて広い空間に出た。
 人通ひとどおりはまばらだが、アレクが今日きょう見た中で最も道幅みちはばが広い。これなら大きめの馬車でも余裕を持ってすれ違えるだろう。
 二人はしばらく道のはしを歩き、いくつかの大きな建物たてものを右手に見送ってから、あるドアの前で立ち止まった。表札ひょうさつがかかっており、かすれた字でこう書かれている。

『ロウのゴーレム研究所』

(ゴーレムって、魔法で動く人形のことだっけ?)
 アレクは故郷こきょうに思いをせた。

 いつだったか、知り合いの農家のうかがゴーレムを調達ちょうたつしてきたことがあった。一抱ひとかかえほどもある大きな岩がいくつもかさなってできた、巨大な馬みたいな形をしていた。知人ちじんはそれに農作業のうさぎょうを手伝わせようとしたのだが、ゴーレムは動き出してすぐにあやまって転倒てんとうし、バラバラになってしまった。
 大変だったのはそのあとだ。ゴーレムを修理しゅうりする方法なんて誰も知らなかったものだから、はたけのど真ん中に積み上がった岩をどうすることもできなかった。結局、村でたった一人の魔法使いである年老としおいた医者を引っ張ってきて、岩を片付けてもらった。
 それをに故郷では、「魔法にかかわるべからず」という暗黙あんもくおきてが生まれたようだった。自分の手に負えないものは持つべきではない、ということである。

 ジョージは二度ノックしてからドアノブに手をかけた。が、びくともしない。
かないな」
「留守ですか?」
「いや、人はいるみたいだ」
 ジョージの視線を追うと、横に続く白塗しろぬりの壁の高いところに、いくつか四角い穴が並んでいた。どうやらあかり取りの窓のようだ。じっとガラスの向こうを見ていると、時折ときおり色鮮いろあざやかな光が明滅めいめつしているのがわかる。
 アレクがぼうっと見とれている間にジョージはドアの前から退いて、アレクを呼んだ。
「ちょっと呼びかけてみてよ」
「……え? 僕がですか?」
「そう、君が」
 言って、ジョージはいたずらっ子がするようにニコッと笑った。
(サプライズでもしたいのかな)
 アレクは不思議に思いながらもドアの前に立った。深く息を吸ってから、ドアをたたいて少し大きめに声を出す。
「すみません、誰かいませんか?」
 すみませ~ん、と繰り返し言うと、ドアの向こうから「はーい!」と若い女性の声が聞こえたので、アレクはくちを閉じて腕をろした。
 しばらく待っているとガチャリと音がして、こちらに向かってゆっくりとドアが開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに 撥ねられてしまった。そして良太郎 が目覚めると、そこは異世界だった。 さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、 ゴーレムと化していたのだ。良太郎が 目覚めた時、彼の目の前にいたのは 魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は 未知の世界で右も左も分からない状態 の良太郎と共に冒険者生活を営んで いく事を決めた。だがこの世界の裏 では凶悪な影が……良太郎の異世界 でのゴーレムライフが始まる……。 ファンタジーバトル作品、開幕!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...