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アレク編
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アレクは控えめにあたりを見回した。
通りから向かって正面、右側に戸があった。その他の壁面にはいくつも木の板が打ち付けられ、棚のようになっている。が、ほとんど何も置かれていない。どれも高い位置にあり、手前を天井から紐で吊って安定させているようだ。
視界の端で何か動いた気がしたので何の気なしに振り返ると、棚の上で丸くなっていたまだら模様の猫が、ゆっくりと瞬きをしたところだった。
えらくどっしりとして貫禄がある猫である。アレクは、そこに生き物がいることに今の今まで気が付かなかったことに驚いた。
猫はおもむろに立ち上がると、音もなく棚の上を駆けていって、男のつるりとした頭目掛けて飛び降りた。着地の瞬間、男の首が前の方にがくりと折れた。猫は、男が差し出した手のひらに何かを吐き出すと、地面に降りて、ゆっくりと外に歩いていってしまった。
男は猫の口から出てきたものをハンカチで拭きながら、慎重に二人に近付いてくる。
「どっちが使うんだ?」
「俺だ」
返事をしたのはジョージだ。アレクは居心地悪そうに、ジョージと男の顔を代わりばんこに見つめている。
男は、頷く代わりにふっと小さくため息をついて、何かをハンカチの上に乗せてジョージの方へ差し出した。
それは一見ビー玉のようだった。暗い青色で、ツルツルしている。しかし完全な球体ではなく、てっぺんがほんの少しくぼんでいて、そこを正面として見ると、外周に沿っていくつも細かい穴が空いているようだった。
ジョージがくぼみに指を乗せると、ほどなくして球体が内側から赤く輝きだした。それを見たアレクは「おや?」と思って顔を寄せる。するとそのタイミングを見計らったかのように、シューッと音を立てながら球体の全ての穴から煙が噴き出したので、アレクは驚いて「うわぁ」と情けない声を上げてしまった。
(な、なんだこれ!?)
身構えているアレクの前で、白かった煙は瞬きながら濃い紫色に変わり、天井付近で渦を巻いて集まった。まるで小さな雲だ。この頃には、球体は男の手でハンカチに包まれている。
しばらく見ていると、紫色の煙は徐々に下に向かって平たく伸びていき、カーテンのように目の前に広がった。
ジョージが呆然としているアレクの後ろに回って、飄々と言った。
「よし行こう。さあ、あれに向かって歩いて」
「え!? 行くって……どういう……?」
「いいからいいから」
ジョージが後ろからトントンと背を叩いてきたので、アレクは戸惑いながらも足を前に踏み出した。煙のカーテンは目と鼻の先だ。彼は覚悟を決めてぎゅっとまぶたを閉じ、大股歩きでその向こう側に抜けた。
煙がねっとりと肌にまとわりついてくるとか、息ができなくなるとか、想像していた不快感は何もなかった。むしろ清々しい。肌に、風と陽の光を感じる。ざわざわと葉擦れの音すら聞こえてきそうな気がする。いや、確かに聞こえる。
「あ、あれ?」
まぶたを開くと、そこは屋外だった。
通りから向かって正面、右側に戸があった。その他の壁面にはいくつも木の板が打ち付けられ、棚のようになっている。が、ほとんど何も置かれていない。どれも高い位置にあり、手前を天井から紐で吊って安定させているようだ。
視界の端で何か動いた気がしたので何の気なしに振り返ると、棚の上で丸くなっていたまだら模様の猫が、ゆっくりと瞬きをしたところだった。
えらくどっしりとして貫禄がある猫である。アレクは、そこに生き物がいることに今の今まで気が付かなかったことに驚いた。
猫はおもむろに立ち上がると、音もなく棚の上を駆けていって、男のつるりとした頭目掛けて飛び降りた。着地の瞬間、男の首が前の方にがくりと折れた。猫は、男が差し出した手のひらに何かを吐き出すと、地面に降りて、ゆっくりと外に歩いていってしまった。
男は猫の口から出てきたものをハンカチで拭きながら、慎重に二人に近付いてくる。
「どっちが使うんだ?」
「俺だ」
返事をしたのはジョージだ。アレクは居心地悪そうに、ジョージと男の顔を代わりばんこに見つめている。
男は、頷く代わりにふっと小さくため息をついて、何かをハンカチの上に乗せてジョージの方へ差し出した。
それは一見ビー玉のようだった。暗い青色で、ツルツルしている。しかし完全な球体ではなく、てっぺんがほんの少しくぼんでいて、そこを正面として見ると、外周に沿っていくつも細かい穴が空いているようだった。
ジョージがくぼみに指を乗せると、ほどなくして球体が内側から赤く輝きだした。それを見たアレクは「おや?」と思って顔を寄せる。するとそのタイミングを見計らったかのように、シューッと音を立てながら球体の全ての穴から煙が噴き出したので、アレクは驚いて「うわぁ」と情けない声を上げてしまった。
(な、なんだこれ!?)
身構えているアレクの前で、白かった煙は瞬きながら濃い紫色に変わり、天井付近で渦を巻いて集まった。まるで小さな雲だ。この頃には、球体は男の手でハンカチに包まれている。
しばらく見ていると、紫色の煙は徐々に下に向かって平たく伸びていき、カーテンのように目の前に広がった。
ジョージが呆然としているアレクの後ろに回って、飄々と言った。
「よし行こう。さあ、あれに向かって歩いて」
「え!? 行くって……どういう……?」
「いいからいいから」
ジョージが後ろからトントンと背を叩いてきたので、アレクは戸惑いながらも足を前に踏み出した。煙のカーテンは目と鼻の先だ。彼は覚悟を決めてぎゅっとまぶたを閉じ、大股歩きでその向こう側に抜けた。
煙がねっとりと肌にまとわりついてくるとか、息ができなくなるとか、想像していた不快感は何もなかった。むしろ清々しい。肌に、風と陽の光を感じる。ざわざわと葉擦れの音すら聞こえてきそうな気がする。いや、確かに聞こえる。
「あ、あれ?」
まぶたを開くと、そこは屋外だった。
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