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アレク編
訪問者 2
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脇道に足を踏み入れたのは、ちょうどアレクが二つ目のサンドイッチを食べ終わった頃だった。大人二人が並んで手を伸ばせば壁から壁に手が届きそうな、細い道である。右方向に緩やかにカーブしており、先が見えない。ついさっき通り過ぎた地味な戸は、民家の戸だろうか?
やや先行して歩いているジョージは涼しい顔をしている。右手にぶら下げている紙袋には、まだ確かな重みがありそうだ。
「お、いたいた」
彼が独り言のように呟いたので、アレクは視線を彼から前に戻した。
左側の壁面に、ぽっかり空いた暗い穴蔵のような、店舗らしきものが見えてきた。とは言ってもは中はがらんとしていて、売り物らしきものは見当たらない。通りにわずかにせり出した日除けテントの色が派手なので、なんとなく民家には見えないだけである。
テントの下に人影があった。
近付くにつれその人物の風貌が明らかになってくると、アレクは思わず生唾を飲んだ。
揺り椅子にどっしりと腰掛けてうとうとしていたのは、スキンヘッドの大男だった。顔にも、頭にも、引っ掻いたような生々しい傷跡がいくつもある。
アレクはそっとジョージに囁いた。
「あの人が、その……『当て』ですか?」
「いいや? ちょっと仕事をしてもらうだけだよ」
アレクはそれを聞いて内心ホッとしたが、顔には出さなかった。表向きには「ふうん」と軽く頷いただけだ。
間も無く、スキンヘッドの男にあと数歩というところまで近付いて足を止めると、ジョージが口を開いた。
「よう、やってるかい」
男の眉間にしわがより、まぶたがゆっくりと開かれる。
「ああ? 見りゃぁわか……」
藪睨みの黒い瞳がジョージの笑顔を捉えた途端、表情が凍りついた。アレクは、彼が口の中で「ミスター・ビー」と言ったのを確かに聞いた。
男は慌てて腰を浮かしながらアレクに目をやったが、ほんの一瞬だった。しかめっ面で、ジョージに向かって言う。
「何の用だ?」
「おいおい寝ぼけてるのか? 俺たちは客だよ。七番ゲートの方に送ってくれ」
(ゲート? 都を出るのか?)
この街は平野にほぼ円形状に広がっていて、一部を除いて外壁に囲まれている。出入りするための扉は十二箇所あり、真北に位置するものを十二として時計回りに番号で呼ばれているのだった。
七番ゲートは街の南、やや西にある。北の森に通ずる扉は一番に当たり、ここはその近くなので、七番ゲートは街の反対側だ。
「……片道か?」
「往復だ。金の方はツケといてくれ」
「っ、ふざけんな! 金がないなら帰れ!」
「そんなこと言うなって。頼むよ、急ぎなんだ。この間かわいい子紹介してやったじゃないか」
「商売女に紹介も何もあるかよ!」
男は、肩を組もうと近付いてくるジョージから仰け反るようにして逃げた。ばたばたと足音を鳴らして暗い店内に入り、壁に背をつけてジョージを睨みつける。アレクはそれを見て呆気にとられた。まるで、触れられたら一巻の終わりとでも思っていそうな慌てようだった。
(どうしてそんなに怯えているんだ?)
対するジョージは笑みすら浮かべている。
「でも彼女、よかったろ?」
男は何か言いたげに口をもごもごさせたが、ついに観念した表情になって投げやりに叫んだ。
「わかったもういい! さっさと俺の前から消えてくれ!」
「オーケイ、よろしく」
ジョージは振り向いて、アレクに手招きした。二人は連れ立って暗い屋根の下に入っていった。
やや先行して歩いているジョージは涼しい顔をしている。右手にぶら下げている紙袋には、まだ確かな重みがありそうだ。
「お、いたいた」
彼が独り言のように呟いたので、アレクは視線を彼から前に戻した。
左側の壁面に、ぽっかり空いた暗い穴蔵のような、店舗らしきものが見えてきた。とは言ってもは中はがらんとしていて、売り物らしきものは見当たらない。通りにわずかにせり出した日除けテントの色が派手なので、なんとなく民家には見えないだけである。
テントの下に人影があった。
近付くにつれその人物の風貌が明らかになってくると、アレクは思わず生唾を飲んだ。
揺り椅子にどっしりと腰掛けてうとうとしていたのは、スキンヘッドの大男だった。顔にも、頭にも、引っ掻いたような生々しい傷跡がいくつもある。
アレクはそっとジョージに囁いた。
「あの人が、その……『当て』ですか?」
「いいや? ちょっと仕事をしてもらうだけだよ」
アレクはそれを聞いて内心ホッとしたが、顔には出さなかった。表向きには「ふうん」と軽く頷いただけだ。
間も無く、スキンヘッドの男にあと数歩というところまで近付いて足を止めると、ジョージが口を開いた。
「よう、やってるかい」
男の眉間にしわがより、まぶたがゆっくりと開かれる。
「ああ? 見りゃぁわか……」
藪睨みの黒い瞳がジョージの笑顔を捉えた途端、表情が凍りついた。アレクは、彼が口の中で「ミスター・ビー」と言ったのを確かに聞いた。
男は慌てて腰を浮かしながらアレクに目をやったが、ほんの一瞬だった。しかめっ面で、ジョージに向かって言う。
「何の用だ?」
「おいおい寝ぼけてるのか? 俺たちは客だよ。七番ゲートの方に送ってくれ」
(ゲート? 都を出るのか?)
この街は平野にほぼ円形状に広がっていて、一部を除いて外壁に囲まれている。出入りするための扉は十二箇所あり、真北に位置するものを十二として時計回りに番号で呼ばれているのだった。
七番ゲートは街の南、やや西にある。北の森に通ずる扉は一番に当たり、ここはその近くなので、七番ゲートは街の反対側だ。
「……片道か?」
「往復だ。金の方はツケといてくれ」
「っ、ふざけんな! 金がないなら帰れ!」
「そんなこと言うなって。頼むよ、急ぎなんだ。この間かわいい子紹介してやったじゃないか」
「商売女に紹介も何もあるかよ!」
男は、肩を組もうと近付いてくるジョージから仰け反るようにして逃げた。ばたばたと足音を鳴らして暗い店内に入り、壁に背をつけてジョージを睨みつける。アレクはそれを見て呆気にとられた。まるで、触れられたら一巻の終わりとでも思っていそうな慌てようだった。
(どうしてそんなに怯えているんだ?)
対するジョージは笑みすら浮かべている。
「でも彼女、よかったろ?」
男は何か言いたげに口をもごもごさせたが、ついに観念した表情になって投げやりに叫んだ。
「わかったもういい! さっさと俺の前から消えてくれ!」
「オーケイ、よろしく」
ジョージは振り向いて、アレクに手招きした。二人は連れ立って暗い屋根の下に入っていった。
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