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フリード編
ジョージ・ホーネット2
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陽が昇り賑わい始めた通りを一つ一つ、通り抜けて行く。
雑踏に包まれるのは嫌いではない。長身のおかげでどこにいても視界は良好だし、大抵は周囲が避けてくれるのでぶつかることは少ない。
今も、遠くから俺の顔をチラッと見るなり「げっ」という表情になり、回れ右した男がいた。自慢じゃないが、俺は『ある人々』の間では有名人なのだ。特に同世代であれば俺の顔を知らない奴はいないだろう。きっとさっきの男も、俺を『例の』ジョージ・ホーネットと知って逃げたに違いない。
勘違いしないで欲しいのだが、好意的な視線を向けられることだってちゃんとある。
こちらに向かって歩いてくる少女がぼうっと俺を見上げていたので、すれ違いざまにウインクをプレゼントした。俺は視界の隅で、彼女の頬が赤くなるのを確かに見届けた。
かわいいな。彼女のような一般女性のいいところは、俺のことを知らないところだ。
さておき——目的地に近付くにつれ、人通りはまばらになり、道幅が広くなっていった。露店が減ったせいでもあるが、この辺りは魔法使いの住居が多いため、馬車でもなんでも乗り入れられるようになっているのだ。魔法使いの生業というものは多くの場合、場所を食うからだ。
そんな通りの一角で、俺は足を止めた。
『ロウのゴーレム研究所』
掠れた字で書かれた表札がドアにかかっている。白塗りの壁が縦にも横にも長く続く、大きくて無骨な建物だ。
俺は二度ほどノックした後、勢いよくドアを開けた。
「グッドモーニング。来たよ」
一階はほとんど敷居がなく天井も高い、だだっ広い空間に作られている。俺の声を聞き、出入り口付近に背を向けて立っていた女性が一人、振り返った。
「遅かったじゃない」
セクシーなハスキーボイスが俺を迎える。それを発したのは、長い銀色の髪をうなじのあたりで一つにまとめた美女だ。
肌は褐色。瞳は紫色。身にまとったゆったりとした白衣は、豊満な肉体を隠すには少々力不足のように思える。
彼女がこの研究所の所長であり、俺を呼び出した魔法使い、ヴィヴィアン・ロウその人だ。
ヴィヴィアンは隣に立っていた助手と思しき少女に短く指示を飛ばし、ゆっくりとこちらに近付いて来た。
「朝一番にメッセージを送ったはずなのだけれど」
俺は肩をすくめて見せる。
「ティータイムくらい楽しんで来たっていいだろう? これでも、君が待っていると思ったから、運動するのはやめておいたんだよ」
俺がそう言うと彼女はほんの少し目を見開いた。
「あんた、スポーツなんてやってたの?」
「まぁね。ときどき汗をかきたくなるんだ」
「ふうん」
驚いているのかと思えば、さほど興味がなさそうな様子である。
まぁ俺に対しては、大体こんなもんだ。彼女とは子供の頃からの付き合いだが、俺に対して好意的な意味で興味を持ったことはないんじゃないだろうか。
「で、俺にやって欲しいことは? デートのお誘いかな?」
軽口を叩くと、彼女はいつもジト目になる。
「いつも通りよ。これを持ってじっとしててちょうだい」
手渡されたのは、緑色の角砂糖みたいな鉱石だった。
雑踏に包まれるのは嫌いではない。長身のおかげでどこにいても視界は良好だし、大抵は周囲が避けてくれるのでぶつかることは少ない。
今も、遠くから俺の顔をチラッと見るなり「げっ」という表情になり、回れ右した男がいた。自慢じゃないが、俺は『ある人々』の間では有名人なのだ。特に同世代であれば俺の顔を知らない奴はいないだろう。きっとさっきの男も、俺を『例の』ジョージ・ホーネットと知って逃げたに違いない。
勘違いしないで欲しいのだが、好意的な視線を向けられることだってちゃんとある。
こちらに向かって歩いてくる少女がぼうっと俺を見上げていたので、すれ違いざまにウインクをプレゼントした。俺は視界の隅で、彼女の頬が赤くなるのを確かに見届けた。
かわいいな。彼女のような一般女性のいいところは、俺のことを知らないところだ。
さておき——目的地に近付くにつれ、人通りはまばらになり、道幅が広くなっていった。露店が減ったせいでもあるが、この辺りは魔法使いの住居が多いため、馬車でもなんでも乗り入れられるようになっているのだ。魔法使いの生業というものは多くの場合、場所を食うからだ。
そんな通りの一角で、俺は足を止めた。
『ロウのゴーレム研究所』
掠れた字で書かれた表札がドアにかかっている。白塗りの壁が縦にも横にも長く続く、大きくて無骨な建物だ。
俺は二度ほどノックした後、勢いよくドアを開けた。
「グッドモーニング。来たよ」
一階はほとんど敷居がなく天井も高い、だだっ広い空間に作られている。俺の声を聞き、出入り口付近に背を向けて立っていた女性が一人、振り返った。
「遅かったじゃない」
セクシーなハスキーボイスが俺を迎える。それを発したのは、長い銀色の髪をうなじのあたりで一つにまとめた美女だ。
肌は褐色。瞳は紫色。身にまとったゆったりとした白衣は、豊満な肉体を隠すには少々力不足のように思える。
彼女がこの研究所の所長であり、俺を呼び出した魔法使い、ヴィヴィアン・ロウその人だ。
ヴィヴィアンは隣に立っていた助手と思しき少女に短く指示を飛ばし、ゆっくりとこちらに近付いて来た。
「朝一番にメッセージを送ったはずなのだけれど」
俺は肩をすくめて見せる。
「ティータイムくらい楽しんで来たっていいだろう? これでも、君が待っていると思ったから、運動するのはやめておいたんだよ」
俺がそう言うと彼女はほんの少し目を見開いた。
「あんた、スポーツなんてやってたの?」
「まぁね。ときどき汗をかきたくなるんだ」
「ふうん」
驚いているのかと思えば、さほど興味がなさそうな様子である。
まぁ俺に対しては、大体こんなもんだ。彼女とは子供の頃からの付き合いだが、俺に対して好意的な意味で興味を持ったことはないんじゃないだろうか。
「で、俺にやって欲しいことは? デートのお誘いかな?」
軽口を叩くと、彼女はいつもジト目になる。
「いつも通りよ。これを持ってじっとしててちょうだい」
手渡されたのは、緑色の角砂糖みたいな鉱石だった。
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