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フリード編
ジョージ・ホーネット1
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君の友人は何人いる?
俺は二人だ。
羨ましいだろ? 分けてあげないよ。
寝起きはいい方なんだ。
俺は今日もいつも通りの時間に、自然に目が覚めた。まぶたを開くと波が引くように眠気が去り、意識が冴えていくのを感じた。
俺に身を寄せて一人の女が眠っている。昨夜買ったナンシーという名の娼婦だ。俺は彼女を起こさないようにそっとベッドから抜け出して、ローブを羽織る。疲れているだろうからもう少し寝かせておいてやろうと思ったのだ。
歩いて窓まで行き、カーテンを開いた。太陽の方角は真逆だから、朝日が女の目を焼くことはない。
うん、今日もいい天気だ。紅茶でも飲むか。
俺は黙って寝室を出た。向かったのはもちろん、キッチンだ。
シンクのスイッチに触れると、微量の魔力を吸い取られる感覚の後、蛇口から水が出てきた。それをポットで受ける。ポットの半分くらいまで水が溜まったところで、次はシンクの隣に描かれた、魔法陣に指を滑らせる。
触れたところから魔法陣が赤く輝き出した。その光は滲むように広がって、やがて魔法陣全体をぼんやりと覆った。
俺はポットを魔法陣の上に置き、食器棚からティーセットを取り出した。細々とした準備を整えていると、ポットのフタがカタカタと音を立てて揺れ始めた。注ぎ口からは蒸気が噴き出している。
ポットを取り上げようと手を伸ばしたところで——
「キャー!」
と、寝室の方から甲高い声が響いた。
女の声であることは間違いない。ナンシーだろう。目を覚ましたようだ。
寝覚めに悲鳴をあげる理由はないはずだが? 俺は怪訝に思いながらも、キッチンをそのままにして寝室に向かった。蛇口も魔法陣も、そろそろ注いだ魔力が尽きて勝手に起動停止するから、放っておいても問題ない。
寝室のドアを開くとやはり目を覚ましていたナンシーが、布団を手繰り寄せて裸の肌を隠した格好で、窓の方を見つめていた。怯えて表情を強張らせていたが、俺の顔を見ると少しは落ち着いたようだ。
「外に何かいる! なんなの?」
彼女が指差すので釣られて見ると、窓の外で何か小さいものが蠢いているようだった。目を凝らしながらゆっくりと近づいてみる。
異形の何かが窓の外に取り付いていた。
青白くて細長いひょうたんみたいなフォルム。体の最も太った部分に、キャベツの切れ端のようなものが二つ突き刺っている。そいつが、ひょうたんの尖った部分を前後に揺らしてコツコツと窓を叩いているのだった。ナンシーはこの物音で目を覚ましたのだろうか。
よくよく見るとひょうたんの底にも何か刺さっているようだ。あれは——
「……ああ、やっぱり」
俺が窓を開けようとすると、ナンシーがまた悲鳴をあげた。
「ちょっと! 入ってきたらどうするの」
「大丈夫。こいつはメッセンジャーだ。魔法使いのね」
俺は言いながら、ひょうたんがくっついていない方を外側に開いてやった。ひょうたんは窓を叩くのをやめ、二枚のキャベツをゆらゆら振りながら部屋の中に入ってきた。もしかしたら翼のつもりなのかもしれない。
手のひらを上に向けて左手を差し出すと、ひょうたんはそこにポトンと着地した。
「ご苦労さん」
刺さっていた封筒を抜き取ってやったら、ひょうたんはゆっくりと周囲に滲むように消えて無くなった。
ナンシーは呆然としている。
俺は封筒を破いて、中からメッセージカードを取り出した。そこには、見慣れたそっけない字でこう書かれていた。
『ミスター・ビー 仕事よ』
俺は二人だ。
羨ましいだろ? 分けてあげないよ。
寝起きはいい方なんだ。
俺は今日もいつも通りの時間に、自然に目が覚めた。まぶたを開くと波が引くように眠気が去り、意識が冴えていくのを感じた。
俺に身を寄せて一人の女が眠っている。昨夜買ったナンシーという名の娼婦だ。俺は彼女を起こさないようにそっとベッドから抜け出して、ローブを羽織る。疲れているだろうからもう少し寝かせておいてやろうと思ったのだ。
歩いて窓まで行き、カーテンを開いた。太陽の方角は真逆だから、朝日が女の目を焼くことはない。
うん、今日もいい天気だ。紅茶でも飲むか。
俺は黙って寝室を出た。向かったのはもちろん、キッチンだ。
シンクのスイッチに触れると、微量の魔力を吸い取られる感覚の後、蛇口から水が出てきた。それをポットで受ける。ポットの半分くらいまで水が溜まったところで、次はシンクの隣に描かれた、魔法陣に指を滑らせる。
触れたところから魔法陣が赤く輝き出した。その光は滲むように広がって、やがて魔法陣全体をぼんやりと覆った。
俺はポットを魔法陣の上に置き、食器棚からティーセットを取り出した。細々とした準備を整えていると、ポットのフタがカタカタと音を立てて揺れ始めた。注ぎ口からは蒸気が噴き出している。
ポットを取り上げようと手を伸ばしたところで——
「キャー!」
と、寝室の方から甲高い声が響いた。
女の声であることは間違いない。ナンシーだろう。目を覚ましたようだ。
寝覚めに悲鳴をあげる理由はないはずだが? 俺は怪訝に思いながらも、キッチンをそのままにして寝室に向かった。蛇口も魔法陣も、そろそろ注いだ魔力が尽きて勝手に起動停止するから、放っておいても問題ない。
寝室のドアを開くとやはり目を覚ましていたナンシーが、布団を手繰り寄せて裸の肌を隠した格好で、窓の方を見つめていた。怯えて表情を強張らせていたが、俺の顔を見ると少しは落ち着いたようだ。
「外に何かいる! なんなの?」
彼女が指差すので釣られて見ると、窓の外で何か小さいものが蠢いているようだった。目を凝らしながらゆっくりと近づいてみる。
異形の何かが窓の外に取り付いていた。
青白くて細長いひょうたんみたいなフォルム。体の最も太った部分に、キャベツの切れ端のようなものが二つ突き刺っている。そいつが、ひょうたんの尖った部分を前後に揺らしてコツコツと窓を叩いているのだった。ナンシーはこの物音で目を覚ましたのだろうか。
よくよく見るとひょうたんの底にも何か刺さっているようだ。あれは——
「……ああ、やっぱり」
俺が窓を開けようとすると、ナンシーがまた悲鳴をあげた。
「ちょっと! 入ってきたらどうするの」
「大丈夫。こいつはメッセンジャーだ。魔法使いのね」
俺は言いながら、ひょうたんがくっついていない方を外側に開いてやった。ひょうたんは窓を叩くのをやめ、二枚のキャベツをゆらゆら振りながら部屋の中に入ってきた。もしかしたら翼のつもりなのかもしれない。
手のひらを上に向けて左手を差し出すと、ひょうたんはそこにポトンと着地した。
「ご苦労さん」
刺さっていた封筒を抜き取ってやったら、ひょうたんはゆっくりと周囲に滲むように消えて無くなった。
ナンシーは呆然としている。
俺は封筒を破いて、中からメッセージカードを取り出した。そこには、見慣れたそっけない字でこう書かれていた。
『ミスター・ビー 仕事よ』
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