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フリード編
フリード・シアン4
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既視感があった。
紐でくくられた白いハンカチ。丸く膨らんだところに書き込まれている点と線。あれは顔だ。僕も小さい頃に作ったことがある。
これをなぜ彼女が? いや、そう見えるだけで別の何かかも……。
「……ルーナ」
呼びかけると、彼女の手の動きがピタッと止まり、スーッと首がこちらを向いた。エメラルドグリーンの瞳が僕の顔を見据える。
「はい。ご主人様」
抑揚のない、判で押したような話し方だが、見た目通りの可愛らしい声色だ。
僕はなんとなく彼女から目を逸らしながら言った。
「ええと、何をしていたんだい?」
「てるてる坊主を作っています」
「……ふむ」
見間違いではなかったようだ。
彼女がそれを知っていたことは、意外だった。僕は戸惑いを隠せない。
「一体、どうしてだい?」
「雨を止ませるためです」
「……止ませたいのかい? なぜ?」
「はい。雨の日は、晴れの日に比べて行動が制限されます。晴れていた方が効率的に作業を行えます」
「……なるほど」
僕が以前、効率を上げろと指示したことで、作業しやすい環境を保つための行動に至ったのか。だんだん思考が柔軟になってきている。めまぐるしい進歩だ。
僕が口を閉じると、彼女も黙った。見つめられたまま数秒が経過する。
「再開してよろしいでしょうか?」
「いや、ちょ、ちょっと待って」
僕は咳払いをする。
「てるてる坊主を作ろうと思ったのはどうしてなんだい?」
「雨を止ませるためです」
「うん、聞き方が悪かったな。そうじゃなくて、ええと……どうしてこの方法を選んだのかな。てるてる坊主のことはどうやって知った?」
ルーナは作りかけのてるてる坊主をその場に置き、作業台の隅に広げてあったものを取って戻ってきた。それを僕に差し出しながら、述べる。
「この本で学習しました」
明らかに幼児向けの絵本だった。パラパラとページをめくってみる。
雨で外に出られず退屈した女の子がてるてる坊主を作ると、すぐに雨が止んで、女の子は遊びに出かける、と言う内容のようだ。本を閉じると、パタンと音がした。表紙に図書館の判子が押されていた。
僕が言葉を失っていると、ルーナは再び聞いてくる。
「再開してよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、どうぞ」
彼女は何事もなかったかのように、先ほどと同じ作業を繰り返し始めた。出来上がったてるてる坊主が少しずつ積み上げられていく。
僕は彼女になんと言っていいか必死に考えながら、黙ってそれを見つめていた。
数分後、ついに最後のハンカチが、最後のてるてる坊主に姿を変えた。
ルーナは無言のまま、僕が草花を集める時に使う大きな麻の袋を一枚持ってくると、作業台の横に広げ、一つずつてるてる坊主を中に入れていった。その後袋を抱えて向かったのは、もちろん窓だ。
僕はその背に呼びかける。
「本当に雨が止むと思っているのかい?」
「はい」
彼女の歩みは止まらない。彼女は窓の前に立つと、窓の上枠に打ち込まれた釘に一つずつてるてる坊主を吊るし始めた。
僕を突き動かしたのは、このままにしておくのは良くないのではないかと言う漠然とした焦りだ。僕は彼女の隣に駆け寄った。
「ルーナ、良く聞いてくれ。君が読んだのは、子供向けの絵本なんだけれど、絵本の内容は基本的にお伽話なんだ。
ええと、お伽話ってわかるかな……作り話、フィクション、要は空想なんだよ。実用的じゃないんだ」
矢継ぎ早に告げた言葉をどう受け取ったものか。ルーナは先ほどのようにピタッと動きを止め、首だけをこちらに向けた。
「その本の内容は虚偽であると言うことでしょうか?」
「虚偽って……ちょっと語弊があるけど……現実には起こり得ないことだから、そうとも言えるかな」
ルーナは自らの手の中に視線を落とした。
「これは本当は何に使う道具なのですか?」
「そうだなぁ、おまじない……気休め、かな」
「……」
反応が返ってこなくなってしまった。
また何か思い悩んでいるのだろうか。だとしたら、放っておいたらずっとこのままだ。それはまずい。
「せっかく作ったから吊るそうよ。僕も手伝うよ」
ね。と話しかけながら、袋から一つ取り出して目の前で振って見せると、ルーナがようやく顔を上げた。
「はい。ご主人様」
紐でくくられた白いハンカチ。丸く膨らんだところに書き込まれている点と線。あれは顔だ。僕も小さい頃に作ったことがある。
これをなぜ彼女が? いや、そう見えるだけで別の何かかも……。
「……ルーナ」
呼びかけると、彼女の手の動きがピタッと止まり、スーッと首がこちらを向いた。エメラルドグリーンの瞳が僕の顔を見据える。
「はい。ご主人様」
抑揚のない、判で押したような話し方だが、見た目通りの可愛らしい声色だ。
僕はなんとなく彼女から目を逸らしながら言った。
「ええと、何をしていたんだい?」
「てるてる坊主を作っています」
「……ふむ」
見間違いではなかったようだ。
彼女がそれを知っていたことは、意外だった。僕は戸惑いを隠せない。
「一体、どうしてだい?」
「雨を止ませるためです」
「……止ませたいのかい? なぜ?」
「はい。雨の日は、晴れの日に比べて行動が制限されます。晴れていた方が効率的に作業を行えます」
「……なるほど」
僕が以前、効率を上げろと指示したことで、作業しやすい環境を保つための行動に至ったのか。だんだん思考が柔軟になってきている。めまぐるしい進歩だ。
僕が口を閉じると、彼女も黙った。見つめられたまま数秒が経過する。
「再開してよろしいでしょうか?」
「いや、ちょ、ちょっと待って」
僕は咳払いをする。
「てるてる坊主を作ろうと思ったのはどうしてなんだい?」
「雨を止ませるためです」
「うん、聞き方が悪かったな。そうじゃなくて、ええと……どうしてこの方法を選んだのかな。てるてる坊主のことはどうやって知った?」
ルーナは作りかけのてるてる坊主をその場に置き、作業台の隅に広げてあったものを取って戻ってきた。それを僕に差し出しながら、述べる。
「この本で学習しました」
明らかに幼児向けの絵本だった。パラパラとページをめくってみる。
雨で外に出られず退屈した女の子がてるてる坊主を作ると、すぐに雨が止んで、女の子は遊びに出かける、と言う内容のようだ。本を閉じると、パタンと音がした。表紙に図書館の判子が押されていた。
僕が言葉を失っていると、ルーナは再び聞いてくる。
「再開してよろしいでしょうか?」
「あ、ああ、どうぞ」
彼女は何事もなかったかのように、先ほどと同じ作業を繰り返し始めた。出来上がったてるてる坊主が少しずつ積み上げられていく。
僕は彼女になんと言っていいか必死に考えながら、黙ってそれを見つめていた。
数分後、ついに最後のハンカチが、最後のてるてる坊主に姿を変えた。
ルーナは無言のまま、僕が草花を集める時に使う大きな麻の袋を一枚持ってくると、作業台の横に広げ、一つずつてるてる坊主を中に入れていった。その後袋を抱えて向かったのは、もちろん窓だ。
僕はその背に呼びかける。
「本当に雨が止むと思っているのかい?」
「はい」
彼女の歩みは止まらない。彼女は窓の前に立つと、窓の上枠に打ち込まれた釘に一つずつてるてる坊主を吊るし始めた。
僕を突き動かしたのは、このままにしておくのは良くないのではないかと言う漠然とした焦りだ。僕は彼女の隣に駆け寄った。
「ルーナ、良く聞いてくれ。君が読んだのは、子供向けの絵本なんだけれど、絵本の内容は基本的にお伽話なんだ。
ええと、お伽話ってわかるかな……作り話、フィクション、要は空想なんだよ。実用的じゃないんだ」
矢継ぎ早に告げた言葉をどう受け取ったものか。ルーナは先ほどのようにピタッと動きを止め、首だけをこちらに向けた。
「その本の内容は虚偽であると言うことでしょうか?」
「虚偽って……ちょっと語弊があるけど……現実には起こり得ないことだから、そうとも言えるかな」
ルーナは自らの手の中に視線を落とした。
「これは本当は何に使う道具なのですか?」
「そうだなぁ、おまじない……気休め、かな」
「……」
反応が返ってこなくなってしまった。
また何か思い悩んでいるのだろうか。だとしたら、放っておいたらずっとこのままだ。それはまずい。
「せっかく作ったから吊るそうよ。僕も手伝うよ」
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「はい。ご主人様」
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