きいちゃんの魔法のカギ

好永アカネ

文字の大きさ
上 下
3 / 4

きいちゃんと 空のおとしもの

しおりを挟む
 きいちゃんはカギを持っています。
 きいちゃんのカギはなんでも開けることができる魔法のカギです。
 きいちゃんが魔法のカギを持っていることは、町のみんなが知っています。

 町には今、雪が降っています。ちなみに昨日は雨でした。その前はあられが降っていました。
 きいちゃんの住む町はもう何日もずっとこんな調子で、全く晴れ間がありません。
 そんなある日、きいちゃんを訪ねてお客さんがやってきました。
 それはきいちゃんと同じくらいの背丈の小さな鬼でした。三人の小鬼たちは顔こそそっくりでしたが、それぞれ赤、黄、緑と肌の色が違ったので、見間違うことはなさそうでした。
 赤い小鬼が言います。
「きみがきいちゃん? 魔法のカギを持っている?」
「そうよ。持っているわ」
「ぼくたちといっしょに来てくれる?」
 きいちゃんはちょうどお家遊びにも飽きてきたところだったので、喜んでOKしました。
 レインコートを着て外に出ると、車くらいの大きさのふわふわした雲が玄関の扉の前に浮かんでいました。小鬼たちはぴょんと跳ねて雲の上に乗り、きいちゃんを引っ張り上げました。
 きいちゃんと小鬼を乗せた雲はプカプカと空に昇って行きました。

 空の雲が近づいてきました。
 空の雲にはところどころ穴が空いているようでした。穴からどんどん、どんどん雪が出てきて町に降り注いでいます。
 黄色い小鬼が言いました。
「ここんところ天気が悪いのは、あの穴のせいなんだ。このままじゃ一年分の雨や雪が全部おっこちていってしまうよ。
 きいちゃん、魔法のカギで穴をふさいでよ」
 きいちゃんは困ってしまいました。
「たしかにこのカギならどんなものでも開けたり閉めたりすることができるわ。でも、それには扉かフタがなくっちゃ無理よ」
 きいちゃんを当てにしていた小鬼たちはそれを聞いてがっかりしました。
「それじゃあやっぱり、大将がいないと」
「大将ならフタを作れるよね」
「でもなぁ」
 小鬼たちが暗い顔でブツブツ言っているので、きいちゃんは事情を聞いてみました。すると、こんな時に頼りになるはずの鬼の大将がもう何日も誰にも姿を見せていないので、鬼たちはどうしたらいいのかわからなくて困っているのだと言うのです。
 きいちゃんは小鬼たちといっしょに大将の家に行ってみることにしました。

 大将の家は山のように大きくて、壁も屋根も雲でできていました。
 緑色の小鬼が扉と叩くと、ボォンボォンと太鼓のような音がしました。
「大将、いますか? お天気雲が大変なんです」
 返事がありません。
 きいちゃんはいても立ってもいられず、魔法のカギでガチャリ!と扉を開けてしまいました。
「大将さん、いないのー?」
 きいちゃんは大声で呼びかけながら奥に走って行きます。小鬼たちも慌てて追いかけます。
 走っていると、奇妙な音が聞こえて来ました。うーん、うーん、と音はだんだん大きくなります。
 家の奥にはもう一枚扉がありました。音はこの向こうから鳴っているようです。きいちゃんはここもガチャリ!と開けると、小鬼たちと一緒にそっと中をのぞいてみました。
 広い部屋のど真ん中に、大きくて肌の青い鬼がいました。青鬼は苦しそうな顔で大の字になっており、おなかが風船みたいにパンパンに膨れ上がっています。
「大将ー!」
 小鬼たちが青鬼に駆け寄りました。
 青鬼は「うーん、うーん」と唸っていて、小鬼たちには気づいていないようです。
「おなかが苦しいのかしら?」
 きいちゃんは青鬼のおなかに魔法のカギを差し込んで、ガチャリ!と開けてみました。
 青鬼のおなかの中はおまんじゅうでいっぱいでした。きいちゃんと小鬼たちは手分けしておまんじゅうを運び出し、青鬼のおなかを空っぽにしてあげました。
「あー、助かった」
 青鬼が起き上がって伸びをしました。
「食べ過ぎてしまって身動きできなかったんだ。この女の子は誰だい?」
 小鬼たちが事情を説明すると、青鬼は真剣な顔をして立ち上がりました。
「そりゃ大変だ。急いで穴をふさぎに行こう」

 雲の上をのしのしと歩く青鬼の後について行くと、穴の空いた雲が頭上に見えてきました。
 青鬼は穴をじーっと観察したあと、足元の雲をちぎっておにぎりのようにこね始めました。雲はあっという間にお風呂の栓みたいな形になりました。
 赤い小鬼が得意そうにきいちゃんに言います。
「大将は雲細工の達人なんだ」
 青鬼は穴の数だけ栓をこしらえ終わるときいちゃんを呼んで、大きな左手に乗せました。
「それじゃあきいちゃん、頼んだよ」
「まかせて!」
 青鬼は両手をぐぐぐと伸ばし、右手に持った栓を穴に押し込みました。左手に乗っているきいちゃんもぐぐぐと手を伸ばして、栓に魔法のカギをさしてガチャリ!と回しました。すると栓と周囲が溶け合って、穴が空いていないところと見分けがつかなくなりました。
 青鬼ときいちゃんが全ての穴をふさぎ終わると、やっと雪がやみました。
「ありがとうきいちゃん。これで当分安心だ。きっと明日は晴れるよ」
「やったー!」
 小鬼たちも喜んでいます。
 その時、ぐごごごご、と低い音が鳴り響きました。青鬼がそっとおなかに手を当てて言います。
「なんだか腹が減ったな」
「そりゃそうでしょう。さっき空っぽにしましたからね」
 緑色の小鬼が呆れたように言いました。
 きいちゃんのおなかも、ぐうとかわいく鳴きました。
「そろそろお家に帰らなくちゃ。パパとママがごはんを作って待ってるかもしれないわ」
「そうか。おまんじゅうをご馳走できなくて残念だ。
 どれ、帰り道はわしに任せなさい」
 青鬼は雲の端っこに腰を下ろすと、ぐいぐい押すように雲をこね始めました。すると雲がだんだんうすっぺらくなり、地面に向かってスルスルと伸びていきました。そうして長い長い滑り台が出来上がりました。
 鬼たちは口々にきいちゃんにお礼を言いました。きいちゃんもみんなにお礼を言いながら、一人ずつぎゅっとハグをしました。黄色い小鬼のほっぺたがポッと赤くなりました。
「さようなら。また会いましょう」
 きいちゃんは雲の滑り台に乗ってシューッと勢いよく降りて行きました。きいちゃんの横を、いくつもの雲が流れて行きました。
 やがて町が見えてきました。お出かけや雪かきをしていた人たちが、空を見上げてにっこりしています。きいちゃんもそれを見てにっこりしました。
 滑り台の終点はきいちゃんのお家の前でした。きいちゃんは、ぴょこんと上手に着地しました。
 きいちゃんは魔法のカギでガチャリ!と玄関の扉を開け、中に入りながら言いました。
「ただいま!」
 パタンと扉が閉まる時、ほんの少し風が起こりました。雲の滑り台はその風でゆらりと揺れたかと思うと、スーッと消えてなくなってしまいました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

【総集編】童話パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。童話パロディ短編集

シャルル・ド・ラングとピエールのおはなし

ねこうさぎしゃ
児童書・童話
ノルウェジアン・フォレスト・キャットのシャルル・ド・ラングはちょっと変わった猫です。人間のように二本足で歩き、タキシードを着てシルクハットを被り、猫目石のついたステッキまで持っています。 以前シャルル・ド・ラングが住んでいた世界では、動物たちはみな、二本足で立ち歩くのが普通なのでしたが……。 不思議な力で出会った者を助ける謎の猫、シャルル・ド・ラングのお話です。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

王さまとなぞの手紙

村崎けい子
児童書・童話
 ある国の王さまのもとに、なぞの手紙が とどきました。  そこに書かれていた もんだいを かいけつしようと、王さまは、三人の大臣(だいじん)たちに それぞれ うえ木ばちをわたすことにしました。 「にじ色の花をさかせてほしい」と―― *本作は、ミステリー風の童話です。本文及び上記紹介文中の漢字は、主に小学二年生までに学習するもののみを使用しています(それ以外は初出の際に振り仮名付)。子どもに読みやすく、大人にも読み辛くならないよう、心がけたものです。

ドラゴンの愛

かわの みくた
児童書・童話
一話完結の短編集です。 おやすみなさいのその前に、一話ずつ読んで夢の中。目を閉じて、幸せな続きを空想しましょ。 たとえ種族は違っても、大切に思う気持ちは変わらない。そんなドラゴンたちの愛や恋の物語です。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

処理中です...