世にも醜い王子の幸せなイセカイテンセイ。

ぞのじ

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Happy new world

2.First contact 〜こんにちわイセカイ、今後トモヨロシク〜

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「...うぅ....こ、ここは...そうだ、俺は扉をくぐって...ここが【地球アース】か...」

 目覚めた場所は清潔感のある部屋で、あまり広くは無いがどこか懐かしさを感じる場所だった。
 見たこともない四角い何かの乗った机と椅子、1人用のベッドはライトブルーの寝具でまとめられている。同系色のカーテンの奥には、とても綺麗で曇りの無い硝子がはまった窓がありそこから穏やかな青空が広がってるのが見える。

「ここが俺の部屋なの、ガァッ!?」

 突然襲った激しい頭痛に一瞬ふらついたものの、直ぐに治まった頭の中には、俺がこの【地球】で生きてきた16年間の記憶や、オースディア様が言っていた〈科学〉や、今住んでいる地域が〈日本〉という名の国で〈イルヴァズ〉とは違い民主主義?を掲げる法治国家だという事、それと今世での家族の事などが自然と理解出来ていた。

「【さかき 優哉ゆうや】。俺の名前は優哉」

 前世の名前は記憶から消されてしまったからか、今世の名前を噛み締めるように呟くとこれからの人生を楽しむぞ、という実感がじわじわと湧いてくる。

「今日は土曜日か...どうやら今までの優哉は高校には通わずオンライン授業を選択していたみたいだな...というか、結構な期間を部屋から出ずに過ごしてんな、俺...」

 これまでの優哉は所謂引き篭もりだったようで、そうなってしまった原因が幼少期に起こった、ある出来事がきっかけとなり、それが優哉の中でトラウマ化していたみたいだ。
 だが、転生しまさしく生まれ変わった俺には記憶としては残っているものの、その出来事がどうして不幸な事故だったのか理解出来無かった為、今現在は心身共に至って健康だ。

「先ずは情報収集かな。知識としてはあるものの、改めて現状を把握しておきたいな」

 机に向かい慣れた手順でPCを起動して小一時間ほどネットサーフィンして必要な情報を集めていく。インターネットの使い方やその利便性は記憶の中にしっかりと残っていた。
 やはり、科学の力は凄いな、情報が溢れている...。
 調べた結果、オースディア様の仰っていた通り、世界的に男性の人口比率が低く、緩やかだが男性出生率は年々減少傾向との事。
 それに伴い各国は男性保護法や一夫多妻制、精子バンクへの精子提供が男性に義務化される代わりに税金の免除や医療費の無料化等々、かなり男性は優遇されている。
 ウチの家族も俺以外には母親と妹が2人で、父親はいない、精子バンクで提供された精子での人工受精だ。
 こういう家族構成がほとんどで、父親がいる家庭の方が珍しいらしい。
 また、家族に男性がいると国から毎月結構な支援金が支払われるようで、男性本人だけで考えれば、贅沢さえしなきゃ一生働かなくても生きていける。

(俺はそんな人生は御免だ。前世で出来なかった事を沢山やりたいな)

ーーーコン、コン、コン。

 そうこうしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

「優君、お昼ご飯、扉のとこに置いとくね...食べたらまたトレイごと置いといてね...」

 カタン、と母親が部屋の前に食事を置く音がする。どうやらこれまでの優哉は家族と一緒に食事は一切してなかったみたいだ。
 でも俺は、前世でしたくても出来なかった家族との食事を取りたかった。だから、

「ありがとう、母さん。その、今日は一緒に食べたいんだけど良いかな?」
「ッ!!ゆ、優君、い、いいの?」

 扉越しの会話に違和感を感じたので、扉を開けながらの、母親である女性に話しかける。

「こちらがお願いしてるんだよ、母さん。一緒にランチしない?」
「ッ!!優君!!!」
「母さん、今まで心配ばかりかけてごめんね。
 これからは家族揃って楽しく食事を取りたいんだ...俺が言うのもおかしいけどさ」
「ゆ、ゆ、優君~!うわぁ~ん!!」

 俺の胸に飛び込んできて子どものように泣きじゃくっている女性。見た目は20代半ばにしか見えないが18歳で俺を産んだ正真正銘の34歳。身長も俺の胸位までしか無く、容姿の整った可愛い感じの母親だ。

「母さん、ほら、泣いてないでご飯食べよ?折角のご飯が冷めちゃうからさ」
「...グス、うん。だって、優君が、久しぶりに顔を見せてくれて、嬉しくて、一緒にご飯も、もう何年も、食べてなかったから」
「ごめんね、母さん。これからは毎日一緒だよ。俺、もう引き篭もるのはやめる事にしたからさ」

 泣く子をあやすように頭を撫でながら、母さんを落ち着かせていく。

「うんっ!これからは家族みんなで仲良く暮らそうね!」

 ぱぁっと、魔法薬エーテルの材料で有名な月光草が満月の夜にその蕾を開いた時のように、笑顔となった母さんと昼ご飯を食べる為にダイニングへ向かう。
 家には俺と母さんの2人だけで、妹達は部活動があり学校に行ってるみたいだ。
 母さんは結構有名な服飾デザイナーで、ファッションブランドを祖母と立ち上げており、役員でもあるので色々と融通が利き、今はリモートワークをメインにして、偶に打ち合わせや会議の時にだけ出社しているとの事。

「へぇ~。母さんって凄いね!俺も何か頑張ってみたいなぁ」

 そう話すと、母さんは嬉しそうで悲しそうな複雑な表情で俺を見つめてきた。

「....優君。あの事はもう大丈夫なの?無理しなくても、良いんだよ?」

 あの事、か。確かに元の優哉のトラウマの原因ではあったが、今の俺には只の経験でしか無い。男の少ないこんな世界では大事に至る事であるが、俺からしたら小さい頃に大人の女性に遊んでもらった程度の感覚だ。

「大丈夫だよ、母さん。全部乗り越える事が出来たし、よく考えれば大人の女性が遊んでくれただけ?だよ。今までは女性不信な所があったけど、今はそんな事も無いしね」
「優君!良かった...!」

 また泣き出しそうな母さんを何とか宥めながらランチタイムをゆっくりと過ごした。
 今までの時間を取り戻すかの如く、母さんも俺も昼ご飯を食べ終わってからも穏やかに会話を楽しんだ。
 まったく、今までの優哉は。こんな素敵な母親を大事にしていなかったなんて、本当に罰当たりな。


「母さん、今まで迷惑ばかりかけてごめん。これからは色んな事に挑戦して、人生を楽しみたいんだ。だからさ、」


 俺は家族を大切にするよ。前世も今世も今まで出来なかった分、たくさん。


「これからもよろしくね、母さん」
「うんっ!こちらこそよろしくね、優君ッ!!」

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