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変なアプリと変な男の奇妙な立場。
...相談カフェ?
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「月曜の朝から楽しそうじゃないの、福ちゃん」
ねぇ、と伺うように首を傾げる学校長の、さらりと流れる髪からか、甘くフローラな香りが鼻を擽った。
「さて?何のことでしょうか、学校長」と言うや否や唇を尖らせる美魔女。「2人の時は沙織でいいのよ」だなんて言われても、仕事中なんですけど。
「私は昨日、バカな小娘とその保護者のせいで日曜日が台無しだったっていうのに。朝から福ちゃんは楽しそうな笑顔だし」と尖らせたままの、紅いルージュで飾った艶やかな唇で愚痴を吐く。
「ご苦労様です、御厨さん」と当てつけのように、とても有名な財閥と同じ姓で呼ぶ。
するとどうだろう。口を怒ったようにへの字にした後、これまた不機嫌そうな表情で文句を言うではないか。
「あ~、そんなこと言うんだ?私がそう言われるのがキライだって知ってて言うんだ、天才料理人の福永君は」
“ああ言えばこう言う”やり取りは、彼女とのコミュニケーションの一部となっていて、いつも俺に勝ち目はない。
だから毎回こっち折れるんだ、「すいませんでした沙織さん」と。
「分かればよろしい」と花の咲いたような笑顔で返す彼女に内心ドキリとしながら、用件を問う。
「で、何かありましたか?」
「あるある。福ちゃんにしかできないことがあるのよ、実はね...」
確かにこの御厨高校での俺の立場は微妙だと、自分でも理解している。
そもそも、教員免許など所持していないのにこの学校で働いているのは、目の前の美魔女に偶然拾われたからに過ぎない。御厨財閥が運営するこの学校で沙織さんに斡旋され調理師として調理実習を請け負っている。部活動とかである外部コーチのようなものであり、やんごとなき御方の一存で捩じ込まれた従業員だ。なので簡単に言えば教職員ではない。
だから、こんな風に沙織さんからちょくちょく無理難題をふっかけられる。
「...相談カフェ?」そのネーミングセンスどうなの、とは言わない。
「そ。今回の小娘の件もそうだけど、生徒の中で悩みを抱えている子って、結構多いと思うのよ。スクールカウンセラーの環ちゃんに相談する子もいるんだけど、やっぱり躊躇しちゃうみたいなんだよね。
だから、ちょっとした料理を提供しながらお悩み相談できるカフェみたいなのを作ろうかなって。この学校の調理実習室の隣の準備室って、無駄に広い割に福ちゃんの休憩にしか使われてないじゃない?そこをちょちょいっとリフォームしてカウンターだけのカフェにしようかなって思いついたのよ!」
息巻いて熱弁する美魔女は興奮してかほんのり頬を染めて前のめりとなり、少々扇状的だ。つまり、目に毒だ。
だが、付き合いが長いからこそ分かることもある。これは、おそらくだが、
「沙織さん...自分が楽しく飯食いたいだけじゃない?」が正解だと思う。間違いない。
「あ!バレた?それは6割くらいよ?ちゃんと生徒のこと思ってる!」と、平気の宣う。
「半分以上は自分のためなんですね」
はぁ、と心の中で脱力すれば、もはやこの表情の沙織さんは梃子でも動かないくらいに頑固だと、諦めもついた。
目を爛々と輝かせる年齢不詳の美人は、その磨き上がった大人の女性の雰囲気を全面に出して、返答を早く寄越せと催促している。
「分かりました。やりますよ、学校長」としか言えない。
それにしても、お悩み相談か。
料理云々はまぁ大丈夫だとしても、そっちの方はどうなんだろう?寧ろ、それを俺に期待してる沙織さんも凄い決断だと思うのだけど。
「じゃあ決まりね!さっそく今日業者呼ぶから。福ちゃんは現場で打ち合わせよろしく。あぁ、キッチンも含めて内装は福ちゃんの好きなようにしてちょうだい。機材とかも遠慮なく見積りに載せていいからさ。あ!お皿はちょっと高めのやつにしたいなぁ...そうだ、お祖父様にお願いしてみよう!」と、嬉しそうにはしゃぐ沙織さんを他所に、心なしか久しぶりの仕事に気持ちがぐらりと揺れるのを感じた。意外と心残りがあったんだな、と自分の本音を垣間見たような気分になる。
でも、悪くないな。だから、こんな提案をしてくれた沙織さんに伝えよう。
「沙織ちゃん、とりあえず、任せろ」と、言ってやれば彼女はその大きな瞳を見開いてから大輪の花を咲かせた。
「...おまかせ、するわ」
業者の来る時間を後でメールする、と言われ簡単な学校としての“相談カフェ”のコンセプトをヒアリングすると、法律的なタブー以外はほぼ自由にしてよいとのことで、料理やドリンクに制限はなかった。学校から予算を出してもらい、利益を上げることは考えなくてよいらしい。教職員のランチ提供もお願いされ、どうやら福利厚生の面も持ち合わせているようだ。
「そうすれば堂々と食べにいけるし」と、言っていたけどな。
学校長室をあとにして、職員室に向かって廊下を歩く。
ふと、立ち止まって窓から覗いた青空は、その奥の奥まで、蒼く澄んでいた。そのまま視線を下げれば、体育の授業中の若者達が、ジャージ姿で走っているのが目に入る。
傍から見れば、何の悩みもないような元気な姿に見えるんだけどな。
そう思ってしまうのは、俺が大人になってしまった、ということなんだろな。
再度視線を上に向ければ、空は変わらずに蒼かった。ただし、雲の一つもない、とはいかないが。
ねぇ、と伺うように首を傾げる学校長の、さらりと流れる髪からか、甘くフローラな香りが鼻を擽った。
「さて?何のことでしょうか、学校長」と言うや否や唇を尖らせる美魔女。「2人の時は沙織でいいのよ」だなんて言われても、仕事中なんですけど。
「私は昨日、バカな小娘とその保護者のせいで日曜日が台無しだったっていうのに。朝から福ちゃんは楽しそうな笑顔だし」と尖らせたままの、紅いルージュで飾った艶やかな唇で愚痴を吐く。
「ご苦労様です、御厨さん」と当てつけのように、とても有名な財閥と同じ姓で呼ぶ。
するとどうだろう。口を怒ったようにへの字にした後、これまた不機嫌そうな表情で文句を言うではないか。
「あ~、そんなこと言うんだ?私がそう言われるのがキライだって知ってて言うんだ、天才料理人の福永君は」
“ああ言えばこう言う”やり取りは、彼女とのコミュニケーションの一部となっていて、いつも俺に勝ち目はない。
だから毎回こっち折れるんだ、「すいませんでした沙織さん」と。
「分かればよろしい」と花の咲いたような笑顔で返す彼女に内心ドキリとしながら、用件を問う。
「で、何かありましたか?」
「あるある。福ちゃんにしかできないことがあるのよ、実はね...」
確かにこの御厨高校での俺の立場は微妙だと、自分でも理解している。
そもそも、教員免許など所持していないのにこの学校で働いているのは、目の前の美魔女に偶然拾われたからに過ぎない。御厨財閥が運営するこの学校で沙織さんに斡旋され調理師として調理実習を請け負っている。部活動とかである外部コーチのようなものであり、やんごとなき御方の一存で捩じ込まれた従業員だ。なので簡単に言えば教職員ではない。
だから、こんな風に沙織さんからちょくちょく無理難題をふっかけられる。
「...相談カフェ?」そのネーミングセンスどうなの、とは言わない。
「そ。今回の小娘の件もそうだけど、生徒の中で悩みを抱えている子って、結構多いと思うのよ。スクールカウンセラーの環ちゃんに相談する子もいるんだけど、やっぱり躊躇しちゃうみたいなんだよね。
だから、ちょっとした料理を提供しながらお悩み相談できるカフェみたいなのを作ろうかなって。この学校の調理実習室の隣の準備室って、無駄に広い割に福ちゃんの休憩にしか使われてないじゃない?そこをちょちょいっとリフォームしてカウンターだけのカフェにしようかなって思いついたのよ!」
息巻いて熱弁する美魔女は興奮してかほんのり頬を染めて前のめりとなり、少々扇状的だ。つまり、目に毒だ。
だが、付き合いが長いからこそ分かることもある。これは、おそらくだが、
「沙織さん...自分が楽しく飯食いたいだけじゃない?」が正解だと思う。間違いない。
「あ!バレた?それは6割くらいよ?ちゃんと生徒のこと思ってる!」と、平気の宣う。
「半分以上は自分のためなんですね」
はぁ、と心の中で脱力すれば、もはやこの表情の沙織さんは梃子でも動かないくらいに頑固だと、諦めもついた。
目を爛々と輝かせる年齢不詳の美人は、その磨き上がった大人の女性の雰囲気を全面に出して、返答を早く寄越せと催促している。
「分かりました。やりますよ、学校長」としか言えない。
それにしても、お悩み相談か。
料理云々はまぁ大丈夫だとしても、そっちの方はどうなんだろう?寧ろ、それを俺に期待してる沙織さんも凄い決断だと思うのだけど。
「じゃあ決まりね!さっそく今日業者呼ぶから。福ちゃんは現場で打ち合わせよろしく。あぁ、キッチンも含めて内装は福ちゃんの好きなようにしてちょうだい。機材とかも遠慮なく見積りに載せていいからさ。あ!お皿はちょっと高めのやつにしたいなぁ...そうだ、お祖父様にお願いしてみよう!」と、嬉しそうにはしゃぐ沙織さんを他所に、心なしか久しぶりの仕事に気持ちがぐらりと揺れるのを感じた。意外と心残りがあったんだな、と自分の本音を垣間見たような気分になる。
でも、悪くないな。だから、こんな提案をしてくれた沙織さんに伝えよう。
「沙織ちゃん、とりあえず、任せろ」と、言ってやれば彼女はその大きな瞳を見開いてから大輪の花を咲かせた。
「...おまかせ、するわ」
業者の来る時間を後でメールする、と言われ簡単な学校としての“相談カフェ”のコンセプトをヒアリングすると、法律的なタブー以外はほぼ自由にしてよいとのことで、料理やドリンクに制限はなかった。学校から予算を出してもらい、利益を上げることは考えなくてよいらしい。教職員のランチ提供もお願いされ、どうやら福利厚生の面も持ち合わせているようだ。
「そうすれば堂々と食べにいけるし」と、言っていたけどな。
学校長室をあとにして、職員室に向かって廊下を歩く。
ふと、立ち止まって窓から覗いた青空は、その奥の奥まで、蒼く澄んでいた。そのまま視線を下げれば、体育の授業中の若者達が、ジャージ姿で走っているのが目に入る。
傍から見れば、何の悩みもないような元気な姿に見えるんだけどな。
そう思ってしまうのは、俺が大人になってしまった、ということなんだろな。
再度視線を上に向ければ、空は変わらずに蒼かった。ただし、雲の一つもない、とはいかないが。
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