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第46話 謎の調味料「ショウユ」
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相変わらずダルケンは光食堂の料理を盗もうとしていた。今日頼んだのは……
「お待たせいたしました。イワシの煮付けになりますね」
ことり、と置かれた皿には内臓をキレイに抜かれたイワシの身が2つ盛られていた。ダルケンはそのイワシの身にフォークを刺し、口に運ぶ。
その身は間違いなくイワシのそれ。しかも旬の物であるかのように身がしまって脂の乗りも最高なものという極上品。
それは分かるのだが、問題は煮つけに使った出汁である。
例えば自分たち家族がよく頼む「たぬきそば」に、昼時に見かけるキツネ族の兵士が食べている「きつねうどん」、
それにガッツリ肉を食べたい人が頼む「豚肉の生姜焼き」
それらにタレや出汁として「ショウユ」なる物が使われている。
王都中の食料問屋をまわって調べたが、どの店でも扱っていない。それこそ夫人がこの店に頻繁に通ってるビスタ子爵の店ですら、だ。
噂では彼女は祖国を追われて遠い国から流れてきた料理人だそうだが、彼女の故郷がわかればその正体も分かるだろうか?
(一体店主はどこからショウユを調達しているんだろうか……まさか自作してるのか? うーむ……)
謎は深まるばかりだ。
それから数日後、ダルケンは話したいことがあるとクラウスにショウユの事を告げると、休日の日に店に来いと言われてやってきた。
研究のためなのだろうか休日なのに店にいた上司に思い切って相談することにした。
「料理長もショウユに関して興味があるのですか?」
「まぁな。俺も気になって調べたんだが、王都に店を構えるどの問屋も扱っていないそうだ。
はっきり言って流通経路がわからない……あの店の大きな謎の1つだ」
どうやら料理長も独自に光食堂を調べていたらしい。
「個人的には自作してるとしか考えられないんですが……」
「その可能性は無いだろう。もし作れるならショウユ職人として店を構えたほうがずっと儲かるだろうからな。
全く新しい、それもとびきり美味い調味料となるとバカ売れとかいう次元ではなくなるからな」
「となると……独自のルートで仕入れてるというわけですか?」
「その可能性が一番ありそうだな。どういうルートかは全く分からないがな」
2人は意見を出し合うが答えは出ない。
が、完全に無策というわけではなかった。
「ダルケン、ちょうどよかったな。実を言うと、とある商人にショウユについて調査してくれと頼んでいたんだ。
彼は国をまたいで活躍しているから何か知ってるかもしれないと思ってな」
「へぇ、そうなんですか」
「約束では今日の今頃店に来る予定なんだが……」
「料理長、サイフォン様なるお客様がお待ちですがいかがいたしましょうか?」
「お、来た来た。すぐ向かうと伝えてくれ。ダルケン、お前もついでだ、来い」
店内で練習中だった見習い給仕に言われ、クラウスとダルケンは表に出る。
この辺りでは光食堂の店主を除けば似たような者は見ない、黒い髪をした人間の商人であるサイフォンを部屋に招き、話を始める。
「サイフォンさん、それで調査の結果はどうなんでしょうか?」
「あなたが望んでいる答えは出せませんね。私も手を尽くしましたが、この国に隣接する国全てでショウユに関する有力な情報は得られませんでした。
ただ、ここからは大分離れた国にはショウユらしきものが存在するという噂はあるそうです」
「ふーむ……。その国の詳細は調べられましたか?」
「あいにくそこまでは……あくまで噂話なので詳細をつかむまでには至りませんでした。申し訳ありませんね。こんな結果になってしまって」
サイフォンは詫びるような表情と声のトーンで調査結果を伝える。
「いや良いんです、無ければ無いとハッキリ言ってくれた方が助かりますし。それによその国にはありそうだという話を聞けてホッとしましたよ」
「そうですか。では報酬に関してですが……こんなところでよろしいでしょうか?」
「うん、良いでしょう。それで行きましょう」
二人はがっちりと握手を組んだ。
「ショウユ……ありそうなんですね」
「らしいな。彼の情報が確かならな」
ショウユはありそうだ……サイフォンが言うにはそういう噂話はあるらしい……どうやら実在はするようだ。
これで噂すら聞かないというのならもはや打つ手はないと言えるほどだったが、その噂が最後の希望だった。
「ダルケン、いつか俺たちもショウユを使える日が来ると良いな」
「ですね」
いつか「ショウユ」の謎を解き明かし、手に入れたい。ダルケンとクラウスは胸に決意を抱いていた。
【次回予告】
今回の話からさかのぼる事ほんの少し。サイフォンが久しぶりに光食堂を訪ねた際に頼んだメニューがそれだった。
第47話「ほうとう」
「お待たせいたしました。イワシの煮付けになりますね」
ことり、と置かれた皿には内臓をキレイに抜かれたイワシの身が2つ盛られていた。ダルケンはそのイワシの身にフォークを刺し、口に運ぶ。
その身は間違いなくイワシのそれ。しかも旬の物であるかのように身がしまって脂の乗りも最高なものという極上品。
それは分かるのだが、問題は煮つけに使った出汁である。
例えば自分たち家族がよく頼む「たぬきそば」に、昼時に見かけるキツネ族の兵士が食べている「きつねうどん」、
それにガッツリ肉を食べたい人が頼む「豚肉の生姜焼き」
それらにタレや出汁として「ショウユ」なる物が使われている。
王都中の食料問屋をまわって調べたが、どの店でも扱っていない。それこそ夫人がこの店に頻繁に通ってるビスタ子爵の店ですら、だ。
噂では彼女は祖国を追われて遠い国から流れてきた料理人だそうだが、彼女の故郷がわかればその正体も分かるだろうか?
(一体店主はどこからショウユを調達しているんだろうか……まさか自作してるのか? うーむ……)
謎は深まるばかりだ。
それから数日後、ダルケンは話したいことがあるとクラウスにショウユの事を告げると、休日の日に店に来いと言われてやってきた。
研究のためなのだろうか休日なのに店にいた上司に思い切って相談することにした。
「料理長もショウユに関して興味があるのですか?」
「まぁな。俺も気になって調べたんだが、王都に店を構えるどの問屋も扱っていないそうだ。
はっきり言って流通経路がわからない……あの店の大きな謎の1つだ」
どうやら料理長も独自に光食堂を調べていたらしい。
「個人的には自作してるとしか考えられないんですが……」
「その可能性は無いだろう。もし作れるならショウユ職人として店を構えたほうがずっと儲かるだろうからな。
全く新しい、それもとびきり美味い調味料となるとバカ売れとかいう次元ではなくなるからな」
「となると……独自のルートで仕入れてるというわけですか?」
「その可能性が一番ありそうだな。どういうルートかは全く分からないがな」
2人は意見を出し合うが答えは出ない。
が、完全に無策というわけではなかった。
「ダルケン、ちょうどよかったな。実を言うと、とある商人にショウユについて調査してくれと頼んでいたんだ。
彼は国をまたいで活躍しているから何か知ってるかもしれないと思ってな」
「へぇ、そうなんですか」
「約束では今日の今頃店に来る予定なんだが……」
「料理長、サイフォン様なるお客様がお待ちですがいかがいたしましょうか?」
「お、来た来た。すぐ向かうと伝えてくれ。ダルケン、お前もついでだ、来い」
店内で練習中だった見習い給仕に言われ、クラウスとダルケンは表に出る。
この辺りでは光食堂の店主を除けば似たような者は見ない、黒い髪をした人間の商人であるサイフォンを部屋に招き、話を始める。
「サイフォンさん、それで調査の結果はどうなんでしょうか?」
「あなたが望んでいる答えは出せませんね。私も手を尽くしましたが、この国に隣接する国全てでショウユに関する有力な情報は得られませんでした。
ただ、ここからは大分離れた国にはショウユらしきものが存在するという噂はあるそうです」
「ふーむ……。その国の詳細は調べられましたか?」
「あいにくそこまでは……あくまで噂話なので詳細をつかむまでには至りませんでした。申し訳ありませんね。こんな結果になってしまって」
サイフォンは詫びるような表情と声のトーンで調査結果を伝える。
「いや良いんです、無ければ無いとハッキリ言ってくれた方が助かりますし。それによその国にはありそうだという話を聞けてホッとしましたよ」
「そうですか。では報酬に関してですが……こんなところでよろしいでしょうか?」
「うん、良いでしょう。それで行きましょう」
二人はがっちりと握手を組んだ。
「ショウユ……ありそうなんですね」
「らしいな。彼の情報が確かならな」
ショウユはありそうだ……サイフォンが言うにはそういう噂話はあるらしい……どうやら実在はするようだ。
これで噂すら聞かないというのならもはや打つ手はないと言えるほどだったが、その噂が最後の希望だった。
「ダルケン、いつか俺たちもショウユを使える日が来ると良いな」
「ですね」
いつか「ショウユ」の謎を解き明かし、手に入れたい。ダルケンとクラウスは胸に決意を抱いていた。
【次回予告】
今回の話からさかのぼる事ほんの少し。サイフォンが久しぶりに光食堂を訪ねた際に頼んだメニューがそれだった。
第47話「ほうとう」
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