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第28話 餃子
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夕方になり客足が増えてくる中、チリンチリンと鈴の音を鳴らしてまた客がやってくる。
ビスタ子爵夫人の幼馴染、マリアンヌだ。
「いらっしゃいませ。あら、あなたは確かご夫人さんのお知り合いでしたよね?」
「ええそうよ。覚えてくれてありがとう。今日はメニューを見せてくださる?」
「はいかしこまりました……と、こちらがメニューになりますね」
手元にあったのか店主はすぐメニューをマリアンヌに渡した。
彼女の大好物はサバの味噌煮とライスの組み合わせで、この店でこの料理が一番美味いと確信している。
ただ、確かに美味いのだがさすがに何度も食べていると飽きてくる。
たまには別のメニューを食べようか。そう思って探してみると……それはあった。
「餃子」
「豚肉と野菜を小麦粉でできた皮で包み焼いた料理」
というものだ。
(ふーん。豚肉を使った料理ね)
虎型獣人の彼女としては肉は魚だろうが豚だろうが無条件で美味いと引き付けられる魅力があったのだ。
「決めたわ。このギョーザとかいうのをちょうだい」
「ハイかしこまりました少々お待ちを。あとメニューお下げしますね」
最近新調したのか最初の来店の時よりも座り心地が良くなった椅子に腰かけながら店主にメニューを渡して待つ。
周りにいるのは兵士が多いが背伸びした家族連れや商人らしき者、そしてこの店の雰囲気からしたら不釣り合いな
お貴族様まで居るというこの店特有の独特な客層が見て取れる。来るもの拒まずという文化もこの店ならではだ。
「お待たせしました。餃子になりますね。しょうゆをつけて食べるとおいしいですよ」
しばらくして出てきたのは、見たことも無い独特の形になった薄皮に何かが包まれているようなものが6個。
(……正体不明の料理ね)
まずは何もつけずに食べてみる。
噛むたびに豚なのだろう、皮の中に閉じ込められていた肉のうまみがじゅわりとあふれ出す。
それがニンニクやニラなどの香りの強い野菜がパリパリとした皮というアクセントと組み合わさって、なかなかパンチのある味わいだった。
(うーん……このままでも十分美味しいけど今一つね)
確かによその食堂ではまず出せない美味だ。だが、この店の料理……例えばサバの味噌身みたいな強烈なインパクトのある味には至らない。
「確か「ショウユ」とか言ったっけ? それをつけて食えと言ってたわね……」
2個目を食べる前に店主に言われた「ショウユ」なるものを試してみる。
ギョウザと一緒に出てきた小皿に、これまた一緒に出てきた瓶差しに入っている液体を垂らしていく。
中身の黒い水のような液体が小皿の上に注がれていく。
(あんまりおいしそうに見えないんだけど……この店なら大丈夫よね?)
黒い水のような液体という、マリアンヌの日常生活からは見ることはほぼ無い存在に最初は警戒するが、
だんだん「サバの味噌煮は美味しかったから大丈夫なはず」というこの店が彼女から勝ち取った信頼が背中を押す。
2個目のギョーザをショーユにつけて……食べる。その瞬間!
「うわ、何これ。おいしいわ」
思わず声が出た。
ショーユなる液体の持つうま味がギョーザに絡んで絶妙なバランスとなって、さらなる頂へと至る。
最初に食った何もつけないギョーザですらまだ未完成品だったという事に衝撃を隠せない。
(これはエールと合いそうね)
と同時に彼女の直感が背中を押す。これは良く冷えたこの店のエールと合うはずだ、と。
「店主! ナマビールをジョッキで1杯お願い!」
すかさずマリアンヌはナマビールの追加注文を行う。
彼女の予感は大当たりだった。ナマビールをグビリと飲みながらギョウザを口にするとこれがまたビックリするほどよく合う。
ナマビールを飲めばギョウザが欲しくなり、ギョウザを食えばナマビールが欲しくなる。
これだけでもいくらでも飲み食いできそうな気がしてくる程抜群な相性の良さだ。
とはいえマリアンヌは成人ではあるが女、胃袋の量には限界がある。
ギョウザ1人前とナマビール1杯で宴は終わりとなった。
「ふぅ。贅沢しちゃったわね」
店を出て振り返りながら彼女は思う。
この店は出す料理は絶品だがいかんせん値段が高い。
友人のような貴族からすれば大したことのない費用なのだろうけど、人並み以上に給金をもらってるとはいえ
庶民と大して変わらない身分からすればお高くとまってる思われてしまうような値段だ。
最初こそ戸惑ったが1度食えばこの値段というのも分かる。
明日からまたしっかりと働こう。そう思って彼女は日の短くなってきた街を急ぎ足で帰ることにした。
【次回予告】
彼は久しぶりにその店を訪ねる。そこで出会った新たな料理。反応はいかに。
第29話「焼売」
ビスタ子爵夫人の幼馴染、マリアンヌだ。
「いらっしゃいませ。あら、あなたは確かご夫人さんのお知り合いでしたよね?」
「ええそうよ。覚えてくれてありがとう。今日はメニューを見せてくださる?」
「はいかしこまりました……と、こちらがメニューになりますね」
手元にあったのか店主はすぐメニューをマリアンヌに渡した。
彼女の大好物はサバの味噌煮とライスの組み合わせで、この店でこの料理が一番美味いと確信している。
ただ、確かに美味いのだがさすがに何度も食べていると飽きてくる。
たまには別のメニューを食べようか。そう思って探してみると……それはあった。
「餃子」
「豚肉と野菜を小麦粉でできた皮で包み焼いた料理」
というものだ。
(ふーん。豚肉を使った料理ね)
虎型獣人の彼女としては肉は魚だろうが豚だろうが無条件で美味いと引き付けられる魅力があったのだ。
「決めたわ。このギョーザとかいうのをちょうだい」
「ハイかしこまりました少々お待ちを。あとメニューお下げしますね」
最近新調したのか最初の来店の時よりも座り心地が良くなった椅子に腰かけながら店主にメニューを渡して待つ。
周りにいるのは兵士が多いが背伸びした家族連れや商人らしき者、そしてこの店の雰囲気からしたら不釣り合いな
お貴族様まで居るというこの店特有の独特な客層が見て取れる。来るもの拒まずという文化もこの店ならではだ。
「お待たせしました。餃子になりますね。しょうゆをつけて食べるとおいしいですよ」
しばらくして出てきたのは、見たことも無い独特の形になった薄皮に何かが包まれているようなものが6個。
(……正体不明の料理ね)
まずは何もつけずに食べてみる。
噛むたびに豚なのだろう、皮の中に閉じ込められていた肉のうまみがじゅわりとあふれ出す。
それがニンニクやニラなどの香りの強い野菜がパリパリとした皮というアクセントと組み合わさって、なかなかパンチのある味わいだった。
(うーん……このままでも十分美味しいけど今一つね)
確かによその食堂ではまず出せない美味だ。だが、この店の料理……例えばサバの味噌身みたいな強烈なインパクトのある味には至らない。
「確か「ショウユ」とか言ったっけ? それをつけて食えと言ってたわね……」
2個目を食べる前に店主に言われた「ショウユ」なるものを試してみる。
ギョウザと一緒に出てきた小皿に、これまた一緒に出てきた瓶差しに入っている液体を垂らしていく。
中身の黒い水のような液体が小皿の上に注がれていく。
(あんまりおいしそうに見えないんだけど……この店なら大丈夫よね?)
黒い水のような液体という、マリアンヌの日常生活からは見ることはほぼ無い存在に最初は警戒するが、
だんだん「サバの味噌煮は美味しかったから大丈夫なはず」というこの店が彼女から勝ち取った信頼が背中を押す。
2個目のギョーザをショーユにつけて……食べる。その瞬間!
「うわ、何これ。おいしいわ」
思わず声が出た。
ショーユなる液体の持つうま味がギョーザに絡んで絶妙なバランスとなって、さらなる頂へと至る。
最初に食った何もつけないギョーザですらまだ未完成品だったという事に衝撃を隠せない。
(これはエールと合いそうね)
と同時に彼女の直感が背中を押す。これは良く冷えたこの店のエールと合うはずだ、と。
「店主! ナマビールをジョッキで1杯お願い!」
すかさずマリアンヌはナマビールの追加注文を行う。
彼女の予感は大当たりだった。ナマビールをグビリと飲みながらギョウザを口にするとこれがまたビックリするほどよく合う。
ナマビールを飲めばギョウザが欲しくなり、ギョウザを食えばナマビールが欲しくなる。
これだけでもいくらでも飲み食いできそうな気がしてくる程抜群な相性の良さだ。
とはいえマリアンヌは成人ではあるが女、胃袋の量には限界がある。
ギョウザ1人前とナマビール1杯で宴は終わりとなった。
「ふぅ。贅沢しちゃったわね」
店を出て振り返りながら彼女は思う。
この店は出す料理は絶品だがいかんせん値段が高い。
友人のような貴族からすれば大したことのない費用なのだろうけど、人並み以上に給金をもらってるとはいえ
庶民と大して変わらない身分からすればお高くとまってる思われてしまうような値段だ。
最初こそ戸惑ったが1度食えばこの値段というのも分かる。
明日からまたしっかりと働こう。そう思って彼女は日の短くなってきた街を急ぎ足で帰ることにした。
【次回予告】
彼は久しぶりにその店を訪ねる。そこで出会った新たな料理。反応はいかに。
第29話「焼売」
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