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第24話 フルーツミックス
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「……わかりました。それで行きましょう。これから長い付き合いになりますがよろしくお願いします」
「こちらこそご協力いただけることを感謝します。助力は惜しみません。末永くよろしくお願いします」
ビスタ子爵夫妻が手掛けている調整の続いていた交渉がようやく成立した。これで来年の夏から王都にも美味いトウモロコシが出回る事だろう。
「やっと終わったわね」
「夏の初めから交渉が始まって今ではもう冬か……長かったな。一緒に協力してくれてありがとう。お前がいなかったら決裂してたかもな」
「そうかしら……あなたの交渉術が上手かっただけで私はそれをほんの少し後押ししただけだわ」
トウモロコシの流通に関する交渉を始めたのは夏の初め、それが今では冬が始まろうとしており、季節の移ろいとは本当に早いものだと実感していた。
翌日……ビスタ子爵夫人はいつものように「光食堂」へとやってきた。
「いらっしゃいませ。あら、ご夫人さんじゃないですか。今日もいつものコーヒーゼリー3つでよろしいでしょうか?」
「いえ。今日はフルーツミックスをお願いいただけるかしら?」
「そうですか、かしこまりました。少々お待ちいただけますか?」
大きな仕事を終えた後には自分へご褒美をあげたい。
そんな日はいつものコーヒーゼリーではなく別の注文を出すことにしていた。それが「フルーツミックス」だった。
「お待たせいたしました。フルーツミックスになります」
コーヒーゼリー同様、作り置きでもしているのか大して待たずにその料理は出てきた。
この店の物では割と華やかな器にフルールミックスの名の通り果物がいくつか盛られていた。
さくらんぼにみかん、それにモモといったフルーツ、それにコーヒーゼリーの技術を使って作られたのだろう、さいの目に切られた緑色のゼリーに似た何か。
それらの食材がカラフルに彩られて、見た目からしてもキレイで目でも楽しめる料理だ。
ますはスプーンでみかんをすくって口に入れる。
……甘い。
おそらくは砂糖煮でもしたのだろう、汁の甘さを吸ってデザートにふさわしい甘さ。
みかん本来が持つほのかな酸味も加わり、それも甘さを際立たせているアクセントになる。
続いて口にしたモモも大変柔らかくて甘く、ただ甘いだけでなく「コクのある甘さ」とでも言えばいいのだろうか?
砂糖の甘さ以外の何かがある奥深い味わいであった。
さらにさいの目に切られた緑色のゼリーらしきものを食べてみると、
材料にも砂糖が練り込まれているのだろうかほのかな甘みが舌に伝わる。
そのどれか1つでも十分貴族のおやつとして成立しそうな美味であった。
この国では砂糖は一昔前と比べればだいぶ流通量が増え、裕福なものに限られるが庶民の間にもようやく広まり始めているらしい。
だがそれでもまだまだ希少で今でも貴族の物だと言っていい。
そのため「甘ければ甘いほど良い」という砂糖信仰は健在で、砂糖をこれでもかと大量に入れて「歯が溶けるほどの」甘さに
仕上げるのが貴族向け菓子の定番だが、それよりも美味いと断言できるものだ。
……貴族向けの菓子と比べると格段に甘くないのに、それでもおいしいのだ。
(それにしても不思議。この甘さはどうしても再現できないのよねぇ。何を使ってるのかしら?)
彼女が気に入っていたのは単純に砂糖を入れただけでは再現できない深みのある甘さ……おそらくは果実そのものが持つ甘さなのだろう。
彼女が知るフルーツでは再現することが出来ない。コーヒーゼリーの製造技術といい、この店には謎がある。
フルーツミックスのおいしさに大いに満足しながら、その料理が持つ不思議さに少しの疑問を抱きながら食べ進め、ついには無くなってしまう。
「店主、フルーツミックスをもう1ついただけるかしら?」
「はい、かしこまりました。少々お待ちを」
でも、無くなったらまた注文すればいい。ビスタ子爵夫人は追加のフルーツミックスを待つ間少し考える。
今はまだ夫の手伝いをしなければいけない程仕事が忙しいけど、そのうち落ち着いて子供でも出来たら3人でここを訪れよう。
夫も子供もきっと喜ぶはず、と。
【次回予告】
それは料理というよりは付け合わせといった感じのメニュー。それでも少年にとっては衝撃を受けるような味だった。
第25話「パンとチーズ」
「こちらこそご協力いただけることを感謝します。助力は惜しみません。末永くよろしくお願いします」
ビスタ子爵夫妻が手掛けている調整の続いていた交渉がようやく成立した。これで来年の夏から王都にも美味いトウモロコシが出回る事だろう。
「やっと終わったわね」
「夏の初めから交渉が始まって今ではもう冬か……長かったな。一緒に協力してくれてありがとう。お前がいなかったら決裂してたかもな」
「そうかしら……あなたの交渉術が上手かっただけで私はそれをほんの少し後押ししただけだわ」
トウモロコシの流通に関する交渉を始めたのは夏の初め、それが今では冬が始まろうとしており、季節の移ろいとは本当に早いものだと実感していた。
翌日……ビスタ子爵夫人はいつものように「光食堂」へとやってきた。
「いらっしゃいませ。あら、ご夫人さんじゃないですか。今日もいつものコーヒーゼリー3つでよろしいでしょうか?」
「いえ。今日はフルーツミックスをお願いいただけるかしら?」
「そうですか、かしこまりました。少々お待ちいただけますか?」
大きな仕事を終えた後には自分へご褒美をあげたい。
そんな日はいつものコーヒーゼリーではなく別の注文を出すことにしていた。それが「フルーツミックス」だった。
「お待たせいたしました。フルーツミックスになります」
コーヒーゼリー同様、作り置きでもしているのか大して待たずにその料理は出てきた。
この店の物では割と華やかな器にフルールミックスの名の通り果物がいくつか盛られていた。
さくらんぼにみかん、それにモモといったフルーツ、それにコーヒーゼリーの技術を使って作られたのだろう、さいの目に切られた緑色のゼリーに似た何か。
それらの食材がカラフルに彩られて、見た目からしてもキレイで目でも楽しめる料理だ。
ますはスプーンでみかんをすくって口に入れる。
……甘い。
おそらくは砂糖煮でもしたのだろう、汁の甘さを吸ってデザートにふさわしい甘さ。
みかん本来が持つほのかな酸味も加わり、それも甘さを際立たせているアクセントになる。
続いて口にしたモモも大変柔らかくて甘く、ただ甘いだけでなく「コクのある甘さ」とでも言えばいいのだろうか?
砂糖の甘さ以外の何かがある奥深い味わいであった。
さらにさいの目に切られた緑色のゼリーらしきものを食べてみると、
材料にも砂糖が練り込まれているのだろうかほのかな甘みが舌に伝わる。
そのどれか1つでも十分貴族のおやつとして成立しそうな美味であった。
この国では砂糖は一昔前と比べればだいぶ流通量が増え、裕福なものに限られるが庶民の間にもようやく広まり始めているらしい。
だがそれでもまだまだ希少で今でも貴族の物だと言っていい。
そのため「甘ければ甘いほど良い」という砂糖信仰は健在で、砂糖をこれでもかと大量に入れて「歯が溶けるほどの」甘さに
仕上げるのが貴族向け菓子の定番だが、それよりも美味いと断言できるものだ。
……貴族向けの菓子と比べると格段に甘くないのに、それでもおいしいのだ。
(それにしても不思議。この甘さはどうしても再現できないのよねぇ。何を使ってるのかしら?)
彼女が気に入っていたのは単純に砂糖を入れただけでは再現できない深みのある甘さ……おそらくは果実そのものが持つ甘さなのだろう。
彼女が知るフルーツでは再現することが出来ない。コーヒーゼリーの製造技術といい、この店には謎がある。
フルーツミックスのおいしさに大いに満足しながら、その料理が持つ不思議さに少しの疑問を抱きながら食べ進め、ついには無くなってしまう。
「店主、フルーツミックスをもう1ついただけるかしら?」
「はい、かしこまりました。少々お待ちを」
でも、無くなったらまた注文すればいい。ビスタ子爵夫人は追加のフルーツミックスを待つ間少し考える。
今はまだ夫の手伝いをしなければいけない程仕事が忙しいけど、そのうち落ち着いて子供でも出来たら3人でここを訪れよう。
夫も子供もきっと喜ぶはず、と。
【次回予告】
それは料理というよりは付け合わせといった感じのメニュー。それでも少年にとっては衝撃を受けるような味だった。
第25話「パンとチーズ」
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