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第19話 コロッケ
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「コロッケ」
「茹でたジャガイモを潰して形を整え、パン粉をつけて油で揚げた料理」
すっかりと顔なじみなり、常連と言ってもいい位には通うようになったゲルム。
今日は「この店は飯屋なんだから酒ばかり飲むのもアレだからたまには飯でも食おうか」そう思いながらメニューを眺めていたが、それを見て彼は指を止める。
「コロッケか……ジャガイモを使った料理だそうだが聞いたことも無い奴だな」
「あ、それオレは1度だけ食ったことがあります」
「ほぉそうか。美味かったか?」
「コロッケそのものもなかなかですがソースをつけると化けますよ」
ゲルムは彼と同じく食事目的で鳥のから揚げを食っている顔見知りの常連、ラルとこの料理について情報交換をする。
「ふーんそうか。よし頼もう。オイ店主! ワシにコロッケを2人前頼む!」
この国は獣人が暮らしているためか、自分のようなドワーフ、それに似た種族である人間もほとんど見ない。
ゲルムはほんの少しだが種族的に似ている人間の店主に、やはり少しだけだが親近感を持っていた。
それに、以前店のあるだけのアルコールを全部飲み干した身としてはこの店は特別な店の一つとなっていた。この店の料理なら変なものは出さないだろう。
「お待たせいたしました、コロッケ2人前になります。瓶に入ってるソースをつけて食べてくださいね」
ラルが帰ってから待つことしばし。楕円形をした黄金色の物体が3つ盛られた皿が2皿分、それに瓶差しが出てきた。
「……見たことのない料理じゃのう。まぁいいか。食えばわかる」
ゲルムはザクリとコロッケをフォークで刺し、一口で1個丸ごと食う。
ホクホクとしたジャガイモの癖のない味に、混ざった挽き肉のうま味、それにかすかなバターの味がする。
「ふーむ。美味いと言えば美味いが……何か物足りんの」
それは普段食ってる料理と比べればだいぶ上物の味がするが……「この店の料理」としては物足りない。
「……そういえばラルの奴も店主も「ソース」とかいうのをつけて食え、と言ってたな」
ゲルムは思い出したように陶器で出来た瓶差しをむんずとつかみ、中身の黒くてドロッとした液体をコロッケにかけていく。
「ふーむ。変な臭いはしないが……美味そうには見えんな」
彼は団子鼻で匂いを嗅ぎながらソースのかかったコロッケを見る。
「ソース」なるものは彼の知識からすると、タールのような色と粘度だ。変な臭いこそしないがこれで本当に美味くなるのか? 疑問だ。
とはいえ、以前あれだけ美味い酒を出したこの店ならメシも不味かったり変なものを出したりはしないだろう。
という信頼関係から口にコロッケを運んだ……その瞬間。
「!!」
言葉が出ない。
比較的淡白味付けのコロッケ本体に、何が材料なのかはわからないが濃厚な「ソース」が絡むことでその料理は完成形となった。
この「ソース」とやらはコロッケのために作られたのではないのか? それほどの相性の良さを感じさせるくらいだ。
(こいつはパンと合わせると絶品になるぞ!)
「オイ店主! 付け合わせのパンを2人分追加だ! あとナマビールも2杯くれ!」
怒鳴るようにゲルムは追加の注文を飛ばす。彼の直感は正しかった。
パンとソースをつけたコロッケの相性は抜群で、なるほどこの店の料理だと納得できるほどの味だ。
次いで出てきたナマビールなるエールをコロッケをつまみにしながら飲む。それもまた美味い。
あっという間に酒もコロッケも胃袋の中へと消えていった。
結局ゲルムはこの日、コロッケとパンを2人分、酒も3人分飲んで帰っていった。もちろん大満足の顔をしながらだった。
【次回予告】
「天津飯」なる卵を使った料理を食べながら彼は思った。この店が無ければ彼女に出会うことはなかっただろう、と。
第20話「天津飯」
「茹でたジャガイモを潰して形を整え、パン粉をつけて油で揚げた料理」
すっかりと顔なじみなり、常連と言ってもいい位には通うようになったゲルム。
今日は「この店は飯屋なんだから酒ばかり飲むのもアレだからたまには飯でも食おうか」そう思いながらメニューを眺めていたが、それを見て彼は指を止める。
「コロッケか……ジャガイモを使った料理だそうだが聞いたことも無い奴だな」
「あ、それオレは1度だけ食ったことがあります」
「ほぉそうか。美味かったか?」
「コロッケそのものもなかなかですがソースをつけると化けますよ」
ゲルムは彼と同じく食事目的で鳥のから揚げを食っている顔見知りの常連、ラルとこの料理について情報交換をする。
「ふーんそうか。よし頼もう。オイ店主! ワシにコロッケを2人前頼む!」
この国は獣人が暮らしているためか、自分のようなドワーフ、それに似た種族である人間もほとんど見ない。
ゲルムはほんの少しだが種族的に似ている人間の店主に、やはり少しだけだが親近感を持っていた。
それに、以前店のあるだけのアルコールを全部飲み干した身としてはこの店は特別な店の一つとなっていた。この店の料理なら変なものは出さないだろう。
「お待たせいたしました、コロッケ2人前になります。瓶に入ってるソースをつけて食べてくださいね」
ラルが帰ってから待つことしばし。楕円形をした黄金色の物体が3つ盛られた皿が2皿分、それに瓶差しが出てきた。
「……見たことのない料理じゃのう。まぁいいか。食えばわかる」
ゲルムはザクリとコロッケをフォークで刺し、一口で1個丸ごと食う。
ホクホクとしたジャガイモの癖のない味に、混ざった挽き肉のうま味、それにかすかなバターの味がする。
「ふーむ。美味いと言えば美味いが……何か物足りんの」
それは普段食ってる料理と比べればだいぶ上物の味がするが……「この店の料理」としては物足りない。
「……そういえばラルの奴も店主も「ソース」とかいうのをつけて食え、と言ってたな」
ゲルムは思い出したように陶器で出来た瓶差しをむんずとつかみ、中身の黒くてドロッとした液体をコロッケにかけていく。
「ふーむ。変な臭いはしないが……美味そうには見えんな」
彼は団子鼻で匂いを嗅ぎながらソースのかかったコロッケを見る。
「ソース」なるものは彼の知識からすると、タールのような色と粘度だ。変な臭いこそしないがこれで本当に美味くなるのか? 疑問だ。
とはいえ、以前あれだけ美味い酒を出したこの店ならメシも不味かったり変なものを出したりはしないだろう。
という信頼関係から口にコロッケを運んだ……その瞬間。
「!!」
言葉が出ない。
比較的淡白味付けのコロッケ本体に、何が材料なのかはわからないが濃厚な「ソース」が絡むことでその料理は完成形となった。
この「ソース」とやらはコロッケのために作られたのではないのか? それほどの相性の良さを感じさせるくらいだ。
(こいつはパンと合わせると絶品になるぞ!)
「オイ店主! 付け合わせのパンを2人分追加だ! あとナマビールも2杯くれ!」
怒鳴るようにゲルムは追加の注文を飛ばす。彼の直感は正しかった。
パンとソースをつけたコロッケの相性は抜群で、なるほどこの店の料理だと納得できるほどの味だ。
次いで出てきたナマビールなるエールをコロッケをつまみにしながら飲む。それもまた美味い。
あっという間に酒もコロッケも胃袋の中へと消えていった。
結局ゲルムはこの日、コロッケとパンを2人分、酒も3人分飲んで帰っていった。もちろん大満足の顔をしながらだった。
【次回予告】
「天津飯」なる卵を使った料理を食べながら彼は思った。この店が無ければ彼女に出会うことはなかっただろう、と。
第20話「天津飯」
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