上 下
2 / 54

第2話 招かれざる客

しおりを挟む
『旧市街地区に最近、値段は高いがそれ以上の絶品料理を出す店が出来た』

『あの『猛獅子』ライオネル元将軍も常連らしい』



 主に兵士たちの間で噂になっているのか、彼女の店は兵士が多い。だが、ここ最近は特に多い。

 噂では旧市街地区を重点的に見回りをさせているらしい。なぜだろうと思う彼女の疑問に答えを出す兵士がいた。

「ああそうだ店主さん。戸締りはしっかりしてくださいよ。ここ最近物騒な事が起こってますんで」

「物騒な事って?」

「旧市街地区を中心に空き巣が増えてるんですよ。店主さんも気を付けた方が良いですよ」

 ここ数日は見回りに来ていた兵士が多かったがそう言う理由があったのか。どうりで兵隊さんが多いわけだ、と彼女は納得した。



 その数日後……開店前の光食堂に招かれざる客がやってきた。



(最近はやりの店らしいな。儲かってるんだろうなぁ)

 灰色の髪をしたオオカミ型獣人の男が舌なめずりをしながら慣れた手つきでカギをこじ開け、押し入る。

 チリンチリンと鈴の音が鳴るのを気にしつつも誰もいない店を慣れた足取りで厨房へと向かう。

(何だコレ?)

 まず目が行ったのはテーブル。

 テーブルの上には平べったい魔導器具と、その上に置かれた真ちゅうのヤカンが4つずつ、円柱状の魔導器具らしきものが同じく4個置いてあった。

 特に円柱状の魔導器具は木でも金属でも陶器でもない、謎の素材で出来ている。

 さすがにヤカンは分かるがそれ以外は使い方がさっぱりわからない。



 そして中央に置いてあるのは円柱状の魔導器具と同じ素材で出来た四角い箱が2つ。

 取っ手らしきものを引くと開いた。どうやら中に何かを入れる構造になってるらしい。

 だが何に使うかまでは分からなかった。手にして見るとずっしりと重い。

(何かを入れる箱か? でも中に物があまり入らないし、持ち運ぶにしても重すぎるな)

 その謎の魔導器具の後ろからは白い線が伸びており奇妙な四角い箱のような物体とつながっている。

 これもおそらくは何かしらの魔導器具だろうとは思うがやはり使い道は一切分からない。



 その謎の魔導器具の脇には鉄でできたビンが数本と、分厚く、紙としては頑丈なもので出来た箱、

 それにテーブルに置かれてあった円柱状や箱型の魔導器具と同じ素材で出来た箱が数個置いてあった。

 ビンや箱の表面には何か模様のような物と文字のような物が描かれてあったが完全に未知の言語でこれまた意味は分からない。

 紙で出来た箱はフタが空いてあり、中に謎の素材で出来たふた付きの器のような物が何個も入っていたが何なのかはわからない。

 謎の素材で出来た箱は何かあると思って開けてみようとしたが錠前が無いにも関わらず開かない。

 持ってみると比較的軽量だったが持ち運ぶにはデカすぎるため諦める。



(妙な店だなぁ)

 どうやらここは元々料理屋として建てられた家らしい。

 だが、かまどには長い事使った跡が無いし、薪のストックもない。

 それどころかフライパンやナベ、包丁といった基本的な調理器具すら無い。

(ま、どうでもいいか。それよりカネだな……)

 魔導器具に関しては専門外である彼にとっては使い方が分からず、売り物になるかどうかさえ怪しい魔導器具より

 即座に現金に出来る貴金属や宝石、あるいは現金そのものの方が重要だった。彼は物色を続けた。



(え……? 扉があいてる!?)

「光食堂」の店主である光はちょっとした用で店を後にした際に入り口のカギを閉めたはずだった。それなのになぜか開いている。

 一瞬閉め忘れかと思ったが、確かに閉めた記憶はある。頭の中に兵士から聞いた空き巣の事が思い浮かぶ。

(もしかして……誰かが忍び込んでる!?)

 どうしようかと恐怖で固まっていた時に、偶然見回りをしていた兵士達が彼女の元へとやってくる。



「あ、どうも。店主さん」

「兵士さん! ちょうどよかった! うちの店に泥棒が入ったみたいなの!」

「!! 何だって!?」

 彼らに緊張が走る。

「俺とボブが正面から突っ込む。ダリウスは店の裏手にまわれ。ロンは仲間を呼んできてくれ。いいな」

 チームリーダーは素早く指示をだし、流れるような動きで部下たちはそれに従う。

「よし……行くぞ!」

 リーダーが勢いよく入り口を開ける。と同時にキッチンを物色していた泥棒を見つける。



「誰だ! そこにいるのは!?」

「!! クソッ!」

 泥棒は勝手口を開けて逃げ出した。だが彼の前には外で待機していた兵士が立ちはだかる。捕まって取っ組み合いが始まる。

「クソッ! 離せ!」

「こっちだ! 来てくれ!」

 泥棒ともみくちゃになりながら兵士は叫ぶ。間もなく仲間が応援に駆け付けてきて泥棒は取り押さえられ、御用となった。



 光は改めて調理場に置いてあったものを一つ一つ確認する。

 ガスコンロも魔法瓶も電子レンジもガス発電機もクーラーボックスも、そして「売り物」であるインスタント食品も無事だ。



「光さん、何か盗まれた被害はありませんか?」

「いえ。置いてあったものは全て無事です。大丈夫です。現金も置いてなかったので盗られてはいないです」

「そうですか。そりゃよかった。ところでこの魔導器具、何に使うんですかね?」

「まぁいろいろと……出来れば答えたくない秘密って事で良いですか?」

「ははっ。まいったねぇ」

 他にも兵士たちに色々聞かれたが、答えられることは正確に、答えられないことは誤魔化した。

 地球からこの異世界に持ち込んだものは誰にも言えない秘密なのだから。



【次回予告】
マクラウドは友人兼同僚のラルを誘い、光食堂を訪れる。そこで頼んだのはエールと相性抜群な料理だった。

第3話「鶏のから揚げ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...