上 下
42 / 53

第42話 クーデター成る。しかし多少の不備あり

しおりを挟む
 とりあえず落ち着かせる、という名目で自分の寝室に連行されたエドワード国王。その怒りは到底おさまりそうには見えなかった。
「湯が沸かせそうなほど」頭全体を赤くして周りの兵士に怒鳴り散らす彼のもとに密約を交わした息子と配下がやってくる。

「サモエド! ロトエロ! これは一体どういうつもりなんだ!?」

「こういうつもりです、陛下」

 サモエドが合図を送ると彼の配下である兵士たちが一斉にエドワード国王に向けて剣や槍を向ける。
 ピン、と空気が張り詰められるのを感じると同時に、こいつまさか。と相手の目的を察する。



「これからのエドワード王国のかじ取りはこの私、ロトエロ=エドワードがさせていただきます。父上には「いなくなって」もらいますが、よろしいですね?」

「……貴様ら! こんなことして許されると思っているのか!?」

「もちろん。私も母上も死にたくないのでこうするしかないんですよ」

「許さんぞ! 何があろうがオレは貴様らを絶対に許さんぞ! 絶対に後悔させてやる! 覚悟しておくんだな!」

 味方のいない王は怒りこそぶつけるが多勢に無勢。彼らの指示に従い、投獄されるしかなかった。
 ほんの10分もたたないくらい前に自分の妻がつながれていた牢獄に、今度は自分がつながれることになってしまった。



 ロトエロとサモエドは軍会議を開き、今後の予定を組み立てる真っ最中だった。

「ふーむ。味方は……総勢900か。よくここまで集められたな」

「エドワード王国軍の7割から8割程度を取り込むことができました。この日のために数年前から水面下で工作を続けた甲斐がありましたね」

「へぇ、もうそこまで段取りが済んでいるのか。大したもんだな」

 ロトエロとサモエドは話を詰めていた。サモエド伯爵の水面下で工作を粘り強く進めていたのもあってその成果は非常に大きかった。
 ロトエロ側は900、それに対し国王側は300という兵力差で、まず「まさか」は起きない。このまま相手をすりつぶせば王位は正式に自分の物になるだろう。



「ロトエロ様、あなたの兄上はいかがいたしますか?」

「あのバカか。とりあえずバクチさせとけば無害だし、大して脅威にもならないだろうから放っておけ。それより父上側の勢力の排除が先だな。
 数では圧倒的に有利とはいえ、追い詰められると何をしでかすか分かったもんじゃないからな。
 とりあえず父上側につく部隊に降伏勧告を送るとしよう。穏便な方法で済ませられるのならそれが一番いいからな」

 ロトエロは降伏勧告書を発行し、兵に届けさせるよう渡した。



 国王側につく軍が降伏勧告を受諾する少し前……牢獄に差す日光の角度からしておそらく外は夕方になっているのだろうと投獄されたエドワード国王は読んでいた。
 だが、彼の目は死んではいなかった。すぐにここを脱出できると確信しているかのような瞳だった。
 それとはまったくもって対照的な様子の、さっきからやる気のまるでない見張りが1人で王の様子を見ていたところ、彼の同僚がやってきた。

「よう。1杯やってこうぜ」

「ええ? まだ勤務時間中だぞ?」

「平気平気! 誰も気づきやしねえって。こんなところにいないで飲もうぜ、な!」

 誘いを断れなかったのか、あるいは日ごろの職務怠慢たいまんなのか、見張りは牢獄を後に酒場で1杯やるためにこっそり抜け出した。
 残されたのは牢獄内にいる王のみ。彼はこれを待っていたのだ。



(さて……脱獄だつごくするか)

 1年前に整備された王城地下の牢獄。その設計者は何を隠そう彼、エドワード国王によるものだ。
 寝首をかれて投獄されてもいいように、牢獄内には細工が施されていた。石壁に偽装したボタンを押し、出てきた5つの石の出っ張りを正しい順序で押すとカチリ、と石壁から音がした。
 彼が壁を押すと隠しドアが開き、入ると脱走用の通路に出た。途中に隠しておいた剣や軽い防具、それにいくばくかのカネを持って通路を抜け、ハシゴを上る。



 ハシゴを上った後たどり着いたのは馬小屋、それも王族用の馬が飼育されている小屋で普段彼が使っている馬ももちろんいた。

「パトリシア、元気だったか? 今から長旅に出るんだ。準備は良いか?」

「ブルルル」

 まるで王の言葉が分かっているかのように鼻息で返事する。王の馬として大切に飼育されているだけあって準備は万全だ。
 それにまたがり、アランドル王国目指して駆け出した。



 翌朝……



「大変です! 元国王が脱獄しました! どこにいるのか分かりません!」

「!? 何だとぉ!? 見張りは何をやってたんだ!?」

「ほんの数分目をそらしていただけで煙のように消えてしまったそうです!」

 自分の父親が脱獄するという予定外の出来事が起こった。王位継承の宣言と共に処刑する予定だったのだがそれが外れた。



「クソッ! ……まぁいい。で、反乱兵はどうなった?」

「全員降伏したそうです。数の差で勝ち目がない、と判断したのでしょう」

「分かった。あとは……父上がどう出るかだな。このまま行方不明になってくれるとは思えないよなぁ?
 至急捜索隊をアランドル王国方面に向けて放て。もし父上が何かするとしたら、アランドル王国がらみだ。カレンを嫁に行かせた以上デニス王は父上にとっての義理の息子だからな」

 新たなエドワード王は切れ者で頭が回る。彼の父親の手を読んでいたのだ。
 ロトエロの血のつながっていない父親が頼れるところは、娘のカレンを嫁がせたアランドル王国くらいしかないからだ。
 彼の読みは当たっていた。ただしこの時点で追うには距離は離れすぎていたのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...