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第25話 変化

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 デニスとカレンの挙式が行われるまで、あと1週間となった。
 この日、式典の予行練習として来賓らいひん、つまりは「招待客」がいない事や服装など細かいところを除けば本番とほぼ同じ内容の練習が行われていた。
 本番さながらの練習は特に何事もなく終わった。



「お疲れ様です、皆さん」

 カレンは本番同様に護衛任務をこなした軍人たちに声をかける。真剣に臨んだためか、はたまた本番で使う式典用の軍服を着込んだせいなのか真夏のように暑いわけでもないのに汗をかいていた。

「アレクさん、まだ暑いってわけじゃないのにずいぶんと汗をかいてますね」

「不審者がいつ仕掛けてくるか分からないから常に神経を集中していますからね。本番の際も全力でお守りするのでご安心してください」

(「はい」か。軍人っていうのは頼りになるなぁ)



「そ、そう。今回はあくまで練習ですからそこまで徹底しなくてもいいとは思いますけど」

「練習で出来ない事は本番では絶対に出来ません。こういう所からえりを正していかないと、もし本番でカレン様に何かがあったらそれこそ一生、いやアランドル王国の歴史にずっと残ってしまいますよ」

(「はい」か。自分にとても厳しいのね)

 さすがは軍人というところか、どこまでもストイックだ。



 1日の予定を終えて、カレンは入浴することにした。
 ずいぶんと贅沢なことに、ここに来てからは毎日入れることを最初に聞いた時はとてもビックリしたのはよく覚えている。

「週1回か2回」という平民よりは入浴の回数は多いとは言えど、実家では2日に1度、それも自分以外の関係者が入った後のぬるくて湯面に垢や髪の毛が浮いたものを1人で我慢して入っていたものだが、ここに来てからは毎日入るようになっていた。

 それもかしたての1番風呂な上に、侍女によって体を洗ってもらうという実家では考えられないようなサービス付きでだ。
 カレンの頭を洗っている侍女は、彼女の髪を見て、ある事に気づいた。

「そういえばカレン様、髪の毛にハリとコシが出てきたように感じられますが……」

「え? そう?」

 自分でも手触りで何となく髪質が良くなっている、とは薄々と感じていたが他人からはっきりと指摘されたのは初めてだ。



 カレンの事を憎悪している義理の母親や兄がいないというストレスのない環境というのもあるだろうが、最大の違いはやはり食生活だろう。
 カレンの実家では彼女の食事は麦かゆに具の少ない粗末な塩味のスープが基本で肉は週に1度あるか無いか、という城仕えのメイドや執事よりも貧相な食事だったのだが
 アランドル家に越してからは肉が多めに食べられるようになって慢性的なたんぱく質不足が解消され、髪の毛に本来持っていたハリとツヤ、それにコシも復活したのだ。

「やっぱりここに来てからお肉をたくさん食べられるようになったからかな? なんだかここにきて2ヶ月くらい経つけど胸も大きくなったし背も伸びだして、今着てる衣装もサイズ調整したからね」

「確かカレン様は12歳かそこらだと聞いていますから今が伸び盛りな時期ですよね。これから一気に伸びると思いますよ。
 確か嫁入り道具に成人後のドレスも入っていましたけどあれに着替える時期もすぐに来るでしょうね」

「へー、そういうものなんだ」

(「はい」か)

 前に服がきつくなった際に「成人用」のドレスは見たことがあるが、あれがピッタリ入るのを想像するのは、まだ難しかった。
 少し大きくはなったが「女性」というよりは「少女」と言うべき年齢の彼女には、まだ信じられい事だったのだから。
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