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激闘 ヴェルガノン帝国
第117話 デュークの過去
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厳しい寒さが続く中、マコトはシグリッドに問う。
「シグリッド、聞きたい事があるんだがいいか? なぜヴェルガノン帝国のデュークは不死者の力で勢力を広めているのか、分かるか?」
「あくまで私が関係者から聞いた話を継ぎ接ぎしたものになりますが、よろしいでしょうか?」
「構わん。聞かせてくれ」
彼は現在仕える君主に語りだした。
◇◇◇
その日、デュークは父親である当時皇帝だった男と食事をしていた。
「父上、こうして一緒に食事するのは何年ぶりですかな? うれしいですよ。でもどうして急に?」
「なぁにデューク、これがお前との『最期の』食事になるからな」
「最期の? 一体どういうわけ……うぐっ!?」
食事中に急にデュークが苦しみ始めた。
「冥土の土産だ、教えてやる。お前が産まれたせいで私の完璧な人生が大きく狂った。その修正のためにお前の食事に毒を盛ったのだよ」
「ど、毒!? 父上……何故……何故このような仕打ちを……!」
「お前の存在自体が私にとってこの上ない迷惑で汚点そのものなんだよ。私を思っているのならさっさとくたばって死ね。それがお前にできるたった一つの親孝行だ」
「そ……そんな……」
ドサッ。と音を立てて彼は崩れ落ちた。
「誰か! 誰か医者を! デューク様が! デューク様がぁああ! あああああ!」
近衛兵のティアラは守るべき相手が目の前で倒れるのを見て半狂乱になったかのような悲鳴を上げて医者を呼ぶ。
倒れてからどれくらい経っただろうか? 何も見えない暗闇の空間に竜が現れた。
「憎メルカ?」
声が聞こえる。灰色の身体に痩せぎすで骨ばった、あばら骨がはっきり見えるドラゴンがデュークに声をかけてくる。
「憎メルカ? 父ヲ。ソシテ人間ヲ」
「……ああ。憎い。憎いとも」
「気ニイッタ。良イダロウ。力ヲ貸シテヤル」
デュークが倒れて一週間後。生死の境をさまよい……いや、一度死んだ彼は目を覚ました。
「デューク様!? 意識が戻ったのですか!?」
「何!? デューク! なぜ生きてる!? 致死量の10倍の毒を盛ったのに!」
「父上。私は確かに死にましたよ。でも不死者として蘇ったんです。今回の件で私は深い学びを得ましたよ……人間という生き物は、地獄の悪魔よりも卑劣で醜悪な、疫病のような存在だという事をね」
「お前! 実の父に……!」
「父上、貴方は私に「お前の存在自体が迷惑で自分の人生の汚点」と言いましたよね? その言葉、そっくりそのまま返しますよ。貴様みたいな醜悪な生き物の血を引いていることが私の恥だ!」
そう言ってデュークは何のためらいも持たずに持っていた剣で父親の首をはねた。
「……」
その様をティアラは黙ってみているしかなかった。
「ティアラ、お前は1回私を助けた。だから1回だけお前の言うことを聞こう。何が望みだ?」
「……デューク様、私は5歳の頃奴隷だった時に貴方に拾い上げられて以来、貴方のそばに居ました。私にとって貴方は私の半身であり生きる理由でありました。
これからも私を貴方の元にいさせてください。この命尽きるまで……いえ『尽きた後』でも」
「……いいだろう。その願い、かなえてやる」
デュークは近衛兵であるティアラの首をはね飛ばした。ボトリという音とともに首が落ちる。しばらくして斬り落とされた首を彼女の身体が拾い、首の上に乗せた。
これが、ヴェルガノン帝国が不死者の国として栄える、その原点だった。
◇◇◇
「デュークは彼の父親が若いころの女遊びでばらまいた種から産まれた子供だそうです。
男であるという事と、皇后(皇帝の妻)との間には子宝に恵まれなかったがゆえに仕方なく王宮に上がることを許されましたが腫れ物に触るような扱いをしていたそうです。
彼は自らの父親に認められようと勉学や鍛練に励みましたが、その出から優秀になればなるほどから嫌われるようになって……ある日の会食で皇帝陛下はデュークの食事に毒を盛って殺そうとしたのです」
「!!」
「彼は1週間苦しみ続けました、そして目覚めてからは人が変わったようになってしまい、お父上を自らの手で斬ったそうです」
「……」
マコトはシグリッドの話をただただ黙って聞いていた。
「マコト様……もしデュークと出会うことがあれば何のためらいもせずに彼を殺してください。もはや彼は完全に憎しみと絶望に飲まれてしまいました。死でしか救う方法は、無いでしょう」
「分かった。そうするよ」
話を聞いた限りではその出目には同情はする。だがそれは人を殺していい免罪符にはならない。マコトは話を聞いていずれぶつかるときには容赦せずに戦うことにした。
【次回予告】
綱渡り。一言でいうならそれだ。
第118話 「綱渡り」
「シグリッド、聞きたい事があるんだがいいか? なぜヴェルガノン帝国のデュークは不死者の力で勢力を広めているのか、分かるか?」
「あくまで私が関係者から聞いた話を継ぎ接ぎしたものになりますが、よろしいでしょうか?」
「構わん。聞かせてくれ」
彼は現在仕える君主に語りだした。
◇◇◇
その日、デュークは父親である当時皇帝だった男と食事をしていた。
「父上、こうして一緒に食事するのは何年ぶりですかな? うれしいですよ。でもどうして急に?」
「なぁにデューク、これがお前との『最期の』食事になるからな」
「最期の? 一体どういうわけ……うぐっ!?」
食事中に急にデュークが苦しみ始めた。
「冥土の土産だ、教えてやる。お前が産まれたせいで私の完璧な人生が大きく狂った。その修正のためにお前の食事に毒を盛ったのだよ」
「ど、毒!? 父上……何故……何故このような仕打ちを……!」
「お前の存在自体が私にとってこの上ない迷惑で汚点そのものなんだよ。私を思っているのならさっさとくたばって死ね。それがお前にできるたった一つの親孝行だ」
「そ……そんな……」
ドサッ。と音を立てて彼は崩れ落ちた。
「誰か! 誰か医者を! デューク様が! デューク様がぁああ! あああああ!」
近衛兵のティアラは守るべき相手が目の前で倒れるのを見て半狂乱になったかのような悲鳴を上げて医者を呼ぶ。
倒れてからどれくらい経っただろうか? 何も見えない暗闇の空間に竜が現れた。
「憎メルカ?」
声が聞こえる。灰色の身体に痩せぎすで骨ばった、あばら骨がはっきり見えるドラゴンがデュークに声をかけてくる。
「憎メルカ? 父ヲ。ソシテ人間ヲ」
「……ああ。憎い。憎いとも」
「気ニイッタ。良イダロウ。力ヲ貸シテヤル」
デュークが倒れて一週間後。生死の境をさまよい……いや、一度死んだ彼は目を覚ました。
「デューク様!? 意識が戻ったのですか!?」
「何!? デューク! なぜ生きてる!? 致死量の10倍の毒を盛ったのに!」
「父上。私は確かに死にましたよ。でも不死者として蘇ったんです。今回の件で私は深い学びを得ましたよ……人間という生き物は、地獄の悪魔よりも卑劣で醜悪な、疫病のような存在だという事をね」
「お前! 実の父に……!」
「父上、貴方は私に「お前の存在自体が迷惑で自分の人生の汚点」と言いましたよね? その言葉、そっくりそのまま返しますよ。貴様みたいな醜悪な生き物の血を引いていることが私の恥だ!」
そう言ってデュークは何のためらいも持たずに持っていた剣で父親の首をはねた。
「……」
その様をティアラは黙ってみているしかなかった。
「ティアラ、お前は1回私を助けた。だから1回だけお前の言うことを聞こう。何が望みだ?」
「……デューク様、私は5歳の頃奴隷だった時に貴方に拾い上げられて以来、貴方のそばに居ました。私にとって貴方は私の半身であり生きる理由でありました。
これからも私を貴方の元にいさせてください。この命尽きるまで……いえ『尽きた後』でも」
「……いいだろう。その願い、かなえてやる」
デュークは近衛兵であるティアラの首をはね飛ばした。ボトリという音とともに首が落ちる。しばらくして斬り落とされた首を彼女の身体が拾い、首の上に乗せた。
これが、ヴェルガノン帝国が不死者の国として栄える、その原点だった。
◇◇◇
「デュークは彼の父親が若いころの女遊びでばらまいた種から産まれた子供だそうです。
男であるという事と、皇后(皇帝の妻)との間には子宝に恵まれなかったがゆえに仕方なく王宮に上がることを許されましたが腫れ物に触るような扱いをしていたそうです。
彼は自らの父親に認められようと勉学や鍛練に励みましたが、その出から優秀になればなるほどから嫌われるようになって……ある日の会食で皇帝陛下はデュークの食事に毒を盛って殺そうとしたのです」
「!!」
「彼は1週間苦しみ続けました、そして目覚めてからは人が変わったようになってしまい、お父上を自らの手で斬ったそうです」
「……」
マコトはシグリッドの話をただただ黙って聞いていた。
「マコト様……もしデュークと出会うことがあれば何のためらいもせずに彼を殺してください。もはや彼は完全に憎しみと絶望に飲まれてしまいました。死でしか救う方法は、無いでしょう」
「分かった。そうするよ」
話を聞いた限りではその出目には同情はする。だがそれは人を殺していい免罪符にはならない。マコトは話を聞いていずれぶつかるときには容赦せずに戦うことにした。
【次回予告】
綱渡り。一言でいうならそれだ。
第118話 「綱渡り」
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