88 / 127
オレイカルコス連合制圧戦
第88話 つかの間の休息
しおりを挟む
「な、なぁ。俺が付けたアッシュって名前嫌いか? 髪の毛の色から採ったけどやっぱり男みたいな名前でおかしくないか?」
「大丈夫。クルス君からもらった大切な名前だから」
ドッペルゲンガーの少女はその灰色の髪の毛から採ってクルスに「アッシュ」という名前をつけてもらった。
彼女は物心ついた時には両親はおらず、人と会う時には常に変身していたので自分から名前を名乗る必要はなかったのである。
仲睦まじく腕を組んで街中を歩いていると、とある料理屋が看板を出していた。
看板にはスプーンとフォークを両手に持って舌なめずりするように横に舌を出したエルフの女性のイラストが描かれていた。
シューヴァルには片手で数えるほどしか行ったことがないクルスは初めて見る物だ。
「何だこれ?」
「これはエルフ料理を出すお店の意味よ。エルフ向けに肉、魚、卵、乳を使わないお料理を出せるお店のマークなんだって」
「へー、色々知ってるなお前は。じゃあ昼飯はここにしようぜ」
ダイニングバー、この世界でいう「月光」という意味の店へと入っていった。
「いらっしゃいませ」
出迎えるのはよその国では珍しいが、この国ではありふれているダークエルフ。彼らがおいしい料理を食べたいと思い、「無ければ作ってしまえ」という精神で作ったのがこの店である。
「今日のメニューは……『シイタケとマッシュルームのパスタ 大豆のクリームソースを添えて』か。ずいぶん長ったらしくて仰々しい名前だな。まぁいいか、それを2人前頼む」
「かしこまりました……ふふっ」
「何か嬉しそうだな。最近いいことでもあったのか?」
「最近も何も、先日閣下とメリル様がご来店なされたのよ」
「ええ!? オヤジと母さんが!?」
「ええ。その際メニューをご覧になった閣下は、クルス様がさっきおっしゃった事と全く同じことを言ったのよ。『ずいぶん長ったらしくて仰々しい名前だな』って。
血はつながってはいないそうですけど、やっぱり親子は似るものですね」
給仕はそう言ってクスリと笑いつつ厨房へと向かっていった。
2人が店を出ると、偶然辺りを視察していたマコトと出会った。
「よぉクルス、お前も昼飯か?」
マコトは持参した弁当で昼食をとっていた。
「へぇ。母さんからの文字通り愛妻弁当ってやつか……って、げ。ウメボシ入りライスボールかよ」
「何だ? クルス。梅干し嫌いか?」
「嫌いだよ。やたら塩辛くて酸っぱいじゃねえか。陣中食で出た時は最悪な気分になるぜ?」
「それが良いんじゃねえか。今はお前子供だけど大人になりゃ違ってくるさ。俺も子供のころ嫌いだった食い物も大人になったらいつの間にか食えるようになったさ。ピーマンとかな」
梅干しは保存が利くことや抗菌作用、さらには疲労回復効果があるため、特に米が広まっている地域では陣中食として欠かせない。
ただ非常に酸っぱいというクセがあり、兵士たちからは嫌われているのだが。
「この国の王は慈悲深いお方ですなぁ。何せかまどにかける税金が安いから俺たち庶民でも焼きたてのパンやアツアツのスープが食える! 良いことじゃねえか。
俺の故郷なんてお偉いさんは指定されたかまどしか使わせない上に使用料を取っていたからなぁ」
マコトは酒場「剣と盾」で庶民の噂話を聞いていた。外へ出ると辺りは夕方、各家庭では夕食の準備が始まっていた。
かまどから伸びる煙突からは焼き立てのパンの香りがただよってくる。
地球の中世では領主はかまどの使用料を取るために、指定したかまど以外でパンを焼けないようにしたりと色々とセコい事をやっていたらしい。
マコトの国であるハシバ国では住居1軒あたりのかまどの数に応じて税金を取っているが、かまどが1基だけの場合は周辺国と比べれば安くなるようにしている。(その分かまどの数が多くなれば税金はより多くかかる様になっている)
庶民でも焼き立てのパンが食べられるように、という配慮である。自分のやったことは正しい。と胸をなでおろした。
「お、晩メシはパエリアか」
「うん。エビとか魚に貝が安く手に入ったからね」
メリルが持つフライパンからはいい匂いが漂ってくる。
専用の鍋を使ってはいないため一説には「一番うまい」とされるおこげが無いし本格的ではないものの、家庭料理としてふるまう分には十分な出来だ。
「ごはんーごはんー」
「お、ケンイチ。現れやがったな」
ケンイチは順調に成長し、一人で食事が取れる位には成長した。つい最近までスプーンやフォークを危なげな感じで扱っていたと思ったのにかなりの成長の速さだ。
「さて祈るか」
「ええ。万色の神よ、そして獣の神よ。我らに日々の糧を下さることに感謝し、私達の心と身体を支える糧としてください。いただきます」
「「「いただきます」」」
マコトは万色の神に食前の祈りを捧げる。この世界に来て何年もたつのですっかり慣れていた。
……でかい問題はあるのだがとりあえず今は家族とのだんらんを楽しもう。
そう思いながらメリルが作ったパエリアを食べ始めた。
【次回予告】
日常とは得てして退屈なものだ。
日常で日々の糧が得られるようになると、刺激やスリルのあるスパイスを求めるものだ。
第89話 「ギャンブル」
「大丈夫。クルス君からもらった大切な名前だから」
ドッペルゲンガーの少女はその灰色の髪の毛から採ってクルスに「アッシュ」という名前をつけてもらった。
彼女は物心ついた時には両親はおらず、人と会う時には常に変身していたので自分から名前を名乗る必要はなかったのである。
仲睦まじく腕を組んで街中を歩いていると、とある料理屋が看板を出していた。
看板にはスプーンとフォークを両手に持って舌なめずりするように横に舌を出したエルフの女性のイラストが描かれていた。
シューヴァルには片手で数えるほどしか行ったことがないクルスは初めて見る物だ。
「何だこれ?」
「これはエルフ料理を出すお店の意味よ。エルフ向けに肉、魚、卵、乳を使わないお料理を出せるお店のマークなんだって」
「へー、色々知ってるなお前は。じゃあ昼飯はここにしようぜ」
ダイニングバー、この世界でいう「月光」という意味の店へと入っていった。
「いらっしゃいませ」
出迎えるのはよその国では珍しいが、この国ではありふれているダークエルフ。彼らがおいしい料理を食べたいと思い、「無ければ作ってしまえ」という精神で作ったのがこの店である。
「今日のメニューは……『シイタケとマッシュルームのパスタ 大豆のクリームソースを添えて』か。ずいぶん長ったらしくて仰々しい名前だな。まぁいいか、それを2人前頼む」
「かしこまりました……ふふっ」
「何か嬉しそうだな。最近いいことでもあったのか?」
「最近も何も、先日閣下とメリル様がご来店なされたのよ」
「ええ!? オヤジと母さんが!?」
「ええ。その際メニューをご覧になった閣下は、クルス様がさっきおっしゃった事と全く同じことを言ったのよ。『ずいぶん長ったらしくて仰々しい名前だな』って。
血はつながってはいないそうですけど、やっぱり親子は似るものですね」
給仕はそう言ってクスリと笑いつつ厨房へと向かっていった。
2人が店を出ると、偶然辺りを視察していたマコトと出会った。
「よぉクルス、お前も昼飯か?」
マコトは持参した弁当で昼食をとっていた。
「へぇ。母さんからの文字通り愛妻弁当ってやつか……って、げ。ウメボシ入りライスボールかよ」
「何だ? クルス。梅干し嫌いか?」
「嫌いだよ。やたら塩辛くて酸っぱいじゃねえか。陣中食で出た時は最悪な気分になるぜ?」
「それが良いんじゃねえか。今はお前子供だけど大人になりゃ違ってくるさ。俺も子供のころ嫌いだった食い物も大人になったらいつの間にか食えるようになったさ。ピーマンとかな」
梅干しは保存が利くことや抗菌作用、さらには疲労回復効果があるため、特に米が広まっている地域では陣中食として欠かせない。
ただ非常に酸っぱいというクセがあり、兵士たちからは嫌われているのだが。
「この国の王は慈悲深いお方ですなぁ。何せかまどにかける税金が安いから俺たち庶民でも焼きたてのパンやアツアツのスープが食える! 良いことじゃねえか。
俺の故郷なんてお偉いさんは指定されたかまどしか使わせない上に使用料を取っていたからなぁ」
マコトは酒場「剣と盾」で庶民の噂話を聞いていた。外へ出ると辺りは夕方、各家庭では夕食の準備が始まっていた。
かまどから伸びる煙突からは焼き立てのパンの香りがただよってくる。
地球の中世では領主はかまどの使用料を取るために、指定したかまど以外でパンを焼けないようにしたりと色々とセコい事をやっていたらしい。
マコトの国であるハシバ国では住居1軒あたりのかまどの数に応じて税金を取っているが、かまどが1基だけの場合は周辺国と比べれば安くなるようにしている。(その分かまどの数が多くなれば税金はより多くかかる様になっている)
庶民でも焼き立てのパンが食べられるように、という配慮である。自分のやったことは正しい。と胸をなでおろした。
「お、晩メシはパエリアか」
「うん。エビとか魚に貝が安く手に入ったからね」
メリルが持つフライパンからはいい匂いが漂ってくる。
専用の鍋を使ってはいないため一説には「一番うまい」とされるおこげが無いし本格的ではないものの、家庭料理としてふるまう分には十分な出来だ。
「ごはんーごはんー」
「お、ケンイチ。現れやがったな」
ケンイチは順調に成長し、一人で食事が取れる位には成長した。つい最近までスプーンやフォークを危なげな感じで扱っていたと思ったのにかなりの成長の速さだ。
「さて祈るか」
「ええ。万色の神よ、そして獣の神よ。我らに日々の糧を下さることに感謝し、私達の心と身体を支える糧としてください。いただきます」
「「「いただきます」」」
マコトは万色の神に食前の祈りを捧げる。この世界に来て何年もたつのですっかり慣れていた。
……でかい問題はあるのだがとりあえず今は家族とのだんらんを楽しもう。
そう思いながらメリルが作ったパエリアを食べ始めた。
【次回予告】
日常とは得てして退屈なものだ。
日常で日々の糧が得られるようになると、刺激やスリルのあるスパイスを求めるものだ。
第89話 「ギャンブル」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
最強魔導師エンペラー
ブレイブ
ファンタジー
魔法が当たり前の世界 魔法学園ではF~ZZにランク分けされており かつて実在したZZクラス1位の最強魔導師エンペラー 彼は突然行方不明になった。そして現在 三代目エンペラーはエンペラーであるが 三代目だけは知らぬ秘密があった
異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
魔法系男子のゆふるわな日常(希望)
ねじまる
ファンタジー
数年前まで魔王と戦争をしていた世界は人間側の勝利で今や平和になっていた。
かつてはその戦いで名声を得た若き魔法使いも現在は大学二年生。
世界は平和になったが、世界は不況。
家賃を三ヶ月滞納しているばかりか、学費も払えない、学生あるあるの貧乏生活。
現実って厳しい、よね。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる