人魔共和国建国記

あがつま ゆい

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富国強兵

第59話 エルフのように執念深い

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 秋になり収穫の時を迎えたある日、マコトは荷物をもってダークエルフが住む森の中へと入っていった。荷物の中身は麦、あるいはノリやコンブといった海藻という森で過ごすものにとっては手に入りにくいものだ。
 マコトは不定期だがこういった「贈り物」をして何とか心を開かせようとしているが……

「またお前か、懲りない奴だな。くれるというのならもらおう。だが貴様ら人間の話を聞く理由にはならんぞ」
「おじいさま、いい加減考えを改める気はないのですか?」
「フン、どうだか。人間はすぐに嘘をつく。酷い時には息子の代に代わった瞬間に迫害が始まったこともあった。ほんの20年だぞ。人間という生き物はほんの20年の約束すら守れん奴らだというのは今までの経験からよーく分かってる」
「俺達は違いますって!」
「「他の奴らとは違う」か。ワシと会った人間は全員そのセリフを吐いた。そして全員約束を違えた。口ではいくらでもキレイ事は言えるがどいつもこいつも皆同じだ。お前も何年持つことやら」

 深いしわが刻まれた肌と白いあごひげ、そしてアメジストパープルの目をした老エルフの瞳が冷たく光る。それはマコトの言葉とエルフェンの説得、両方を拒絶していた。

「これキーファー、そんなに人間を拒絶するでない。めげずに贈り物を届け続けているではないか」
「システィアーノ様、貴女さまもご意見があるでしょうがこればっかりは譲れません」
「年寄りの上に魔術師……となると世界で最も頑固だとは言うが本当のようじゃの。まるで岩石じゃわい。すまんのマコト、わらわも日夜説得しているのだがまるでいう事を聞かぬでな」

 その頑固さは敬愛するシスティアーノ相手ですら変わらない。



 この世界には「エルフのように執念深い」という言い回しがある。過去に執着している者をけなす意味で使われる、寿命の違いという種族の壁が生み出した言葉だ。

 例えば、「500年前の出来事」というと人間からすれば遥か彼方の遠い遠い過去の出来事であるが、およそ1000年生きるとされるエルフからすればその500年前の出来事を体験した本人がまだ生きている。なんてことはよくある話である。
 伝聞だったとしても「親や親戚から聞いた話」という位、身近な体験談なのである。

 エルフェンの部族にいる年長者7人も過去に何十回と人間が約束をたがえる経験をしてきたためか、人間に対しては心を固く閉ざしている。

 人間やエルフはもちろん、あらゆる動植物は年をとればとるほど魔力と魔力制御能力は伸びる。高名な魔術師に年老いた者が多いのはそのためだし、霊獣や神木なんて存在もそれで産まれる。
 もちろんエルフも年をとればとるほど、この二つの能力は伸びる。彼らを味方に付ければ大きな戦力になるだろう。



 問題はどうやって冷え切った心を動かすかだが、マコトは温めていたアイディアについて妻とエルフェンと話をしていた。

「「ええ!? クリームシチュー!?」」

 メリルとエルフェン、両者が驚きの声を上げる。

「エルフは乳は駄目なんじゃ?」
「安心しろ。俺の故郷では理論上ではエルフでも食える乳というのがある。うろ覚えだが作り方も知ってる。やってみよう」

 こうして「特別な」クリームシチューの製作に取り掛かる。

「へー、なんだ。エルフでも食べられる乳って言うから何だと思ったけどただの豆乳ね。それなら作り方は分かるわ。任せておいて」
「味見に関しては私たちが協力いたしましょう。何なりとお申し付けください」

 大豆に水を吸わせてすり潰して煮詰め、こすと獣の乳と似たものが取れる。いわゆる豆乳だ。「特別な」クリームシチューは乳の代わりに豆乳を材料に作っている。具材も野菜やキノコなど植物性のものに限定し、エルフでも食べられるシチューに仕上がる予定である。
 メリルに豆乳を作ってもらい、エルフェン達をはじめとするマコトに対して好意的な者たちを味方につけて試食を繰り返し、エルフの味覚に合う料理に調整していく。



 親睦会当日。大なべ1杯のクリームシチューが会場に運ばれてきた。

「フン。親睦会の料理にクリームシチューなんて馬鹿げてる。ワシ等が乳を飲めんというのは知っているだろうに。嫌がらせかね?」

 相変わらず年長者たちは頑固だ。あからさまに拒否感を抱く彼にひ孫のエルルが声をかける。

「じーじー。このシチュー変なの。乳の臭いが全然しない」
「? 何?」
「じーじもたべないの? おいしいよ?」
「おじい様、騙されたと思って食べてみてください。後悔はしませんから」

 孫とひ孫に言われるがまま、彼はシチューに口をつける。

「ヌウウ……!」

 美味い。認めたくはないが、美味い。それだけは確かだ。

「……不味くはないが、もう一杯よこせ」
「おじい様ったら相変わらず頑固者ですねぇ」
「キーファー、変に意地を張っても良いことないぞ? 美味いのなら素直に美味いと言え」
「……フン」

 その日、キーファーは3杯のクリームシチューを食べたが孫のエルフェンと尊敬するシスティアーノにも意地を張って決して美味いとは言わなかった。



 翌日、エルフェンがマコトの元を訪れた。

「マコト様、昨夜は素敵な贈り物を送って頂きありがとうございます」
「そうか、気に入ってくれて何よりだ。レシピも渡したから今度は自分でも作ってみるといい。それと他のダークエルフ、特にキーファーはどうなんだ?」
「おじい様は相変わらず人間に対してあまり良い印象は持ってはなさそうです。ですが以前に比べれば多少はマシになっているかとは思いますね。それ以外の者たちはおおむね好意的に見てくれているようです」
「そうか。分かった、報告ありがとうな」

 キーファーの頑固ぶりは変わらないが周りの者に影響があれば少しは変わってくれるだろう。
 とりあえず1歩前進。といったところか。



【次回予告】
マコトの国、ハシバ国は順調に人口が増えていた。
それゆえに起こる問題をこの世界ならではの解決策があった。

第60話 「スライム型汚物処理施設」
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