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富国強兵
第56話 乳母 お虎
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「メリル、ケンイチの様子はどうだ?」
「あ、あなた。この子ったら、一度乳首に吸い付いたらなかなか離してくれないのよ。本当におっぱい出てるのかな」
取り換え子でオーガとして産まれたマコトとメリルの子供は健一と名付けられた。
彼の父親が言うにはせめて「健康第一」で育ってほしいという願いが込められているのだという。
13歳という若い身体のメリルは、子供を産み育てられるほど成熟しているのかどうか不安を抱えていた。胸もあまり発達しておらず、母乳の出が悪かったらどうしようと不安を抱いていた。いざという時には年中母乳が出るホルスタウロスはいるものの、地球と違って粉ミルクなど無い世界。乳の出が悪いというのはそれだけで大きな痛手になる。
「あ、そうだ。お虎を呼んできたから色々相談してくれ。同じ立場だから多分不安な事も分かってくれるだろうから」
「あ、ありがとう。あなた」
そういえば乳母を募集しているとかどこかの噂話を聞いた気がする。それで有志を募ったのだろう。
彼と入れ替わるようにお虎がやってきた。その腕にはマコトとメリルの息子、ケンイチと同じくらいの女の子が抱えられていた。
お虎はアレンシア戦役のあと、同じオーガのナタルという男と結婚し、兵士を引退して家庭に入っていた。
順調に子供も生まれ育児の真っ最中であったのだがマコトの息子と同じオーガであること、さらに育児中で母乳が出るという事もあって乳母として働かないかと声をかけていたのだ。
「こうして向かい合って顔合わせるのは初めてですね。メリル様……とでも言えばいいでしょうか?」
「お虎さん、そんなかしこまった事は言わなくていいわ。呼び捨てでいいし、敬語も使わなくていいわ。私の方が世話になるんだから」
「そっか。んじゃあさっそくおっぱい足りてるか見てみようか」
そう言ってお虎は自分の子供をメリルに預けてケンイチを抱き、胸部を出して吸わせる。
「どう?」
「んー……あまり吸い付いてこないな。メリルのおっぱいでお腹いっぱいだと思う」
「そ、そう。良かった。おっぱいちゃんと出てるんだね……ふわぁ」
メリルは一安心で来た気の緩みからか昼だというのにあくびをする。よく見てみると、どことなく目もはれぼったい。
「どうした? やっぱり眠いのか?」
「うん。夜泣きが酷くて最近まともに寝られないのよね」
「そうか。だったらアタシがケンイチ君の面倒見ようか? 1時間昼寝するだけでも大分違うよ?」
「ありがとう。じゃあ甘えさせてもらうわ。お願いね」
彼女は息子ケンイチをお虎に預け、寝室へと向かった。お虎は器用にも自分の娘をおんぶし、腕にはケンイチを抱えてあやす。
しばらくの間娘とケンイチをあやしていると仕事の山場を越えたマコトが様子を見に来た。
子供2人を愛情あふれる視線で見つめていたお虎が、彼に気付いて視線を移す。
「あ、大将。こうして対面で話をするのは久しぶりだね」
「お虎、お前母親になったんだな」
「どういう事だい?」
「言葉通りだ。今のお前は立派な母親だって事さ。昔のお前はもっと荒々しかったぜ?」
「そうかぁ?」
マコトにとってのお虎というのは、ゴブリン程度のザコなら文字通り両断出来るほどの鋭い刀を振るい、正々堂々と言う言葉からは遠く離れた剣術を使い荒々しく敵陣に斬り込む姿であり、その姿は「鬼」であったが「女」ではなかった。
そんな彼女が結婚して子供が産まれると人が変わったかのように慈愛と愛情にあふれた顔が出来るようになった。
本人は気づかないその変化をマコトは大いに喜び、同時にほんの少しさびしく思った。
「で、どうなんだ? メリルはおっぱいが足りないかもって心配したんだが。あとメリルはどこ行った?」
「ああ、それは大丈夫。多分足りてると思う。彼女は寝室で昼寝してる。夜泣きが酷いみたいで寝不足らしいから寝かせてあげてちょうだい」
「そういやアイツ、寝なれなくて結構イライラしてたからなぁ」
「へぇ。一緒に暮らしてると色々わかるんだ?」
「あからさまに怒ることはなかったけどやっぱり緊張の糸っていうのか? ピリピリした何かってのはやっぱり分かるよ」
久しぶりに再会した2人は積もる話やここ最近起こった事などを懐かしむように語り合い、会話が弾む。
2人の間にある止まっていた時間を動かすには十分な量だった。
他愛のない話が続くことしばし、昼寝から覚めたメリルが戻ってくる。
「お、お帰り、メリル。ケンイチ君はいい子にしてたよ」
「ただいま。やっぱり昼寝すると違うわね」
「メリル、何かつきものが落ちたみたいだな。スッキリしたか?」
「うん。心配かけて悪かったわね、あなた」
この後メリルも加わり会話はさらに弾んだという。
【次回予告】
またもや新たな配下を狙ってマコトは召喚の間で召喚を行う。現れたのは……もふもふ?
第57話「ワーシープ」
「あ、あなた。この子ったら、一度乳首に吸い付いたらなかなか離してくれないのよ。本当におっぱい出てるのかな」
取り換え子でオーガとして産まれたマコトとメリルの子供は健一と名付けられた。
彼の父親が言うにはせめて「健康第一」で育ってほしいという願いが込められているのだという。
13歳という若い身体のメリルは、子供を産み育てられるほど成熟しているのかどうか不安を抱えていた。胸もあまり発達しておらず、母乳の出が悪かったらどうしようと不安を抱いていた。いざという時には年中母乳が出るホルスタウロスはいるものの、地球と違って粉ミルクなど無い世界。乳の出が悪いというのはそれだけで大きな痛手になる。
「あ、そうだ。お虎を呼んできたから色々相談してくれ。同じ立場だから多分不安な事も分かってくれるだろうから」
「あ、ありがとう。あなた」
そういえば乳母を募集しているとかどこかの噂話を聞いた気がする。それで有志を募ったのだろう。
彼と入れ替わるようにお虎がやってきた。その腕にはマコトとメリルの息子、ケンイチと同じくらいの女の子が抱えられていた。
お虎はアレンシア戦役のあと、同じオーガのナタルという男と結婚し、兵士を引退して家庭に入っていた。
順調に子供も生まれ育児の真っ最中であったのだがマコトの息子と同じオーガであること、さらに育児中で母乳が出るという事もあって乳母として働かないかと声をかけていたのだ。
「こうして向かい合って顔合わせるのは初めてですね。メリル様……とでも言えばいいでしょうか?」
「お虎さん、そんなかしこまった事は言わなくていいわ。呼び捨てでいいし、敬語も使わなくていいわ。私の方が世話になるんだから」
「そっか。んじゃあさっそくおっぱい足りてるか見てみようか」
そう言ってお虎は自分の子供をメリルに預けてケンイチを抱き、胸部を出して吸わせる。
「どう?」
「んー……あまり吸い付いてこないな。メリルのおっぱいでお腹いっぱいだと思う」
「そ、そう。良かった。おっぱいちゃんと出てるんだね……ふわぁ」
メリルは一安心で来た気の緩みからか昼だというのにあくびをする。よく見てみると、どことなく目もはれぼったい。
「どうした? やっぱり眠いのか?」
「うん。夜泣きが酷くて最近まともに寝られないのよね」
「そうか。だったらアタシがケンイチ君の面倒見ようか? 1時間昼寝するだけでも大分違うよ?」
「ありがとう。じゃあ甘えさせてもらうわ。お願いね」
彼女は息子ケンイチをお虎に預け、寝室へと向かった。お虎は器用にも自分の娘をおんぶし、腕にはケンイチを抱えてあやす。
しばらくの間娘とケンイチをあやしていると仕事の山場を越えたマコトが様子を見に来た。
子供2人を愛情あふれる視線で見つめていたお虎が、彼に気付いて視線を移す。
「あ、大将。こうして対面で話をするのは久しぶりだね」
「お虎、お前母親になったんだな」
「どういう事だい?」
「言葉通りだ。今のお前は立派な母親だって事さ。昔のお前はもっと荒々しかったぜ?」
「そうかぁ?」
マコトにとってのお虎というのは、ゴブリン程度のザコなら文字通り両断出来るほどの鋭い刀を振るい、正々堂々と言う言葉からは遠く離れた剣術を使い荒々しく敵陣に斬り込む姿であり、その姿は「鬼」であったが「女」ではなかった。
そんな彼女が結婚して子供が産まれると人が変わったかのように慈愛と愛情にあふれた顔が出来るようになった。
本人は気づかないその変化をマコトは大いに喜び、同時にほんの少しさびしく思った。
「で、どうなんだ? メリルはおっぱいが足りないかもって心配したんだが。あとメリルはどこ行った?」
「ああ、それは大丈夫。多分足りてると思う。彼女は寝室で昼寝してる。夜泣きが酷いみたいで寝不足らしいから寝かせてあげてちょうだい」
「そういやアイツ、寝なれなくて結構イライラしてたからなぁ」
「へぇ。一緒に暮らしてると色々わかるんだ?」
「あからさまに怒ることはなかったけどやっぱり緊張の糸っていうのか? ピリピリした何かってのはやっぱり分かるよ」
久しぶりに再会した2人は積もる話やここ最近起こった事などを懐かしむように語り合い、会話が弾む。
2人の間にある止まっていた時間を動かすには十分な量だった。
他愛のない話が続くことしばし、昼寝から覚めたメリルが戻ってくる。
「お、お帰り、メリル。ケンイチ君はいい子にしてたよ」
「ただいま。やっぱり昼寝すると違うわね」
「メリル、何かつきものが落ちたみたいだな。スッキリしたか?」
「うん。心配かけて悪かったわね、あなた」
この後メリルも加わり会話はさらに弾んだという。
【次回予告】
またもや新たな配下を狙ってマコトは召喚の間で召喚を行う。現れたのは……もふもふ?
第57話「ワーシープ」
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