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未来を変えろ
第48話 威力偵察
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秋も終わり寒い日が続くようになって朝起きるのがしんどくなってきた頃、マコトはある作戦をディオールと共に練っていた。
「フム、威力偵察ですか」
「ああ。包囲網連合の足並みがどれだけ揃ってるか、それと戦力の大きさを知りたい。あとは、新戦力の試運転だな。ディオール、総大将の役目を果たしてくれるか?」
「かしこまりました」
それから1ヵ月後。新年を迎えて数日が経ち、正月気分も抜けたところでハシバ国が動き出す。威力偵察を兼ねたハシバ国の侵攻軍、およそ800。敵軍来襲の知らせを受けイシュタル国がおよそ1000程の防衛部隊を派遣する。
ハシバ国からイシュタル国へと至る道路の中ほどでお互いは睨み合いを始めると同時に、イシュタル国軍の上空をハーピーが舞い始めた。
それを自らの生命の危機と言っていいくらい真剣に見つめる将がいた。
「あれはハーピー? しかもハシバ国軍の服装だ。本当に配下にしてたとはな。これは相当厳しい戦いになりそうだな」
「アーノルド様、お言葉ですが数では我々が勝ってますよ? それに相手は威力偵察部隊だとも聞いていますが」
兵の一人が自身の上司であるアーノルドへ心配のしすぎだと言わんばかりの表情で言葉を返す。
「敵にハーピーの偵察部隊がいる限り、数の優位の1つや2つなど簡単にひっくり返る。
奴ら最大の強みはミノタウロスの傭兵部隊でも、ダークエルフの弓兵隊でもない。ハーピーの偵察部隊だ」
「そんな大げさな事言わなくても……」
「馬鹿者! 大げさでも何でもない! 敵は空から我々を一望出来るため居場所は丸わかりで、丸裸にされるのも同然だ。俺みたいな将がこんな事いうのもアレだがこの戦、下手したら我々が負けるかもな」
彼は部下を一喝し、不利ながらも勝てる妙案を思いつこうと眉間にしわを寄せていた。
ハシバ国陣営は順調に情報を集めていた。
敵はハシバ国から軍が出てどれくらいの時間で迎撃態勢が整うか、別働隊の様子、またハーピーの実用的な活動範囲はどれほどになるか、調査が進んでいた。
「ふむ。なるほどな」
立派なあごひげをいじりながらディオールは偵察隊からの情報を整理していた。
「……報告すべきと判断した情報は、以上です」
「うむ。御苦労だった。昼間の活躍はこの辺にして、続いて夜の活躍を見てみましょうか」
「夜? 夜襲でもかけるつもりですか?」
「ええ。ただかけるのは彼らですがね」
その日の夜。アーノルド率いるイシュタル国防衛軍の陣地……夜回り以外の兵士たちは眠りについたころ、空から油と火が降ってきた。
「何事だ!?」
「アーノルド様! 敵が上空から油を落として陣地を燃やしています!」
「何だと!? すぐに火を消せ!」
彼らは懸命な消火活動を行うが、無情にも火に油が次々と注がれ激しく紅々と燃え上がり、物資を、食料を燃やしていく。
「何とかならんのか!?」
「それが、敵は暗闇の中なのでどこにいるのかすら分かりません!」
「クソッ! お前ら! 兵を叩き起こせ! 食料や物資を持って逃げるぞ!」
空を自在に飛べるハーピーで構成された部隊は、カッコつけて言えば少なくとも西大陸初にして現時点ではハシバ国のみが保有する「空軍」である。
ただし兵士に対して決定的な打撃を与えるのは難しく、偵察程度にしか使えなかった。(それでも敵からすれば十分すぎるくらい脅威だが)
だが、拠点攻撃においてはまた話が違ってくる。
拠点や陣地などといった敵の施設に対し、空から油と火を落とし、燃やすという強力な攻撃が可能なのだ。
食料庫を焼けば兵糧で優位に立て、兵が寝泊りするテントを燃やすことで眠れなくしたり、睡眠の質が下がれば士気も落ちる。
その一方で相手は矢を放つが遥か上空を飛ぶ魔物たちには届かないし、魔法を撃っても軌道がバレバレなためひょいとかわされる。ましてや今回の夜襲のように暗闇の中に紛れていれば相手に弓や魔法があっても狙いようがない。
マコトの「空軍」は敵からの矢や魔法が届かない、あるいは届いても簡単に回避できるはるか上空から一方的に攻撃が可能という「世界初の爆撃機」と言える存在と化した。
翌朝、散々な状況に置かれた事を告げる悪い知らせがアーノルドの元へ続々と押し寄せる。
「保管していた弓の3分の1が焼失、槍も4分の1が柄が燃えて使い物になりません」
「備蓄されていた食料が燃えてしまいました。残りは、半分程度です」
「クソッ! これでは勝負にならんぞ!」
敗北の影が刻々と迫る中、暗闇に一筋の光がさすように吉報が届いた。
「伝令! 閣下より! 同盟の盟約に基づき各国の別働隊が国を出発したとの事! 今日の日没ごろには到達するもようです!」
「援軍が来たか! 何とか持ちこたえるんだ!」
待ちに待った援軍。さあここから反撃が始まる! そういう所だったが……。
「アーノルド様、敵軍が退却するもようです」
「何だと? まさか奴らは別働隊が来るのを分かっていたのか。クッ、何もできなかったな。これが本物の戦争だったら、負けてたな」
苦虫をかみつぶすような顔で彼は報告を聞く。
「閣下に報告せねばなるまい。敵は実数では計れない、想像をはるかに上回るほど強いと」
【次回予告】
「俺を生かしたところで何にもならないただの穀潰しなのに……」
血だらけの状態で召喚された男は自傷気味に語る。その真意は……?
第49話「穀潰しのアルバート」
「フム、威力偵察ですか」
「ああ。包囲網連合の足並みがどれだけ揃ってるか、それと戦力の大きさを知りたい。あとは、新戦力の試運転だな。ディオール、総大将の役目を果たしてくれるか?」
「かしこまりました」
それから1ヵ月後。新年を迎えて数日が経ち、正月気分も抜けたところでハシバ国が動き出す。威力偵察を兼ねたハシバ国の侵攻軍、およそ800。敵軍来襲の知らせを受けイシュタル国がおよそ1000程の防衛部隊を派遣する。
ハシバ国からイシュタル国へと至る道路の中ほどでお互いは睨み合いを始めると同時に、イシュタル国軍の上空をハーピーが舞い始めた。
それを自らの生命の危機と言っていいくらい真剣に見つめる将がいた。
「あれはハーピー? しかもハシバ国軍の服装だ。本当に配下にしてたとはな。これは相当厳しい戦いになりそうだな」
「アーノルド様、お言葉ですが数では我々が勝ってますよ? それに相手は威力偵察部隊だとも聞いていますが」
兵の一人が自身の上司であるアーノルドへ心配のしすぎだと言わんばかりの表情で言葉を返す。
「敵にハーピーの偵察部隊がいる限り、数の優位の1つや2つなど簡単にひっくり返る。
奴ら最大の強みはミノタウロスの傭兵部隊でも、ダークエルフの弓兵隊でもない。ハーピーの偵察部隊だ」
「そんな大げさな事言わなくても……」
「馬鹿者! 大げさでも何でもない! 敵は空から我々を一望出来るため居場所は丸わかりで、丸裸にされるのも同然だ。俺みたいな将がこんな事いうのもアレだがこの戦、下手したら我々が負けるかもな」
彼は部下を一喝し、不利ながらも勝てる妙案を思いつこうと眉間にしわを寄せていた。
ハシバ国陣営は順調に情報を集めていた。
敵はハシバ国から軍が出てどれくらいの時間で迎撃態勢が整うか、別働隊の様子、またハーピーの実用的な活動範囲はどれほどになるか、調査が進んでいた。
「ふむ。なるほどな」
立派なあごひげをいじりながらディオールは偵察隊からの情報を整理していた。
「……報告すべきと判断した情報は、以上です」
「うむ。御苦労だった。昼間の活躍はこの辺にして、続いて夜の活躍を見てみましょうか」
「夜? 夜襲でもかけるつもりですか?」
「ええ。ただかけるのは彼らですがね」
その日の夜。アーノルド率いるイシュタル国防衛軍の陣地……夜回り以外の兵士たちは眠りについたころ、空から油と火が降ってきた。
「何事だ!?」
「アーノルド様! 敵が上空から油を落として陣地を燃やしています!」
「何だと!? すぐに火を消せ!」
彼らは懸命な消火活動を行うが、無情にも火に油が次々と注がれ激しく紅々と燃え上がり、物資を、食料を燃やしていく。
「何とかならんのか!?」
「それが、敵は暗闇の中なのでどこにいるのかすら分かりません!」
「クソッ! お前ら! 兵を叩き起こせ! 食料や物資を持って逃げるぞ!」
空を自在に飛べるハーピーで構成された部隊は、カッコつけて言えば少なくとも西大陸初にして現時点ではハシバ国のみが保有する「空軍」である。
ただし兵士に対して決定的な打撃を与えるのは難しく、偵察程度にしか使えなかった。(それでも敵からすれば十分すぎるくらい脅威だが)
だが、拠点攻撃においてはまた話が違ってくる。
拠点や陣地などといった敵の施設に対し、空から油と火を落とし、燃やすという強力な攻撃が可能なのだ。
食料庫を焼けば兵糧で優位に立て、兵が寝泊りするテントを燃やすことで眠れなくしたり、睡眠の質が下がれば士気も落ちる。
その一方で相手は矢を放つが遥か上空を飛ぶ魔物たちには届かないし、魔法を撃っても軌道がバレバレなためひょいとかわされる。ましてや今回の夜襲のように暗闇の中に紛れていれば相手に弓や魔法があっても狙いようがない。
マコトの「空軍」は敵からの矢や魔法が届かない、あるいは届いても簡単に回避できるはるか上空から一方的に攻撃が可能という「世界初の爆撃機」と言える存在と化した。
翌朝、散々な状況に置かれた事を告げる悪い知らせがアーノルドの元へ続々と押し寄せる。
「保管していた弓の3分の1が焼失、槍も4分の1が柄が燃えて使い物になりません」
「備蓄されていた食料が燃えてしまいました。残りは、半分程度です」
「クソッ! これでは勝負にならんぞ!」
敗北の影が刻々と迫る中、暗闇に一筋の光がさすように吉報が届いた。
「伝令! 閣下より! 同盟の盟約に基づき各国の別働隊が国を出発したとの事! 今日の日没ごろには到達するもようです!」
「援軍が来たか! 何とか持ちこたえるんだ!」
待ちに待った援軍。さあここから反撃が始まる! そういう所だったが……。
「アーノルド様、敵軍が退却するもようです」
「何だと? まさか奴らは別働隊が来るのを分かっていたのか。クッ、何もできなかったな。これが本物の戦争だったら、負けてたな」
苦虫をかみつぶすような顔で彼は報告を聞く。
「閣下に報告せねばなるまい。敵は実数では計れない、想像をはるかに上回るほど強いと」
【次回予告】
「俺を生かしたところで何にもならないただの穀潰しなのに……」
血だらけの状態で召喚された男は自傷気味に語る。その真意は……?
第49話「穀潰しのアルバート」
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