人魔共和国建国記

あがつま ゆい

文字の大きさ
上 下
48 / 127
未来を変えろ

第48話 威力偵察

しおりを挟む
 秋も終わり寒い日が続くようになって朝起きるのがしんどくなってきた頃、マコトはある作戦をディオールと共に練っていた。

「フム、威力偵察ですか」
「ああ。包囲網連合の足並みがどれだけ揃ってるか、それと戦力の大きさを知りたい。あとは、新戦力の試運転だな。ディオール、総大将の役目を果たしてくれるか?」
「かしこまりました」


 それから1ヵ月後。新年を迎えて数日が経ち、正月気分も抜けたところでハシバ国が動き出す。威力偵察を兼ねたハシバ国の侵攻軍、およそ800。敵軍来襲の知らせを受けイシュタル国がおよそ1000程の防衛部隊を派遣する。

 ハシバ国からイシュタル国へと至る道路の中ほどでお互いは睨み合いを始めると同時に、イシュタル国軍の上空をハーピーが舞い始めた。
 それを自らの生命の危機と言っていいくらい真剣に見つめる将がいた。

「あれはハーピー? しかもハシバ国軍の服装だ。本当に配下にしてたとはな。これは相当厳しい戦いになりそうだな」
「アーノルド様、お言葉ですが数では我々が勝ってますよ? それに相手は威力偵察部隊だとも聞いていますが」

 兵の一人が自身の上司であるアーノルドへ心配のしすぎだと言わんばかりの表情で言葉を返す。

「敵にハーピーの偵察部隊がいる限り、数の優位の1つや2つなど簡単にひっくり返る。
 奴ら最大の強みはミノタウロスの傭兵部隊でも、ダークエルフの弓兵隊でもない。ハーピーの偵察部隊だ」
「そんな大げさな事言わなくても……」
「馬鹿者! 大げさでも何でもない! 敵は空から我々を一望出来るため居場所は丸わかりで、丸裸にされるのも同然だ。俺みたいな将がこんな事いうのもアレだがこの戦、下手したら我々が負けるかもな」

 彼は部下を一喝し、不利ながらも勝てる妙案を思いつこうと眉間にしわを寄せていた。



 ハシバ国陣営は順調に情報を集めていた。
 敵はハシバ国から軍が出てどれくらいの時間で迎撃態勢が整うか、別働隊の様子、またハーピーの実用的な活動範囲はどれほどになるか、調査が進んでいた。

「ふむ。なるほどな」

 立派なあごひげをいじりながらディオールは偵察隊からの情報を整理していた。

「……報告すべきと判断した情報は、以上です」
「うむ。御苦労だった。昼間の活躍はこの辺にして、続いて夜の活躍を見てみましょうか」
「夜? 夜襲でもかけるつもりですか?」
「ええ。ただかけるのは彼らですがね」



 その日の夜。アーノルド率いるイシュタル国防衛軍の陣地……夜回り以外の兵士たちは眠りについたころ、空から油と火が降ってきた。

「何事だ!?」
「アーノルド様! 敵が上空から油を落として陣地を燃やしています!」
「何だと!? すぐに火を消せ!」

 彼らは懸命な消火活動を行うが、無情にも火に油が次々と注がれ激しく紅々と燃え上がり、物資を、食料を燃やしていく。

「何とかならんのか!?」
「それが、敵は暗闇の中なのでどこにいるのかすら分かりません!」
「クソッ! お前ら! 兵を叩き起こせ! 食料や物資を持って逃げるぞ!」

 空を自在に飛べるハーピーで構成された部隊は、カッコつけて言えば少なくとも西大陸初にして現時点ではハシバ国のみが保有する「空軍」である。
 ただし兵士に対して決定的な打撃を与えるのは難しく、偵察程度にしか使えなかった。(それでも敵からすれば十分すぎるくらい脅威だが)
 だが、拠点攻撃においてはまた話が違ってくる。

 拠点や陣地などといった敵の施設に対し、空から油と火を落とし、燃やすという強力な攻撃が可能なのだ。
 食料庫を焼けば兵糧で優位に立て、兵が寝泊りするテントを燃やすことで眠れなくしたり、睡眠の質が下がれば士気も落ちる。

 その一方で相手は矢を放つが遥か上空を飛ぶ魔物たちには届かないし、魔法を撃っても軌道がバレバレなためひょいとかわされる。ましてや今回の夜襲のように暗闇の中に紛れていれば相手に弓や魔法があっても狙いようがない。

 マコトの「空軍」は敵からの矢や魔法が届かない、あるいは届いても簡単に回避できるはるか上空から一方的に攻撃が可能という「世界初の爆撃機」と言える存在と化した。



 翌朝、散々な状況に置かれた事を告げる悪い知らせがアーノルドの元へ続々と押し寄せる。

「保管していた弓の3分の1が焼失、槍も4分の1が柄が燃えて使い物になりません」
「備蓄されていた食料が燃えてしまいました。残りは、半分程度です」
「クソッ! これでは勝負にならんぞ!」

 敗北の影が刻々と迫る中、暗闇に一筋の光がさすように吉報が届いた。

「伝令! 閣下より! 同盟の盟約に基づき各国の別働隊が国を出発したとの事! 今日の日没ごろには到達するもようです!」
「援軍が来たか! 何とか持ちこたえるんだ!」

 待ちに待った援軍。さあここから反撃が始まる! そういう所だったが……。

「アーノルド様、敵軍が退却するもようです」
「何だと? まさか奴らは別働隊が来るのを分かっていたのか。クッ、何もできなかったな。これが本物の戦争だったら、負けてたな」

 苦虫をかみつぶすような顔で彼は報告を聞く。

「閣下に報告せねばなるまい。敵は実数では計れない、想像をはるかに上回るほど強いと」



【次回予告】
「俺を生かしたところで何にもならないただの穀潰しなのに……」
血だらけの状態で召喚された男は自傷気味に語る。その真意は……?
第49話「穀潰しのアルバート」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スローライフとは何なのか? のんびり建国記

久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。 ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。 だけどまあ、そんな事は夢の夢。 現実は、そんな考えを許してくれなかった。 三日と置かず、騒動は降ってくる。 基本は、いちゃこらファンタジーの予定。 そんな感じで、進みます。

魔法公証人~ルロイ・フェヘールの事件簿~

紫仙
ファンタジー
真実を司りし神ウェルスの名のもとに、 魔法公証人が秘められし真実を問う。 舞台は多くのダンジョンを近郊に擁する古都レッジョ。 多くの冒険者を惹きつけるレッジョでは今日も、 冒険者やダンジョンにまつわるトラブルで騒がしい。 魔法公証人ルロイ・フェヘールは、 そんなレッジョで真実を司る神ウェルスの御名の元、 証書と魔法により真実を見極める力「プロバティオ」をもって、 トラブルを抱えた依頼人たちを助けてゆく。 異世界公証人ファンタジー。 基本章ごとの短編集なので、 各章のごとに独立したお話として読めます。 カクヨムにて一度公開した作品ですが、 要所を手直し推敲して再アップしたものを連載しています。 最終話までは既に書いてあるので、 小説の完結は確約できます。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

最強魔導師エンペラー

ブレイブ
ファンタジー
魔法が当たり前の世界 魔法学園ではF~ZZにランク分けされており かつて実在したZZクラス1位の最強魔導師エンペラー 彼は突然行方不明になった。そして現在 三代目エンペラーはエンペラーであるが 三代目だけは知らぬ秘密があった

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

魔法系男子のゆふるわな日常(希望)

ねじまる
ファンタジー
数年前まで魔王と戦争をしていた世界は人間側の勝利で今や平和になっていた。 かつてはその戦いで名声を得た若き魔法使いも現在は大学二年生。 世界は平和になったが、世界は不況。 家賃を三ヶ月滞納しているばかりか、学費も払えない、学生あるあるの貧乏生活。 現実って厳しい、よね。

処理中です...