人魔共和国建国記

あがつま ゆい

文字の大きさ
上 下
33 / 127
アレンシア戦役

第33話 決着 アレンシア戦役

しおりを挟む
 エリックの謀叛はあっという間にアレンシア国軍の間に広まった。

「伝令! 緊急事態! エリック様が謀叛を起こしました!」
「来たか! 我らも続け! 豚王の支配を終わらせるんだ!」
「ニッカ様!? 反逆するおつもりですか!?」
「当然だ! 我らの真の君主はモリス様だ! あの豚王ではない! 行くぞ! エリック様を援護するんだ! ついてこい!」

 それを聞いたモリスの配下であったイトリー家支持派がそれに続けと言わんばかりに次々と謀反を起こした。



「伝令! 敵軍のエリックより!『我が300の兵の中に豚王に味方するもの、1兵たりともなし!』」
「伝令! 敵軍のニッカより!『我らが兵150、打倒豚王のために助太刀いたす!』」
「来たか!」

 次々とあがる報告をマコトは聞く。計3部隊、総勢600名もの敵軍が味方に寝返った。

「これで相手は1600に対して俺達は2600! この戦い、勝てるぞ! 一気に押し込め!」

 全軍にイトリー家、ならびに支持派の部隊が味方になったという伝令を飛ばす。戦力差が若干不利程度から2倍弱にまで一気に広がる!



「伝令! 緊急事態! エリック及びその支持派が謀叛を起こしました! 現在敵軍と合流しわが軍を攻撃中です!」
「エリック!? あのモリスのガキか! あの野郎、ぶっ殺せ! 見つけ出して八つ裂きにしろ!」

 来兎らいとの軍は魔物が主戦力で人間の兵は軽視され、末端の部隊にてられていた。エリックをはじめとするイトリー家およびその支持派には嫌がらせで人間の兵を充てていたが、それがあだとなった。

「大丈夫だ、魔物や獣人は常にオレの味方だ。絶対裏切らねぇし士気が落ちることもねぇ。そいつらを使えば勝てねぇ戦なんて無ぇ! 叩き潰せ!」



「ぐっ!?」

 防戦一方だったシュネーはカーマインの猛攻に耐えきれず右腕に深い切り傷を負ってしまう。撤退しても良い傷だが盾をしまい剣を左手に持ち替え臨戦態勢を解かない。
 刺し違えも辞さないと思ったその時、矢の雨がカーマインの背後から、さらには兵士による剣の斬撃も彼の元へと飛び込んで来る!

「ガァア!?」
「あの部隊は……ニッカ隊!? 同士討ちしてる!?」
「伝令! 閣下より!『イトリー家とその支持派と共に敵を撃破せよ!』との事です!」
「そう。そう言う事ね。各員! ニッカ隊と協力して敵を包囲せよ!」

 カーマイン隊に対してシュネー隊とニッカ隊による挟み撃ちを仕掛ける! 包囲攻撃は目に見えて効果がありカーマイン隊は見る見るうちに溶けるように数を減らしていく。

「グルゥア! グルゥアアアア!」

 味方の兵がことごとく力尽き、カーマインが敵に囲まれ四方八方から剣で斬られ、槍で突き刺されられる。

「グル……グゥ……ア……」

 最初こそ抵抗したものの、やがて大量の失血で意識を失い、倒れた。

「お父様!?」
「!? メリル! 何でここに!?」
「お願い、殺さないで! お父様がこうなったのは絶対わけがあるから!」
「衛生兵、彼を運びなさい。それと私に簡単な止血をお願いするわ。応急手当てが終わり次第、私はまた戦線に復帰する」

 シュネーはこの場に居るはずのない、おそらく軍規違反を犯したであろう彼女を相手にしても冷静に判断し指示を出した。



「ぐあっ!」
「おいチビ! くたばるのはまだ早えぞ! 根性入れろ! って、ダメか」

 右翼に展開するウラカンの部隊は劣勢に追い込まれていた。まだミノタウロスはそのほとんどが生き残っているが味方のゴブリンやコボルト、それに人間は大分やられた。

「兄貴、さすがにやばくないですか俺達」
「この程度の不利な状況は1度や2度ではねえだろ! 持ちこたえろ!」
「兄貴! 敵の様子が変です! エリックの部隊が同士討ちを始めてますぜ!」
「なにぃ? 同士討ちだとぉ?」
「伝令! 閣下より!『イトリー家とその支持派と共に敵を撃破せよ!』との事です!」
「はは~ん。なるほど。これが閣下の秘密兵器って奴か。お前ら! あの豚共を囲むように動け! エリックの部隊と挟み撃ちだ!」

 ウラカンはマコトの秘策に勘付いて指示を飛ばす。挟み撃ちにして一気に敵を殲滅するつもりだ。



「伝令! リューシャ隊長討死! 残存兵、残りわずかです!」
「伝令! カーマイン隊壊滅! 隊長の安否は分かっていません!」
「畜生! エリックの首はまだか!?」

 豚王は部下の戦死報告を聞き、焦る。こんなはずはなかった。予定では今頃マコトを引きずり出して軽く拷問にでもかけてるはずだったのに。

「おいテメェ! 何とかならんのか!?」
「閣下、それがエリックとイトリー家支持派の謀叛で陣形は崩れて指揮系統が混乱しています! とても戦うどころではありません!」
「ふざけてんのか! 何とかしろ給料ドロボーがっ! 殺されてえのか!? ええ!?」
「閣下、このままでは全軍壊滅してしまいます! こうなったら城へ籠城するしかありませんぞ!」
「クソッ! 全軍に退却命令をだぜ! 籠城する! 殿しんがりはお前がやれ!」
「ええっ!? 私ですか!?」
「テメェが籠城しようって言いだしたじゃねーか! うまくやれ!」
「……承知しました」



◇◇◇



「閣下! 敵軍、退却していくもようです! いかがなさいますか!?」
「俺達の勝ちか! 追撃しろ! 一気に叩け!」

 マコトは部下からの報告を聞き上機嫌だ。追撃を指示し、絶好の攻撃機会を逃さない。
 こうして後にハシバ国に伝わる「アレンシア戦役」と呼ばれる一連の戦争のクライマックスと言える戦いはマコトの勝利で終わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

連帯責任って知ってる?

よもぎ
ファンタジー
第一王子は本来の婚約者とは別の令嬢を愛し、彼女と結ばれんとしてとある夜会で婚約破棄を宣言した。その宣言は大騒動となり、王子は王子宮へ謹慎の身となる。そんな彼に同じ乳母に育てられた、乳母の本来の娘が訪ねてきて――

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

処理中です...