人魔共和国建国記

あがつま ゆい

文字の大きさ
上 下
24 / 127
アレンシア戦役

第24話 魔法部隊と亡国の姫君

しおりを挟む
 そろそろ「寒い」朝が来るようになり冬支度をすべき時期に突入してから、マコトの元にマンドレイクのオヒシバが久々に顔を出してきた。彼は堂々と自信満々の表情と態度をしている。

「王様! 新しい住人を連れてきました! それも魔法が使える住人ですよ!」
「新しい住人だと? ま、まぁいい。通してくれ」

 マコトは若干不安に思いながらも連れてくるよう指示を出す。
 彼が連れてきたのは頭がオレンジ色のカボチャになっていて、左手にこれまたカボチャのランタンを持った、ふわふわと浮かぶ幽霊みたいな魔物達……ジャック・オー・ランタンだ。彼らは一言で言えば陽気でノリの軽い連中だった。

「おう! アンタが王様ってやつか! これからは俺たちも協力するからよろしくたのむぜ! 兄弟!」
「特技は何だ? 魔法が使えると聞いたが?」
「聞いてんなら話は早え! こう見えても炎系はわりと自信あるぜ!」
「んじゃあテストしよう。ついてきてくれ」

 さすがに王の間で魔法をぶっ放すわけにはいかない。マコトはたまたま空いていたクロスボウの射撃訓練場へと彼らを連れて行った。



 的が置いてある場所に目標物としてレンガを置き、その威力を試させる。

「あのレンガを狙ってくれ」
「OK、任せとけ。ハアアアア……」

 右手に持っているランタンに魔力を送ると、ランタンは激しい炎を噴き始める。そして、

「エクスプロージョン!」

 ランタンから放たれた球体がレンガにあたると爆発を起こし、吹き飛ばした。

「おお! 結構威力あるな!」
「フム。これほどの威力があるのならすぐさま実戦投入できそうですな」

 マコトとディオールがその想像以上の威力に目を見張る。

「よし、これほどの使い手ならすぐに使えそうだな。じゃあ忠誠を誓ってくれないか?」
「わかったぜ。俺はジャック・オー・ランタンのジャック、これからは兄弟のために働くぜ。今後ともよろしく!」

 彼がそう言うと青い球状の光が胸から飛び出し、マコトのスマホの中に入っていった。
 同様に他のジャック・オー・ランタンたちにも忠誠を誓ってもらい、32名の魔術師の部隊が加わった。
 加入手続きが終わるとマコトはオヒシバにポケットマネーとして1000ゴールド銀貨3枚を渡す。

「王様、このお金は?」
「紹介料だ。タダでは悪いからな。受け取ってくれ」
「は、はい。ありがとうございます」

 オヒシバは戸惑ったが人間の慣習だと思って素直に受け取った。

「よし、んじゃあお前たちは軍隊勤務になる。戦場では自慢の魔法で敵を蹴散らしてくれ。今日の所は解散でいいわ。明日から兵役に就いてもらうぞ」

 そう言ってマコトは部隊を解散させた。



 新たな戦力も手に入り少しは安心できるようにはなってきたある日。
 マコトはアレンシア国内に放った内偵からの報告書を読み、これからどうすべきかを考えていた。
 アレンシア国攻略の大きなカギとなるのは「イトリー家支持派」と「ビルスト国のメリル姫、ならびにアレックス王子」だ。

 イトリー家は元々現在のアレンシア国領の中心地に近い部分を治めていた領主で、豚王来兎らいとによる武力侵攻および制圧後もこの地域の領民からの反発は根強く、今でも各地でレジスタンス活動が絶えないという。

 ちなみに王や領主というのは地球からやってきた異界の王に限らずこの世界の住人、要は「現地住民」の中でも由緒ある血筋を引いたものや人々を束ねられるほどの武力や経済力を持つ者がなっていることがほとんど。
 召喚が始まったばかりなのもあって地球から来た王で領土の広い者はなかなかいない。



 また、元リシア国領土とアレンシア国中心地をつなぐルートから少し離れたところに獣人が暮らしているビルストという国があったが、そこは一切抵抗する事無く豚王の元に下った。
 兵士達の3割、何よりビルスト国王が戦力は充分あるのになぜか戦わずして全面降伏してしまったからだ。

 だが王の娘であるメリル姫とその弟アレックス王子は行方をくらましている。
 噂ではイトリー家支持派と合流し、レジスタンスメンバーとして各地の拠点を転々としながらも反撃の機会を狙っているという。
 彼らを味方に付ければ大きな戦力となるだろう。

「レジスタンスと接触して少額で良いから金銭、ならびに食料や武器の供給で支援してくれないか? 今は一人でも多くの味方が欲しい」
「承知いたしました。手配しておきます」



 数日後、報告書を持って兵がマコトの元へとやってくる。

「閣下、内偵がイトリー家支持派との接触に成功しました。
 噂通りメリル姫とアレックス王子はイトリー家支持派と共にレジスタンス活動をしておりました。
 資金や物資の援助は有りがたいとは言っていますが、本格的に協力をするというのなら領土奪還後はイトリー家による再統治、ならびにビルスト国の再興が条件との事です」
「直接統治は不可能か。まぁいい。要求は全部飲むと話をつけてやってくれ」
「ハッ!」

 相手側の要求は大体予想通りだった。まずはこちらが譲歩する形で協力を取り付けるのが先だとマコトは指示を出した。



 正直台所事情はあまり良くない。
 現在は借金こそしておらず今のところは産業基盤もしっかりしており、またミサワ国とランカ国の2国を吸収合併したこともあって黒字経営ではあるものの、手元に残るカネは微々たるものでさらに国を大きくするために近々銀行からまた融資を受ける予定である。

 もちろん返すめどは今秋の収量を基に予測した1年後の数値もあるし、収量が足りない時は城の改修工事や民家の建設工事を遅らせてレンガや石の建材を売って急場をしのぐことも出来る。
 と安全策を施しているので多分国家経営が破たんすることはないだろう。

 この世界に来て半年以上、マコトは自分がここまで国家運営に向いているとは思わなかった。
 地球ではこんな大仕事任せてくれることはおそらくないだろうと考えていただけに今の仕事は案外満足しているのだ。
 もちろん不安が無いわけではない。予想もできない突発的な事で国が立ち行かなくなるのではという恐怖もある。
 が、それを差し引いてもやりがいのある仕事だと感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...