上 下
53 / 59
11月

第53話 勇気と無謀の違い

しおりを挟む
「小僧、株の調子はどうだ?」

「ぼちぼちってとこですね。10万円を使って3000円くらい利益が出ましたけど」

「ほほぉ、3%の値上がりか。なかなかの数値じゃないか、やるな」

 進はススムと授業開始前にそんな会話を口にする。



「では今日の本題に入るが小僧、勇気と無謀の違いは何か、わかるか?」

「? い、いえ。あまり良くは分かっていないです。ススムさんは分かるんですか?」

 11月も半分を過ぎ、冬支度が始まる頃……「勇気と無謀の違いについて」というのを題材に授業が始まっていた。



「もちろんだ。教えてやろう、勇気とは……そうだな。準備に準備を重ねたうえでそれでもなお負ける可能性がある。

 というのを分かったうえで、その際に負けるかもしれないのを覚悟の上で挑むことが『勇気』なんだと思うな。あくまでオレの定義だがな」

 ススムは勇気と無謀の違いについてまずは「勇気」とはどういうものなのかを語る。



「では、無謀はどんな感じですか?」

「無謀は……そうだな。大して準備も勉強もせずに何も考えずに突き進むだけの愚か者の事だな。

 以前も言ったが「富士山頂を目指すのにルート確認も装備品の準備もせずに挑む」ようなものだな、無謀というのは。

 そんなの最上級に良くてもただのバクチ打ちにしかなれん。再現性も改善も無いからただ運試しをやってるだけに過ぎん。

 小僧、こんな奴には絶対になるな。なったら破滅の道しかないぞ」

 ススムは次いで「無謀」について何なのかを語った。



「誰だって失敗するのは怖いし嫌なことだ。だが世の中に『確実』や『絶対』はない。

 唯一『確実』や『絶対』があるとしたら「『確実』や『絶対』というものは『確実』に『絶対』にない」という事だな。

 オレが4月の最初に合った時、お前に「9割以上の確率で成功できるだろうが確実に成功する保証はできない」と言ったのはそういう事だ。

 薄情かもしれんが、オレであろうと100%の保証は出来んのだ。オレの話を聞いても失敗する可能性はわずかだがある。それを正直に述べたにすぎん」

 ススムの話は続く。



「100%準備が整うことは無いし、どんな勝負でも負ける確率はわずかだがある。それを承知の上で「エイヤ」と跳ぶことが重要だ。

 それが出来る者だけが成功をつかめるのだ。小僧、お前は「なんだそんなことか?」と思うかもしれん。でも実際そうだ。

 最後は「エイヤ」と跳ぶことが出来るかどうかが全てを決める。大抵の人間はこの最後の「エイヤ」が出来ないんだ。だから富をつかめないものさ」

 ススムは、最後に「エイヤ」と跳べるか? それが人生を分かつポイントだと強く説く。



「小僧、よく聞け。普通の人間というのは失敗を過剰なまでに恐れすぎている。

 失敗したら家庭が壊れる、人生が壊れる、この世の終わりだ! 死ぬしかない! と思う者すら数多いし、中には本当に失敗した程度で自殺する者まで数多くいる。

 だが限界まで準備しても『確実』や『絶対』に成功する準備はできない。生涯を準備運動だけで終えるだろう。

 5月にも言ったがこいつは学校教育の悪影響だな。失敗すれば「絶対に」怒られるから、絶対に失敗しないようにするという習慣を

 大学まで行ったら16年もの長い長い時間をかけて学ぶことになる。そういう意味では学校教育の影響というのはとてつもなく大きいものだ」

 ススムは学校教育による悪影響を残念そうに語る。これさえなければ成功できる人間はもっと多くなるというのに。という感情がこもっていた。



「それと、勇気ある者も恐怖を感じている。怖くないわけでは無い。

『愚者は恐れを知らない。勇者は恐れを見せない』という言葉があるが、勇気あるものは『恐怖を手なずける』ことが上手い。

 前に「本能を飼い慣らせ」と言ったが恐怖についても同じことが言える。恐怖を上手く『手なずけ』て『飼い慣らす』事が重要だ。

 人間たるもの恐怖というのは誰にでも必ずあって、なくすことは出来ない。恐怖は人間が生きる上で欠かすことは出来ない重要な感情の1つだからな。

 だから恐怖と『敵対する』のではない、恐怖を『飼い慣らす』あるいは『説得する』んだ。決して無視しても、し潰してもいけない。飼い慣らすんだ」

「そ、そうですか……でも具体的に何をすればいいんですか?」

 進の「具体例は?」という声にススムは少し嫌そうな顔をする。



「ふーむ、そこまで教えてやらねばならんのか……まぁ仕方ないか。学校では恐怖を手なずける方法なんて教えないからな。わかった、教えてやってもいいぞ。

 いいか? 恐怖を手なずけるためにはまず恐怖を全て紙に書くことだ。頭の中が空になるまで恐怖を紙に吐き出すんだ。それが第1歩だ」

「紙に書かなくても頭の中で考えるだけでもいいんじゃないんですか?」

 進はそう反論するが……。



「いやダメだ。必ず紙に書き出せ。何故なら頭の中にある恐怖は形が無いからどこまでも大きくなって広がる。だが紙に書き出せば形のあるものとして認識できる。

 頭の中では無限大に広がる恐怖も、紙に書き出せばメモ用紙1枚にもならないことがほとんどだ。

 恐怖の正体や形が分からなければこれ以上に恐ろしいものは無いが、逆に正体や形が分かれば大したことはない。

 前にも言ったが人は正体が分からなければ「枯れススキ」すら怖がるものだ」

 ススムは恐怖の飼い慣らし方について進に伝授するのを続ける。



「そして紙に吐き出した恐怖1つ1つについて「もしこれが起こったらどうすればいいのか?」という対策を論理的な思考で構築するんだ。

 これを全ての恐怖に対して行った時、恐怖は怖くなくなる。これが『恐怖を飼い慣らす極意』と言えるだろう。まぁ随分と仰々しい言い方だろうがな」

 ススムは満足げにそう語る。これで進は後に、この時に恐怖を飼い慣らすことが出来るようになった、と語ったそうだ。



【次回予告】

「会社を『利用する』あるいは『使い倒す』位に『ずる賢く』なれ」

ススムは進に対してそう言う。会社は便利だが金持ちになるには小さすぎる、という内容だった。

第54話 「給料に慣れすぎるな 会社に飼い殺されるな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...