49 / 59
11月
第49話 解釈の違い
しおりを挟む
「小僧、デモ取引には慣れたか?」
「え、ええまぁ。取引にも慣れてきましたよ。とりあえず10万ほど入金も済ませましたしそろそろ本格的に取り組もうかと思っています」
11月が始まって間もなく、進はデモトレードで勝ったり負けたりはしていたがトータルではプラスの成果を出していた。
「小僧、今回は『解釈の違い』というのをテーマにしよう。ちょっと抽象的で分かりにくいかもしれんが何とかしてついてこい。いいな?」
「は、はい。お願いします」
「例えばの話だ小僧。「株を買った直後に大暴落するのを2回経験した」というのは成功か? それとも失敗か?」
「えっと……そりゃ失敗に決まってますよ」
ススムにとって予想通りの答えが出てきたのかハァッ、とため息をつく。
「言うと思った。では聞くが小僧、なぜこの例は「失敗だ」と言えるんだ?」
「そりゃお金が無くなったんだから失敗したに決まってるでしょう」
「やはりそう来るか……読み通りだな。いいか小僧、ちょっと小難しく感じるが失敗か成功かというのは「ラベリング」だ。
なぜ「株を買った直後に大暴落するのを2回経験した」のを自動的に「失敗」だと思ってしまうんだ?
もしこれで大暴落の予兆を完璧につかめて切り抜けるすべが身に着いたのなら「成功」とは言えないかね?」
「……」
進は答えない。
「この手の話で一番知名度が高いのは発明王エジソンの電球の発明だろうな。彼の話は1度くらいは聞いたことがあるだろ?
彼は「1万回電球の実験して失敗したというのは、1万回うまくいかなかったという成功体験をしただけだった」と言っていた。
彼にとって失敗とは「電球を作るのをあきらめる」事であって「実験に失敗した」事ではない。
エジソンは失敗という概念に対して「挑戦し続けている間は失敗してはいない」という解釈、つまりは「ラベル貼り」をしていたんだ。
だから竹のフィラメントまでたどり着いて電球の発明に成功したんだろうな。
まぁ彼の場合後ろに莫大な資金援助者がいたから成功できたというのもあるのだが、その話はやめとくか」
ススムは淡々とよどみなく話を続ける。
「エジソンだけじゃないぞ? 例えばブラック企業だって部下である社員が2徹したとしたら「あか抜けて来たな」と褒めるんだ。
徹夜するのは良い事だという間違った常識を刷り込むんだ。これも「ラベリング」の一種だな。
「2徹した」という事実に対して「良い事だ」とラベリング、つまりは「ラベル貼り」をすることで労働力を搾取する典型例だ。
会社にとっては残業をさせるというのは「社員や仕事の管理が行き届いてない」という完全な失敗事例であり汚点なのだが、
ブラック企業はそれに気づいていないか気づいても隠してごまかす。そういうものだ。
ここのデイサービス施設はオレが見た限りではブラックではなさそうだが、介護施設だってそういうところもあるんだぞ」
「そ、そうなんですか……」
進はススムによる、ブラック企業がどうやって労働力を搾取するかという話を聞いていた。
「他にも、クリスマスやこの間あったハロウィンなどの季節イベントでは恋人や家族た友人をテーマにしてそれを前面に押し出してくるが、
それは「1人よりも集団で来てくれた方がたくさんお金を落としてくれるから」という商業的な理由があるんだぞ。
それをクリスマスを1人で暮らすのを敗北だと思っている時点で、下らんマスメディアの手のひらの上で踊らされてるだけに過ぎん。
そんなのはさっさと卒業しろ。これも「ラベル貼り」だ。
「クリスマスを一人で暮らす」という事に対し「敗北」というマスメディアや売りたい店側にとって都合のいいラベルを自分で勝手に貼っているだけに過ぎん。
他人が相手を都合よく操作するためのラベル貼りを何の疑いもせずに受け入れている。これをしていると人生が破滅するぞ」
ススムはこれから起こるであろうクリスマス商戦にも苦言を言う。
「小僧、お前が本格的に株をやり始めたら「ロスカット」というのは避けては通れん。これは「損切り」とも言ってマイナスのイメージが根強い。
オレとしてはロスカットは「10万円の損失が3000円で済んだ」となれば十分成功していると思うんだがな。
株を極めれば「成功」と「大成功」しかないと言えるんだが、誰も分かってはくれん」
「は、はぁ……「成功」と「大成功」しかない、ですか」
老人の言う言葉を若者はピンとこない顔で聞く。
「……ひょっとしてこれもラベル貼りの一種ですか?」
「ほぉ、最近の小僧は頭だけでなく口も回るようになってきたな、大したもんだ。半年前とはえらい違いだな。
そうだな、お前の言う事が正しいよ。これもラベル貼りだ。だがお前を破滅に追い込むつもりはないぞ。そこだけは安心してほしい。
損切りは株をやる上では避けては通れん。損切り以外の事がいくら完璧でも損切りが出来なければ利益を出す事は100%出来ない。
逆に損切りさえできれば大損だけはしないから生き延びれる。株式市場を退場する奴の大半は「大きく負ける」から退場するんだ。
お前が本物の株式市場にいつ参入するかは分からないがそれだけは覚えとけ」
負けなければ勝てる。ススムは進にそう言い残した。
【次回予告】
「口の中に入れる食べ物」に気を付けるのと同様、いやそれ以上に「口の外から出ていく言葉」にも気をつけろ、というお話。
第50話 「口に気をつけろ」
「え、ええまぁ。取引にも慣れてきましたよ。とりあえず10万ほど入金も済ませましたしそろそろ本格的に取り組もうかと思っています」
11月が始まって間もなく、進はデモトレードで勝ったり負けたりはしていたがトータルではプラスの成果を出していた。
「小僧、今回は『解釈の違い』というのをテーマにしよう。ちょっと抽象的で分かりにくいかもしれんが何とかしてついてこい。いいな?」
「は、はい。お願いします」
「例えばの話だ小僧。「株を買った直後に大暴落するのを2回経験した」というのは成功か? それとも失敗か?」
「えっと……そりゃ失敗に決まってますよ」
ススムにとって予想通りの答えが出てきたのかハァッ、とため息をつく。
「言うと思った。では聞くが小僧、なぜこの例は「失敗だ」と言えるんだ?」
「そりゃお金が無くなったんだから失敗したに決まってるでしょう」
「やはりそう来るか……読み通りだな。いいか小僧、ちょっと小難しく感じるが失敗か成功かというのは「ラベリング」だ。
なぜ「株を買った直後に大暴落するのを2回経験した」のを自動的に「失敗」だと思ってしまうんだ?
もしこれで大暴落の予兆を完璧につかめて切り抜けるすべが身に着いたのなら「成功」とは言えないかね?」
「……」
進は答えない。
「この手の話で一番知名度が高いのは発明王エジソンの電球の発明だろうな。彼の話は1度くらいは聞いたことがあるだろ?
彼は「1万回電球の実験して失敗したというのは、1万回うまくいかなかったという成功体験をしただけだった」と言っていた。
彼にとって失敗とは「電球を作るのをあきらめる」事であって「実験に失敗した」事ではない。
エジソンは失敗という概念に対して「挑戦し続けている間は失敗してはいない」という解釈、つまりは「ラベル貼り」をしていたんだ。
だから竹のフィラメントまでたどり着いて電球の発明に成功したんだろうな。
まぁ彼の場合後ろに莫大な資金援助者がいたから成功できたというのもあるのだが、その話はやめとくか」
ススムは淡々とよどみなく話を続ける。
「エジソンだけじゃないぞ? 例えばブラック企業だって部下である社員が2徹したとしたら「あか抜けて来たな」と褒めるんだ。
徹夜するのは良い事だという間違った常識を刷り込むんだ。これも「ラベリング」の一種だな。
「2徹した」という事実に対して「良い事だ」とラベリング、つまりは「ラベル貼り」をすることで労働力を搾取する典型例だ。
会社にとっては残業をさせるというのは「社員や仕事の管理が行き届いてない」という完全な失敗事例であり汚点なのだが、
ブラック企業はそれに気づいていないか気づいても隠してごまかす。そういうものだ。
ここのデイサービス施設はオレが見た限りではブラックではなさそうだが、介護施設だってそういうところもあるんだぞ」
「そ、そうなんですか……」
進はススムによる、ブラック企業がどうやって労働力を搾取するかという話を聞いていた。
「他にも、クリスマスやこの間あったハロウィンなどの季節イベントでは恋人や家族た友人をテーマにしてそれを前面に押し出してくるが、
それは「1人よりも集団で来てくれた方がたくさんお金を落としてくれるから」という商業的な理由があるんだぞ。
それをクリスマスを1人で暮らすのを敗北だと思っている時点で、下らんマスメディアの手のひらの上で踊らされてるだけに過ぎん。
そんなのはさっさと卒業しろ。これも「ラベル貼り」だ。
「クリスマスを一人で暮らす」という事に対し「敗北」というマスメディアや売りたい店側にとって都合のいいラベルを自分で勝手に貼っているだけに過ぎん。
他人が相手を都合よく操作するためのラベル貼りを何の疑いもせずに受け入れている。これをしていると人生が破滅するぞ」
ススムはこれから起こるであろうクリスマス商戦にも苦言を言う。
「小僧、お前が本格的に株をやり始めたら「ロスカット」というのは避けては通れん。これは「損切り」とも言ってマイナスのイメージが根強い。
オレとしてはロスカットは「10万円の損失が3000円で済んだ」となれば十分成功していると思うんだがな。
株を極めれば「成功」と「大成功」しかないと言えるんだが、誰も分かってはくれん」
「は、はぁ……「成功」と「大成功」しかない、ですか」
老人の言う言葉を若者はピンとこない顔で聞く。
「……ひょっとしてこれもラベル貼りの一種ですか?」
「ほぉ、最近の小僧は頭だけでなく口も回るようになってきたな、大したもんだ。半年前とはえらい違いだな。
そうだな、お前の言う事が正しいよ。これもラベル貼りだ。だがお前を破滅に追い込むつもりはないぞ。そこだけは安心してほしい。
損切りは株をやる上では避けては通れん。損切り以外の事がいくら完璧でも損切りが出来なければ利益を出す事は100%出来ない。
逆に損切りさえできれば大損だけはしないから生き延びれる。株式市場を退場する奴の大半は「大きく負ける」から退場するんだ。
お前が本物の株式市場にいつ参入するかは分からないがそれだけは覚えとけ」
負けなければ勝てる。ススムは進にそう言い残した。
【次回予告】
「口の中に入れる食べ物」に気を付けるのと同様、いやそれ以上に「口の外から出ていく言葉」にも気をつけろ、というお話。
第50話 「口に気をつけろ」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる