上 下
48 / 59
10月

第48話 うまい話なんてあるわけない

しおりを挟む
 10月末日の前日。貯金を見せる機会こそなくなったが読書感想を話す時が来た。

「小僧。課題書は「カイジ 命より重いお金の話」だったがそれに何が書いてあったか聞かせてもらおうか?」

「はい。「借金の保証人にはなるな」という事と「紙に書いてあることが全てでハンコを押したらどんな内容でも従わなくてはならない」という事、

 あとは「契約書をきちんと読めなければ成功できない」それに「うまい話なんてあるわけない」といったところでしょうか?」

「うん、良いだろう。読んでいるようだな」

 ススムは満足げにうなづく。



「人間は誰しも「自分だけは特別だから美味しい話が転がり込んできてもおかしくない」と思い込みたくなるものさ。誰だってそうだ。

 自分の実の子供に「そんなうまい話があるわけないじゃないか」と言って聞かせる親達だってそうだ。

 彼らとて「欲」はある。人間が欲を持ち続ける限り、詐欺の話は永遠になくなることはない」

 ススムは話を続ける。詐欺の手口を紹介してくれた。



「詐欺の手段の1つに「ポンジ・スキーム」というものがある。

 あまりにも強力な手段だから初登場した1920年代以降もおよそ100年間、根幹こんかんの部分は変わらず枝葉を変えて現代でも使われている詐欺の代表的な手口だ。

 こいつは「預かった投資金に対して配当を出す」と言って他人からカネを出資させるんだが実際には運用されておらず、

 預かったカネの一部を配当金と偽って返しているだけだ。

 例えば「私に出資すれば月利5%の配当が得られますよ」と言って100万円を預かったらその中から毎月5万円を返し続ければ何もしなくても20ヶ月は持つわけだ」

 ススムによる詐欺の手口の紹介は続く。



「その間に信用を育てていって何百人、何千人という人々から合計何億、何十億とかき集めて最後の最後にトンズラをかますわけだ。

 警察もカネを返し続けている間は被害者が誰もいないから法律上動けない。トンズラをかました時点で初めて警察は動けるんだが大体は泣き寝入りするしかないな。

 そもそも「月利5%払いますから出資してください」という時点でおかしいと思わんとダメだ。月利5%は年利にすると60%だ。

 単利だとしても100万円がたった1年で160万円にもなるんだぞ? 1.5倍以上だ。1000万なら月50万、年600万というとんでもない大金になるんだぞ?

 複利だともっと配当金は高くなる。それでいてやる事と言えばただカネを出すだけだ。おかしい話だとは思わないか?

 年利60%なんていう大金を払うくらいなら銀行へ行くなり日本政策金融公庫に行くなりして、別の方法で融資を引き出せば年利数%程度で払う金利はずっと少なくなる。

 それをしない時点で怪しいと思わないと騙されることになるぞ。気を付けるんだな小僧」

 ススムは進に「ポンジ・スキーム」という強力かつ代表的な詐欺の種類を教えた。



「人間のサガとでもいうべきものだが「自分だけは特別に選ばれた人間だ」とか「もしかしたら今度だけは本当の話かもしれない」と心の奥底では思ってる。

 根柢こんていの部分では欲望まみれで「自分だけは選ばれた特別な存在で、他の人とは違って楽してカネを得られる素質がある」とか

「自分だけ都合よくぬれ手にあわで楽して稼ぎたい」という思いを持っているんだろうな。

 そういう「欲」がある限りこの手の話は無くならずに、引っかかる者は出続けるだろう。

 人間に欲望がある限り詐欺の話は永遠になくならない。いつの人の世にもぴったりと寄り添っているだろう」

「ススムさんはどうなんですか?」

「オレか? オレも昔はそうだった。何度か引っかかった事もある。金額が1番でかい話では詐欺師に合計150万持っていかれたこともあった」

「!! 150万もですか!?」

 目の前の老人が150万円という進からしたら大金を失ったことに大いに驚く。



「ああそうだ。オレだって昔はそうだった。小僧、お前はオレの教訓を生かして詐欺には引っかかってほしくないな。貴重なカネをドブに捨てるようなもんだ。

 さすがにこの年となると煩悩はなくなったが、オレだって昔は若くてバカだった時もあったさ。出来れば同じ目には遭ってほしくない。

 オレの事を反面教師にして同じてつは踏まないでほしいな。

 それと、来月からの課題本を出そう。「イヌが教えるお金持ちになるための知恵」という本を買って読め。もちろん感想も聞くから内容を覚えていて欲しい。

 アマゾンなら買えるはずだ。買って読んでくれ。今のお前には少し物足りんかもしれんが基礎を学ぶ点では重要だぞ」

「ススムさんからの課題本を読んでると基本的なことばかり出てきますね」

 進の愚痴ともとれる一言にススムは反応し、その眼を向ける。



「それだけ基本というのが大事だからだ。剣道だってまず最初に「型」を徹底的に学ぶ。

 それと同じ様に金持ちになりたければ金持ちになるための基礎を徹底的に身体に叩き込むんだ。多くの者はここでつまづく。

 基礎ばかりで退屈になって応用を学ばせてくれと言ってろくに基礎もできてない時点で上級者向けの事をやってズタボロになるものさ。

 そうなった奴をオレは何十人とみてきたから、基礎を徹底的に固めるために課題本を読ませているんだ。それもこれもお前のためなんだぞ?

 来月の月末前日までに読み終えることだな」



【次回予告】

失敗はなぜ失敗なのか? 成功はなぜ成功なのか? 抽象的ちゅうしょうてきな話だが全ては「ラベル貼り」なのだという。

第49話 「解釈の違い」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...