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10月

第47話 自分の身体に入るモノには気を使え

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 10月も末日が近くなり、朝になると少し肌寒い時期も出始めたころ。

 デイサービスの仕事の合間にススムの授業が始まる。



「今日は「身体に入れるモノ」に関する話だ。いいか小僧、自分の身体に入るモノには気を付けるんだ。

 節約生活をしている以上、ある程度食事が偏るのは仕方のない事だが、それでも食事にはただ腹を満たすだけでなく栄養面も考える努力はしろ。

 特に野菜を食え。それが無理ならせめて野菜ジュースを飲むようにしろ。小僧が出来る範囲で構わないが、食事には注意を払え。なぜだかわかるか?」

 ススムは進に問う。なぜ食事には気を使うのか? と。



「えっと……食べるものは自分の身体を作るから、ですか?」

「ふむ、分かっているようだな。正解だ。食べるものはそのまま自分の身体を作る材料になる。体に悪い物ばかりを食べていると身体の調子も悪くなるぞ。

 実際、アメリカは肥満体国だがなぜだかわかるか? 言ってみろ」

 ススムは進にさらに問う。



「えっと……ファストフード店がたくさんあるからでしょうか?」

「大体あってるな。確かにファストフード店がたくさんあるというのもあるが、貧乏人は健康に気を使わないからだというのもある。

 手軽に行けて高カロリーですぐ満腹になり、しかも外食としてはそんなに高くないし食後に皿を洗うというめんどくさいことをしなくて済む。

 となると貧乏人は手軽さに飛びつくわけだ。金持ちは食事の栄養価まで把握しているからあまり食べたがらない。トランプ大統領みたいな奴はいるがあれはレアケースだ。

 月1~2回程度の「たまに食う」くらいならそれでもいいかもしれないが常食すると確実に身体はぶっ壊れるぞ。

 食う物には注意を払え。それが明日のお前を作る材料だからだ」

 進の師はそう念を押して言う。重要なことなのだろうというのは誰が見ても分かる事だった。



「あとは情報を摂取する際は食事以上に取捨選択しゅしゃせんたくに気を使え。

 TV番組やゴシップが売りのまとめサイトの情報を摂取してばかりだと精神的に不摂生ふせっせいになる。そんな状態で思考してもろくなものが出てこない。

 食べた食事が自分の身体を作るのと同様、接した情報が自分の精神を作るのだ。肉体と精神、これは必ずセットで考えろ。どちらとも健康でないと金持ちにはなれん。

 金持ちは意識にせよ無意識にせよ心身の健康に大変気を使い、カネだってふんだんに使う。

 肉体的健康、精神的健康が健全に仕事をこなす土台になることを知っているからだ」

 老人の話は続く。



「特に精神的健康を保つのは並大抵の努力じゃできないぞ。食事なら口にする物を目で見れるからあまりにも不健康なメニューは避けられる。

 だが精神的な健康を保つための情報というのは形として目には見えない。

『友達5人の年収の平均があなたの年収』という言葉があるが、それは精神を作る情報がその5人に合うよう形作られるからだ。

 そいつらはお前が上の次元へ行くにも下の次元に行くのも辞めて欲しい、現状維持をしろと説得してくる。

 昔『親には感謝すべきだが、絶対服従するべきではない』という話でもしたが人間というのは変化を無条件で嫌うものだ。

 だから自分だけ前に進もうとしたらそれを全力で止める情報を流し続ける。人間というのはそういうものだ」

 ススムはふぅっと息を吐き、一息をついてから話を再開する。



「今は世界各地でKORONAウイルスが拡散しているから、健康のありがたさに気づく機会は以前よりは増えただろうな。

 何せあれは重症化した後に味覚や肺に後遺症まで残る恐ろしい病だからな。

 昔『金持ちはケチか?』という話でもしたが、金持ちというのは「命は買えないが安全は買える」と言ってメルセデツ・ベンツを買う。

 それと同様に『健康はカネで買えないが予防策は買える』だから食事に気を付け、適度に運動し、3密を避ける。そういうものだ」

「ススムさん、金持ちっていうのは健康にとんでもなく気を付けるそうですがどうしてそこまで徹底的にやるんですか?」

 進にとって金持ちは「健康マニア」と言える位にこだわっているように見える。そこの疑問をぶつける。



「小僧、お前みたいな下っ端のサラリーマンなら代役は社内だけでもいくらでもいる。

 だが金持ちには代役というのが効かない。だから金持ちが1日休むだけで大損害が出るんだ。

 商談も何億や何十億という単位のカネが動く事も当たり前のように起こるし、それを不意にするのは相手にとって大変失礼なことだ。

 小僧、お前は商談相手がゲホゲホと咳をしながら話をするのを見てていい気分はしないだろ?

 相手に不愉快な思いをさせないためにも、普段から健康管理をきちんとするのは金持ちにとって最低限必要なことだ。

 海外では『自分自身の健康管理が出来ないようでは、まともな仕事なんて出来るわけがない』と低評価をつけられるからな」

「だから金持ちは「健康マニア」なんですね。よくわかりましたよ」

 ススムが出した答えに進は納得する。代役がいないんじゃ、しょうがないだろう。



「そういう事だ。金持ちというのは肉体的健康と精神的健康を特に重視する。それが仕事をする上で非常に重要な土台だからな。

 その健康を保つには自分の身体の中に入ってくるモノに気を使え。それが未来のお前を形作る材料だからだ」

 その日の授業は終わった。



【次回予告】

人間が人間である限り、欲望を持っている限り、詐欺の話は無くならないという話。

第48話 「うまい話なんてあるわけない」
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