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9月
第41話 金持ちの定義
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進が働いているデイサービス施設の給料日である月末日の前日。
4月から続いているカネを貯めることが出来たかをチェックする日が今月もやってきた。
「小僧、いつもの奴だ。貯まったか?」
「はい出来ました。これが証拠です」
進は封筒から6万円を出した。
「結構なことだ。6万円貯めるのを半年近くは続けてるからカードローンの残高はずいぶんと下がっただろ?」
「ええ。夏のボーナスを加えれば今月の4万円で完済出来そうです」
「おお! そうか! 良かったな。でも3割の貯蓄は続けろよ。1割の貯蓄でもいいが3割を続ければ速度は3倍だからな。
何をするにも種銭は必要だ。それを作る技能というのは何をするにも必ず役に立つ大切なことだからな」
カードローンの完済が出来そうだという報告をススムは自分の事のように聞いていた。
「では次の課題だ。「ユダヤ人大富豪の教え」にはどういう内容が書かれてあった? ざっとで良いから答えてくれ」
「はい。確か「好きなことを見つけてそれを仕事にしろ」というのと「自分より知識のある専門家とのコネを作れ」
それに「収入とは人を喜ばせた対価である」というのがありましたね」
「ふむ。きちんと読んでいるようだな」
ススムは満足げにうなづいた。
「ところでススムさん。金持ちの定義って言いますか、具体的にいくらお金を持ってたらお金持ちと言えるレベルなんですか?」
進はススムに問う。
「ほほぉ、金持ちの定義と来たか。なぜ聞くんだ?」
「なぜって、ゴールが見えないとスタートラインに立つことすら出来ませんよ?」
「フム、なるほど一理あるな。うん良いだろう、成長してるじゃないか嬉しいぞ。教えてやってもいいぞ」
ススムは進に向かって語りだす。その表情は柔らかく安らかだった。
「個人的には金持ちというのは『資産』が1億円以上、もっと厳密に言えば資産が3億円以上ある人間の事だろう」
「1億から3億……ですか。どこかで聞いたことありますけど、その根拠はありますか?」
「もちろんあるとも。1億のカネがあったら年利3%で運用すれば300万入ってくる。
1億には手を付けずとも資産運用だけで食っていける。こうなると働かなくてもいいわけだ。
もっと安全を意識するなら3億円を年利1%で運用すれば同じ成果が得られる。バクチを避け分散投資で資産を運用してもそれくらいはできる。
それが出来るのが1億から3億という資産だ……あくまで『資産』だ。貯金はまた別だぞ?」
ススムは「資産と貯金は違う」とハッキリと言う。そこの区別はつけろよ、と言いたげだ。
「ただ、カネさえあれば金持ちというわけじゃないぞ。
仮に退職金や遺産相続でまとまったカネを手に入れたとしても、自分の実力とは関係なしにカネを手に入れた奴は大抵『カネを持ってるだけの貧乏人』だ。
前にハリウッドスターを例に出したがカネがあっても頭が貧乏人のモノと同じならすぐにカネは無くなってしまう。
そんなのは本当の金持ちではない。これも前にも言ったが本物の金持ちと言うのは「カネを持ち続けることが出来る」者たちだ。
カネを持っているだけではなく、大金を持ち続けられる器の持ち主でないと金持ちとは言えん。
これで2度言う事になるが、カネさえあればいいというわけじゃないんだ」
ススムは進に念を押すように「カネさえあればいいというわけでは無い」と言う。おそらくかなり重要なことなのだろう。
「とりあえずは1億から3億っていう目標は出来たので勉強になりましたよ。まずはゴールが見えたんでスタートラインに立てた気がしますね」
「そうだな。人間はゴールが決まってて、いつ終わるのかが分かっていると案外頑張れるものさ。逆にゴールがどこか分からんと簡単にへし折れる。
フルマラソンも走る距離が42.195キロと決まっているから頑張れるのだろうな。これが何キロ走ればゴールなのか分からなかったらとんでもないことになるぞ?」
「……」
何キロ走ればゴールなのかわからないマラソン……進は想像してぞっとしたそうだ。
「小僧、お前は借金を完済できたから6万円を見せる課題はもう止めにしようと思う。もともと借金を返済させるために始めたことだからな。
でも今のお前の事だ、蓄財の習慣はしっかりと着いているだろう。種銭作りに励むことだな。それと、6時起床と起きたことを電話で告げるのはまだまだ続けろよ」
「6時起床の報告はまだ続くんですね。なぜですか? もう随分と経ちましたよ?」
6時起床の課題は続ける。と聞いた進は疑問に思い、師に問う。
「一説には何かを習慣化するには遅い者だと200日以上、つまりは半年以上かかるという研究データがあるそうだ。
それを信じるとなると、早起きの習慣は完璧についたとは言えん。まだまだオレの力が必要だと思うからな。
小僧、お前には通話代を負担させてしまうが、まぁ金持ちになるための必要経費と割り切ってくれ。
あと10月の課題本は「カイジ 命より重いお金の話」だ。読んで何が書いてあるか10月末に聞くぞ。読んでいてくれ」
「は、はい。わかりました。」
その日の授業は終わった。
【次回予告】
進がススムと会ってから半年……今ではすっかり季節は秋となっていた。
今回は「貧乏と暇は危険な組み合わせ」という話だ。
第42話 「貧乏人は退屈で攻撃的」
4月から続いているカネを貯めることが出来たかをチェックする日が今月もやってきた。
「小僧、いつもの奴だ。貯まったか?」
「はい出来ました。これが証拠です」
進は封筒から6万円を出した。
「結構なことだ。6万円貯めるのを半年近くは続けてるからカードローンの残高はずいぶんと下がっただろ?」
「ええ。夏のボーナスを加えれば今月の4万円で完済出来そうです」
「おお! そうか! 良かったな。でも3割の貯蓄は続けろよ。1割の貯蓄でもいいが3割を続ければ速度は3倍だからな。
何をするにも種銭は必要だ。それを作る技能というのは何をするにも必ず役に立つ大切なことだからな」
カードローンの完済が出来そうだという報告をススムは自分の事のように聞いていた。
「では次の課題だ。「ユダヤ人大富豪の教え」にはどういう内容が書かれてあった? ざっとで良いから答えてくれ」
「はい。確か「好きなことを見つけてそれを仕事にしろ」というのと「自分より知識のある専門家とのコネを作れ」
それに「収入とは人を喜ばせた対価である」というのがありましたね」
「ふむ。きちんと読んでいるようだな」
ススムは満足げにうなづいた。
「ところでススムさん。金持ちの定義って言いますか、具体的にいくらお金を持ってたらお金持ちと言えるレベルなんですか?」
進はススムに問う。
「ほほぉ、金持ちの定義と来たか。なぜ聞くんだ?」
「なぜって、ゴールが見えないとスタートラインに立つことすら出来ませんよ?」
「フム、なるほど一理あるな。うん良いだろう、成長してるじゃないか嬉しいぞ。教えてやってもいいぞ」
ススムは進に向かって語りだす。その表情は柔らかく安らかだった。
「個人的には金持ちというのは『資産』が1億円以上、もっと厳密に言えば資産が3億円以上ある人間の事だろう」
「1億から3億……ですか。どこかで聞いたことありますけど、その根拠はありますか?」
「もちろんあるとも。1億のカネがあったら年利3%で運用すれば300万入ってくる。
1億には手を付けずとも資産運用だけで食っていける。こうなると働かなくてもいいわけだ。
もっと安全を意識するなら3億円を年利1%で運用すれば同じ成果が得られる。バクチを避け分散投資で資産を運用してもそれくらいはできる。
それが出来るのが1億から3億という資産だ……あくまで『資産』だ。貯金はまた別だぞ?」
ススムは「資産と貯金は違う」とハッキリと言う。そこの区別はつけろよ、と言いたげだ。
「ただ、カネさえあれば金持ちというわけじゃないぞ。
仮に退職金や遺産相続でまとまったカネを手に入れたとしても、自分の実力とは関係なしにカネを手に入れた奴は大抵『カネを持ってるだけの貧乏人』だ。
前にハリウッドスターを例に出したがカネがあっても頭が貧乏人のモノと同じならすぐにカネは無くなってしまう。
そんなのは本当の金持ちではない。これも前にも言ったが本物の金持ちと言うのは「カネを持ち続けることが出来る」者たちだ。
カネを持っているだけではなく、大金を持ち続けられる器の持ち主でないと金持ちとは言えん。
これで2度言う事になるが、カネさえあればいいというわけじゃないんだ」
ススムは進に念を押すように「カネさえあればいいというわけでは無い」と言う。おそらくかなり重要なことなのだろう。
「とりあえずは1億から3億っていう目標は出来たので勉強になりましたよ。まずはゴールが見えたんでスタートラインに立てた気がしますね」
「そうだな。人間はゴールが決まってて、いつ終わるのかが分かっていると案外頑張れるものさ。逆にゴールがどこか分からんと簡単にへし折れる。
フルマラソンも走る距離が42.195キロと決まっているから頑張れるのだろうな。これが何キロ走ればゴールなのか分からなかったらとんでもないことになるぞ?」
「……」
何キロ走ればゴールなのかわからないマラソン……進は想像してぞっとしたそうだ。
「小僧、お前は借金を完済できたから6万円を見せる課題はもう止めにしようと思う。もともと借金を返済させるために始めたことだからな。
でも今のお前の事だ、蓄財の習慣はしっかりと着いているだろう。種銭作りに励むことだな。それと、6時起床と起きたことを電話で告げるのはまだまだ続けろよ」
「6時起床の報告はまだ続くんですね。なぜですか? もう随分と経ちましたよ?」
6時起床の課題は続ける。と聞いた進は疑問に思い、師に問う。
「一説には何かを習慣化するには遅い者だと200日以上、つまりは半年以上かかるという研究データがあるそうだ。
それを信じるとなると、早起きの習慣は完璧についたとは言えん。まだまだオレの力が必要だと思うからな。
小僧、お前には通話代を負担させてしまうが、まぁ金持ちになるための必要経費と割り切ってくれ。
あと10月の課題本は「カイジ 命より重いお金の話」だ。読んで何が書いてあるか10月末に聞くぞ。読んでいてくれ」
「は、はい。わかりました。」
その日の授業は終わった。
【次回予告】
進がススムと会ってから半年……今ではすっかり季節は秋となっていた。
今回は「貧乏と暇は危険な組み合わせ」という話だ。
第42話 「貧乏人は退屈で攻撃的」
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