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8月

第28話 投資と投機とギャンブルとレバレッジ

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 8月になり毎日35度の猛暑日近くにまで気温が上がる、あるいは届く日が続く。

 外に出なければ冷房の効いた部屋で過ごせるのが本当に幸いだ。

 その中でも授業は続く。



「小僧、どうしたその後は?」

「少しは株の事が分かってきたような気がします」

「結構な事だ。小僧、いいか? 株や不動産をやるのはいいがあくまで「株と不動産をやる」のなら悪くはないぞ。

 貧乏人は投資や投機をギャンブルに変えてしまうものだからな」

「ギャンブルに変える?」

「そうだ。投資や投機というのは「会社の資源」あるいは「チャンス」に対して株などを売買するのだが、

 どちらもある程度先が見えているものでどれだけのリターンが得られるかが投資や投機の前にあらかじめ分かっているものだ。

 一方ギャンブルでは先は見えない。上がるか下がるかは神のみぞ知るというやつで、だからこそ熱くなれるのだろうな」

 進にとっての師匠は話を続ける。



「小僧、投資や投機の際には『面白いの奴隷』には絶対なるな。常に感情を自分から切り離し冷静になることを忘れるな。

 熱くなったりワクワクしたりすると必ず失敗する。そう『必ず』『必ず』だ。もちろんオレですらそうだった。

 熱くなったりワクワクしたりするのは投資や投機をギャンブルに変えている証拠だ。

 お前も必ず熱くなって間違いを犯すだろう。その際に教訓として生かすことだな。

 最近は株よりもFXが流行ってるらしいが、そんなにも魅力的なのはレバレッジがあるからだろう。

 レバレッジのせいでFXが「熱くなれるギャンブル」になってしまっている。嘆かわしいことにな」

「FX? レバレッジ?」

 進は知らなかったようで、キョトンとしている。



「何だ小僧、そんなことも知らずに株をやりたいと言ってたのか? まぁいい、教えてやってもいいだろう。

 FXというのは日本語では「外為がいため」と言って、通貨の変動差を利用して利益を得る仕組みだ。

 例えば1ドル=100円の時にドルに両替すれば1ドル=110円に円安ドル高になった際に得をする。というものだ。だからFXはほぼ投機だな。

 レバレッジというのはよく「てこの原理」と呼ばれていて少額のカネを担保に大きな額で取引が出来る仕組みだ。小僧、お前みたいな素人は絶対に手を出すなよ」

「? レバレッジってそんなに危険なモノなんですか?」

 レバレッジをよくわかってない進は、それは危険なものだと助言する老人に問う。



「危険だとも。「レバレッジをかければ利益が何倍にもなる」とFX会社や「自称」稼げるトレーダーは言うが「損失も」何倍にもなる。

 FXはレバレッジが最大25倍までかけられるそうだ。確かに儲かる速度は25倍かもしれないが損失も25倍の大きさに跳ね返ってくる。

 25倍だと10万や20万程度はすぐに吹き飛んでしまうだろう。

 小僧、お前の話にすると、お前の半年弱や1年弱かけて貯めた蓄えがほんの1日で消えることもある。だから絶対手を出すな。

 FXは基本「上がるか下がるか」だから「丁半バクチ」としては熱くなれるだろうが「投資」や「投機」をするなら絶対レバレッジには手を出すな。行き着く先は破滅以外にない」

 老人は嫌な顔をしつつ語っていた。



「実を言うと株もレバレッジを利かせることが出来るんだ」

「!? ええ!? 株もですか?」

「信用口座という口座を開設してそこにカネを入れれば最大3倍程度だが信用取引が出来るんだ。ただ、これも利益が3倍になるだろうが損失も3倍になって返ってくる。

 株を20年以上続けてトータルで勝ち続けている、などというベテラン中のベテランならまだしも素人である小僧、お前は絶対にやるなよ。

 これも10万円20万円程度は軽く消し飛ぶぞ。信用取引をしないのなら株は「投資」や「投機」と言えるが信用取引をするとギャンブルになってしまうぞ」

 老人は若者にそう厳重に釘をさす。



「株も不動産も熱くなってエキサイティングするのは禁忌きんき事項だ。絶対にやっていはいけないことだ。

 感情を切り離し、数字だけを見て淡々と売る、買うを決めないとあっという間にカネは無くなる。

 ギャンブルは熱狂出来て脳みそからアドレナリンがドバドバ出て楽しめるが稼げるとは別だ。

 株もFXも「上がるべくして上がり、下がるべくして下がる」そういうものだ。そこには何の不思議も謎も無いから熱くはなれん。

 言ってしまえば「タネが全部わかってる手品を延々と見続ける」ようなものだ。上がるか下がるかは分かってるから見ていて大変につまらないものだ。

 小僧、投資をやるときは決して熱くなるな。熱くなるというのは投資をギャンブルに変えている証拠だ」

 ススムはその日の締めくくりとなるメッセージを伝える。



「いいか小僧、投資や投機をするときは絶対にワクワクするな。ワクワクするというのはギャンブルをやっている時だ。決して投資や投機はワクワクしない。

 上がるか下がるかが分かっているからさっきも言ったように「タネも仕掛けも全部わかってる手品を延々と見せられ続ける」ようなものだ。

 そうでなければ必ず失敗する。このオレでさえそうだったんだ。ギャンブルをせずに投資をするというのなら、今日の話は絶対に忘れるなよ。

 まぁ今日はこの辺にしとくか」

 その日の話はそれでおしまいだった。



【次回予告】

「過ぎたるは及ばざるがごとし」今回の話を一言で表すのならそういう内容だった。

第29話 「我慢はしすぎるな」
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