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第2部 恋人になってからのお話
第69話 皇帝(かいざー)の事件の後始末
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「お姉ちゃん。お姉ちゃん頼りで申し訳ないけど、あれを先生に聞かせてどう出るかを見極めてね。昨日渡した奴の再生はできる?」
「うん、大丈夫。再生はできるわ」
姫は昨日、音声データを姉の凛香のスマホに差さっているマイクロSDカードにコピーしていたのだ。
皇帝が事件を起こした翌日の朝7時半……校長室に校長先生と教頭先生、それに皇帝のクラスの担任教師が険しい顔をして、凛香をにらむように見ていた。
「本日は朝早くからお集りいただき、ありがとうございます。こうしてお時間を割いてでも集まっていただいたのは、お聞かせしたいものがあるからです。こちらを……」
そう言って凛香は持参したスマホを取り出し、音声を再生した。
『もう止めてよ! それ以上やったら本当に林太郎が死んじゃう!』
『別に構わないさ『オレ達が見ている前で林太郎がオレのスタンガンを奪って自分に向けて使ったり、レンチに自分から頭をぶつけて自殺した』って言えば良いし、
万一それが通じなくてもオレ達は無敵の未成年だから問題ねえだろ? こんな不良なんていうカスなんて死んだって誤差の範囲内だろ?
っていうかそもそもオレは中学で人殺してるんだぞ。今更死んだ人間の数が増えたところでどうってことねえよ』
『か、皇帝、アンタ正気なの!?』
『もちろんだとも』
スマホからは彼女の悲痛の叫びと皇帝の耳を覆いたくなるような犯罪自慢と言える発言が記録されていた。
「……これをPTAや市や県の教育委員会、弁護士、警察、裁判所、それに皇帝の両親が勤めている会社や彼らの親戚、文部科学省、並びに新聞社やテレビ局、ネットニュースサイトの編集部に送付しますけど、構いませんね?」
「凛香! そんなことしたら皇帝君の人生が終わってしまうじゃないか! 何でそんな酷いことが平然と出来るんだ!? 更生の機会を奪うつもりか!?」
「そういうセリフは皇帝に言って下さいよ。何が『オレは中学で人殺してるんだぞ』ですか。そっちの方がよっぽどひどいセリフじゃないですか」
大人側に激しい動揺が走る。こんなのが世間の目にさらされたら、可愛い可愛い皇帝君の人生が終わってしまう!!
それに、教育委員会に天下りして甘い汁をすする将来も無くなってしまう!
その一方で凛香はいたって冷静というかむしろ「冷酷」と言って良い位、淡々と処理をこなすロボットのようで感情は一切なかった。
「凛香! お前は大学に行きたくないのか!? 今時大学を出てない奴なんてゴミクズのカス以下だぞ!? どこも雇ってはくれないぞ!? 退学になったら最終学歴が中卒になるんだぞ!? 分かってるのか!?」
「高校は日本全国に4000校以上もあるそうなので『どうしてもここに通わなくてはならない』理由なんて無いんですよ。退学になっても別の高校に転入すればいいだけの事です。
それに高校に通わなくても高卒認定試験に受かれば大学には行けますので退学にしたければどうぞご自由に」
凛香はそう言ってカードタイプの「生徒証明書」を取り出しテーブルの上にポンと置いた。
「凛香! お前正気か!? どうしてそこまでしてでも皇帝君の人生をメチャクチャにするんだ!?」
「人を殺しかけた事件を起こしておいて『加害者に寄り添え』『被害者にも落ち度がある』とでも言いたいんですか? 義理とはいえ兄が被害に遭ってる私としては到底受け入れられるものではないですね。
あ、そうそう。この会話もしっかりとボイスレコーダーで録音してあります。
皇帝をかばったことも、私に『大学に行きたくないのか? 今時大学を出ない奴などゴミクズのカス以下だ』と脅したこともしかるべき人たちにしっかりとお伝えしますのであしからず」
無情にも程がある、という位の凛香の言葉に先生たちは大いに慌てる。
「や、やめろ! お前本当に退学にされたいのか!?」
「だから言ってるじゃないですか、私を退学にしたければ『どうぞご自由に』って。繰り返しますが私は退学になっても別の高校に転入すればいいだけですし、万一それが出来なくても大学には行けます。
あなた達みたいな犯罪者をかばう共犯者を『先生』と呼びたくありませんし、何かを教わろうという気にもなりません。今回の事件でこの学校の教員たちがどういう人間なのかよく分かりました。
もう2度と関わりたくもありませんし、顔も見たくありません。ではさようなら」
凛香はただ言いたいことを淡々と述べて校長室を出ていった。
「……あーあ、やっちゃった」
全てが終わった凛香から漏れたのはそんな一言だった。他の生徒が登校してくる中、彼女は上履きを靴箱にしまい自宅へと戻っていった。
「ただいま」
「? どうした凛香? 学校はどうした? 忘れ物でもしたのか?」
「お父さん。私、学校を退学になるかもしれない。驚かないで、ワケはちゃんと話すから」
「!! わ、分かった。きちんと聞くからちゃんと説明してくれ」
「うん。始まりは……」
凛香は父親の栄一郎にすべてを話した。学校でいじめ……いや「いじめ」なんていう生ぬるいものではない「殺人未遂」に相当する事件が起きた事。
そしてそれを学校側が隠ぺいしようとしている事を、記録した音声を聞かせて説明していた。
「!! そ、そんな事があったとは! 何で黙ってたんだ!?」
「ごめんなさい。もっと早く言っても良かったと思いましたけど、結果的に黙ってたって事にはなっちゃいました」
「これからどうする? お父さんとしてはもう学校は頼りにならないと思うがな」
「うん。もう警察や裁判所なんかにいつでも送れるようにしてるから、そうしようと思う。林太郎を痛めつけた皇帝をかばうなんて幻滅したわ」
「分かった。江梨香お母さんには俺から説明しておくから。凛香ちゃん、ボイスレコーダーを持ってるそうじゃないか。貸してくれないか?」
凛香は黙ってボイスレコーダーを差し出した。
「ありがとう。じゃあお父さんは江梨香お母さんのいる事務所までいるから家で待っててくれないか?」
「わかった。ありがとう」
その後の家族会議で「もう学校は頼りにならない、警察や裁判所に連絡しよう」となった。
「うん、大丈夫。再生はできるわ」
姫は昨日、音声データを姉の凛香のスマホに差さっているマイクロSDカードにコピーしていたのだ。
皇帝が事件を起こした翌日の朝7時半……校長室に校長先生と教頭先生、それに皇帝のクラスの担任教師が険しい顔をして、凛香をにらむように見ていた。
「本日は朝早くからお集りいただき、ありがとうございます。こうしてお時間を割いてでも集まっていただいたのは、お聞かせしたいものがあるからです。こちらを……」
そう言って凛香は持参したスマホを取り出し、音声を再生した。
『もう止めてよ! それ以上やったら本当に林太郎が死んじゃう!』
『別に構わないさ『オレ達が見ている前で林太郎がオレのスタンガンを奪って自分に向けて使ったり、レンチに自分から頭をぶつけて自殺した』って言えば良いし、
万一それが通じなくてもオレ達は無敵の未成年だから問題ねえだろ? こんな不良なんていうカスなんて死んだって誤差の範囲内だろ?
っていうかそもそもオレは中学で人殺してるんだぞ。今更死んだ人間の数が増えたところでどうってことねえよ』
『か、皇帝、アンタ正気なの!?』
『もちろんだとも』
スマホからは彼女の悲痛の叫びと皇帝の耳を覆いたくなるような犯罪自慢と言える発言が記録されていた。
「……これをPTAや市や県の教育委員会、弁護士、警察、裁判所、それに皇帝の両親が勤めている会社や彼らの親戚、文部科学省、並びに新聞社やテレビ局、ネットニュースサイトの編集部に送付しますけど、構いませんね?」
「凛香! そんなことしたら皇帝君の人生が終わってしまうじゃないか! 何でそんな酷いことが平然と出来るんだ!? 更生の機会を奪うつもりか!?」
「そういうセリフは皇帝に言って下さいよ。何が『オレは中学で人殺してるんだぞ』ですか。そっちの方がよっぽどひどいセリフじゃないですか」
大人側に激しい動揺が走る。こんなのが世間の目にさらされたら、可愛い可愛い皇帝君の人生が終わってしまう!!
それに、教育委員会に天下りして甘い汁をすする将来も無くなってしまう!
その一方で凛香はいたって冷静というかむしろ「冷酷」と言って良い位、淡々と処理をこなすロボットのようで感情は一切なかった。
「凛香! お前は大学に行きたくないのか!? 今時大学を出てない奴なんてゴミクズのカス以下だぞ!? どこも雇ってはくれないぞ!? 退学になったら最終学歴が中卒になるんだぞ!? 分かってるのか!?」
「高校は日本全国に4000校以上もあるそうなので『どうしてもここに通わなくてはならない』理由なんて無いんですよ。退学になっても別の高校に転入すればいいだけの事です。
それに高校に通わなくても高卒認定試験に受かれば大学には行けますので退学にしたければどうぞご自由に」
凛香はそう言ってカードタイプの「生徒証明書」を取り出しテーブルの上にポンと置いた。
「凛香! お前正気か!? どうしてそこまでしてでも皇帝君の人生をメチャクチャにするんだ!?」
「人を殺しかけた事件を起こしておいて『加害者に寄り添え』『被害者にも落ち度がある』とでも言いたいんですか? 義理とはいえ兄が被害に遭ってる私としては到底受け入れられるものではないですね。
あ、そうそう。この会話もしっかりとボイスレコーダーで録音してあります。
皇帝をかばったことも、私に『大学に行きたくないのか? 今時大学を出ない奴などゴミクズのカス以下だ』と脅したこともしかるべき人たちにしっかりとお伝えしますのであしからず」
無情にも程がある、という位の凛香の言葉に先生たちは大いに慌てる。
「や、やめろ! お前本当に退学にされたいのか!?」
「だから言ってるじゃないですか、私を退学にしたければ『どうぞご自由に』って。繰り返しますが私は退学になっても別の高校に転入すればいいだけですし、万一それが出来なくても大学には行けます。
あなた達みたいな犯罪者をかばう共犯者を『先生』と呼びたくありませんし、何かを教わろうという気にもなりません。今回の事件でこの学校の教員たちがどういう人間なのかよく分かりました。
もう2度と関わりたくもありませんし、顔も見たくありません。ではさようなら」
凛香はただ言いたいことを淡々と述べて校長室を出ていった。
「……あーあ、やっちゃった」
全てが終わった凛香から漏れたのはそんな一言だった。他の生徒が登校してくる中、彼女は上履きを靴箱にしまい自宅へと戻っていった。
「ただいま」
「? どうした凛香? 学校はどうした? 忘れ物でもしたのか?」
「お父さん。私、学校を退学になるかもしれない。驚かないで、ワケはちゃんと話すから」
「!! わ、分かった。きちんと聞くからちゃんと説明してくれ」
「うん。始まりは……」
凛香は父親の栄一郎にすべてを話した。学校でいじめ……いや「いじめ」なんていう生ぬるいものではない「殺人未遂」に相当する事件が起きた事。
そしてそれを学校側が隠ぺいしようとしている事を、記録した音声を聞かせて説明していた。
「!! そ、そんな事があったとは! 何で黙ってたんだ!?」
「ごめんなさい。もっと早く言っても良かったと思いましたけど、結果的に黙ってたって事にはなっちゃいました」
「これからどうする? お父さんとしてはもう学校は頼りにならないと思うがな」
「うん。もう警察や裁判所なんかにいつでも送れるようにしてるから、そうしようと思う。林太郎を痛めつけた皇帝をかばうなんて幻滅したわ」
「分かった。江梨香お母さんには俺から説明しておくから。凛香ちゃん、ボイスレコーダーを持ってるそうじゃないか。貸してくれないか?」
凛香は黙ってボイスレコーダーを差し出した。
「ありがとう。じゃあお父さんは江梨香お母さんのいる事務所までいるから家で待っててくれないか?」
「わかった。ありがとう」
その後の家族会議で「もう学校は頼りにならない、警察や裁判所に連絡しよう」となった。
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