ぱっちわーく家族 七菜家 ~クラス1の美少女が妹になりました~

あがつま ゆい

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第2部 恋人になってからのお話

第61話 明の本当の家族

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 あきらの部屋の本棚には少年マンガ雑誌である月刊ゴロゴロコミックやそこに載っているマンガの単行本がずらりと並び、塾で使う教材が申し訳程度に添えられていた。

「明、お前が男であるのにこだわるには何か理由があるんだよな? 出来る範囲で良い。教えてくれないか?
 俺達家族は超能力者じゃないからお前の心の中をのぞく事は出来ないんだ。教えてくれ」
「分かった。話すよ……」

 林太郎りんたろうは明を説得して、本当の両親と生活していた時の事を話してくれた。



◇◇◇



「オギャァ! オギャァ! オギャァ!」
「はいはいおっぱいね、ミツル」

 母親は笑顔で胸を出して、お腹の空いたミツルにおっぱいを与える。その様子をまだ2歳の明はただ指をくわえて見ているだけしかできなかった。

「ママー」
「うっとおしいわね。まとわりつかないで」
「ママ! ママ!」
「うるっさいわね! ミツルが機嫌を損ねたらどうすんのよ!?」
「うう、ううう……うわああああん!!」

 甘えたい盛りの明は母親に邪魔者に扱われて泣いてしまう。

「オギャァ! オギャァ! オギャァ!」
「コラ明! テメェが騒ぐからミツルの機嫌が悪くなったじゃないか!」

 父親が明の頭にゲンコツを落とす。それで余計に明は泣くという悪循環が起きていた。

『男は家を継いでくれるが、女はどうせ嫁に行くから要らない』

 明の本当の両親はそんな「時代錯誤」な考えを両者とも持っていた。そのため彼らにとって初めての子が女の子であると分かると大きく落胆し、出来るだけ男に見えるよう「明」という名前を付けた。
 そして第2子が待望の男の子であることが分かると、本格的な育児放棄と虐待が始まった。

「ゴホッ、ゲホッ。ママ……ママ……」
「明! アンタはお姉ちゃんなんだから風邪くらい気合いで治しなさいよ! こっちはミツルが風邪ひいて大変だっていうのに! ミツル! 大丈夫!? 死んじゃダメよ!」
「ただいま。ミツルの体調はどうだ!?」
「医者に見せたらただの風邪だそうで、薬はもらってるわ」
「分かった。明、飲め。薬を渡したんだぞ? 明日には完治させるんだぞ。そうでないと困る」

 そう言って栄養ドリンクと市販の風邪薬を渡した。これでも明にとっては慈悲深い方である。とりあえず今日は殴られずに済む。明日の朝には治ってないのでまた殴られるのだが。



「やぁだ! 欲しい! 欲しい!」
「ミツル、分かったよ。これはミツルの物だ、でもこれはオレのだ。それでいいな?」
「うん。ちょうだい」

 明の弟であるミツルが乳幼児からもう少し育って自我が目覚め始めていた。ミツルは姉である明からおもちゃを受け取るが……。

「やっぱりそれが欲しいいいい!!」

 5分もしない内に弟のミツルが明のおもちゃが欲しくなってゴネだす。

「ミツル! お前これはオレの物だって言ったじゃないか!」

 怒った明はミツルの頭を殴ると彼はギャン泣きしだす。

「て゛も゛ほ゛し゛い゛ん゛た゛も゛お゛お゛お゛お゛お゛ん゛!!! マ゛マ゛ア゛ア゛ア゛!!!!! ハ゛ハ゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 騒ぎを聞いて姉弟きょうだいの両親が2階から降りてくる。そして父親が明にボディブローを入れた。

「明! お前弟を泣かすとはどういう事だ!? お姉ちゃんなんだから我慢しろ!」
「でも俺のおもちゃだって言ったのに欲しい欲しいって言いだしたから……」
「両方ともミツルの物だ! お前はそんな簡単な事も分からないのか!?」

 父親は気を緩めることなく実の娘に手加減無しの蹴りを叩き込んだ。
 暴力に彩られた生活。ただ女であるというだけで理不尽の全てを一点集中で浴びる日々。それでも明は生きていた。



 変わるきっかけは小学校に通う事になって初の健診がやって来た時だ。

「じゃあ明ちゃん。胸出して」

 明は医者のいう事を聞いて胸を出した。

「!!」

 そこには明らかに暴力を振るわれた跡であるアザがあった。
 特に学校で児童を診察する際「胸出して」とするのは「昔からこういうやり方なので」とか「限られた時間で生徒全員を診察するにはこうでもしないと無理だ」とはぐらかされているが、真の目的は『虐待の早期発見』だ。
 虐待親に向かって「だってアンタらが子供殴ってるかもしれないじゃん。だから胸出して、って言うようにしてるんだよ」なんてとても言えない。

「明は親から虐待されている可能性が極めて高い」という医者からの報告は、小学校内の先生たちや裁判所や警察に即座に共有され、警察や裁判所を介入させることで合意した。



ピンポーン



 その日の朝、通勤や通学前の時間帯。明の自宅に刑事たちがやって来て呼び鈴を鳴らした。

「おはよう、警察だ。児童に対する暴行や傷害の容疑で逮捕状が出ている。これに基づいて今から君たちを逮捕するからね」
「え? 児童虐待? 何のことで……?」
「とぼけても無駄だ。証拠は揃ってるんだ。来なさい!」
「何だ騒がしいなぁ……!? オ、オヤジ!?」
「明! 見るな!」

 まだ幼い明は、警察に捕まり連れていかれ両親を黙ってみる事しかできなかった。
 その後明は施設に預けられ、そして七菜ななな家に引き取られた。



◇◇◇



「そうか……そんな事があったのか」

 林太郎は真剣に彼女の話を聞いていた。

「明は納得してくれるか分からないけど、俺は親との復縁はもう辞めた方が良いと思う」
「……アニキもそんなこと言うのかよ」
「明、お前は『親ガチャでハズレ親を引いた』んだ。でも親ガチャ引き直してこの家に来れたんだろ? それだけでも十分幸運さ。
 俺も父親は良かったけど母親がダメでさぁ。オヤジとカネの件でもめて9歳の俺を見捨てて夜逃げするんだぜ? 復縁はもうあきらめてるよ。どうしようもないさ。
 今の親は当たり親だと思うからそれでいいじゃないか。それとも『本当の親じゃないとどうしてもダメ』っていう何かがあるのか?」
「完全にダメってわけじゃないけど……」
「じゃあ今の親でいいじゃないか」
「……」

 明は答えない。決して不都合があって黙り込んでいるわけでは無いのは分かっていた。

「まぁ12歳かそこらの子供には今すぐ結論出すのは難しいだろうけど、少なくとも俺はお前の事をバカにはしないからな。
 他の姉さんや父さん母さんだってそうだ。ただお前の望んでいるのとはズレているだけで愛情が無いってわけじゃあないぞ」
「子ども扱いするなよアニキ、言っとくけどオレ来年は中学生なんだからな」
「高校生から見たら小学生なんて子供だろーが」
「ったく……アニキ、話聞いてくれてありがとな」
「この程度だったらいくらでも協力するよ。じゃ、お休み」

 林太郎は明の部屋を出た。
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