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第2部 恋人になってからのお話
第56話 おうちデート
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「……デート、なんだよなぁ?」
「うんそうだよ。デートだよ、お兄ちゃん」
凛香はニコニコしていたが、林太郎はあきれた顔をしていた。
今回のデートは「おうちデート」なのだが、林太郎と凛香は兄妹。つまりは「おうちデート」と言えば聞こえはいいかもしれんが、要は自宅だ。
見飽きるにも程があるであろう場所でデートなんて……兄は乗り気ではない。
「こんな見飽きた俺の部屋なんかで満足なのかぁ? もう少し別の場所でもいいと思うんだが……その辺の公園じゃダメか?」
「ちょっと今月頭に交際費で映画やお店に行ったから、出費結構きつくて抑えなきゃいけないし……それにたまにはこういうのもいいかな? って」
相変わらず凛香は林太郎のそばにいるだけで嬉しそうだ。クラスメートが目撃してたら「砂糖を吐く」に違いない。
凛香が本棚に目を向けると「ボクシングマガジン The ビート」という雑誌が目についた。発行された年や月はバラバラで、歯抜け状態だった。
開いてみると、プロボクサーのインタビュー記事や彼の活躍の軌跡をたどった特集記事が組まれていた。
「そいつはボクシングに関わる雑誌さ。正規の手段だと手に入れるには年間購読しか無くて、オークションでバラで出品しているのを落札するのがせいぜいだけどな。
さすがに1万円以上の大金をまとめて出すのは難しくてさぁ、中々手に入らないんだよ」
「あーわかるそれ。1万円なんて大金だから中々貯まらないっての凄く分かる。つい使っちゃうよね?」
高校生たるもの、常にカネが無いのが相場。満足にソシャゲも出来なければマンガや雑誌を買う事も出来ない。
以前、パパ活をする女子高生が「月10万円無ければ満足に生活できないからパパ活せざるを得ない」という発言が出たのもそういう理由だ。
『高校生のくせに年120万円のお小遣いなんてもらいすぎだ』と即座に大人達からツッコミが入ったのだが。
「あ、そうそう。お兄ちゃんはTokTikやってる? どんな動画見てるか見せてちょうだい。私も見せるから」
「あーそれか。別にいいけどお前にとってはつまらんと思うぞ?」
動画の閲覧履歴をAIが見て、最適な動画を選んでくれるSNSなので、見る人によって動画の内容が全く違うSNSになると言われている。それの見せあいだ。
林太郎のスマホにはボクシングの試合に出場している選手の動きを解説する動画が映っていた。
「ここで猪上直人はジャブを打ち、相手との距離を測る。そして相手が後ろに下がるのを見て、一気に前に出る。
左のボディジャブを打って相手の意識を下に向けさせた後で、本命である頭への右ストレートを当てる。これはクリーンヒット、でも相手は耐えている。
すかさず相手はカウンターの右ストレートを打ってくるが、猪上はそれをよく見て反応していてスウェーで避けている」
試合の中のワンシーン、ほんの2~3秒の出来事で何が起きたのかをスロー映像で詳しく解説していた。
「へぇ~、こんな動画もあるんだ。私のはこんな感じなんだけどな」
一方、凛香のスマホにはアプリ内で流行している音楽に合わせたダンス動画が映っていた。
林太郎のものとは大違いで、まさに「別のSNS」と言っても言い過ぎではない位違っていた。
「へぇ、こんなのが流行ってるんだ。投稿したりしてるのか?」
「うん。昼休みに廊下で撮ってたりしてるんだ」
そう言えば1学期の頃、凛香は廊下で何かやってたのをふと思い出した。スマホを手に入れてからは特にそうだったから、投稿用の動画を撮影していたのだろう。
「動画撮るの楽しいか?」
「うん、凄く楽しい。PVも結構取れてるんだ。見てみる?」
凛香はそう言って撮った動画の詳細を見せてくれた。
「へー、一番多くて3万回再生程度か。3万回再生だと確か、結構見られてる方だとは聞いてるけど」
「うん。バズってるって程じゃないけどそれなりに見られてる方には入るかな。お兄ちゃんは?」
「俺は動画を見る専門で投稿はしてないなぁ。凛香みたいな美少女ならともかく、俺みたいな不良が出て来る動画なんて見たってつまらないだろ?」
「へっへー。私の事美少女だって見てめてくれてるんだー」
「あ、ああ。そりゃあ母親が元モデルだったんだから美少女なのは確かだろ?」
「ふふっ。アリガトね、お兄ちゃん」
そう言って林太郎の頬にキスをした。
林太郎の顔がみるみる赤くなっていく。
「あら? お兄ちゃんってばこういうのは慣れてないのね」
「……するなとは言わないけど、誰もいない所でしてくれよ。こういうキャラじゃねえからな俺は」
林太郎と凛香は恋人同士で語りあっていたが……それを見ている者がいた。
「うーむ……今の所お兄たんに付け入るスキは無いね。凛香姉たん、敵ながらも鉄壁の守りは見事だわ」
「兄くんと凛香姉さんの愛のオーラが凄まじすぎる。乙女ゲーでもこんな熱い展開になるのは珍しいなぁ」
「ハァーア。なんでオレまで凛姉とアニキが付き合ってる所を見なきゃいけねえんだ? 姫姉も霧姉も余計な事しやがって……」
「明、アンタは女っ気がこれっぽちも無いからこういう所で成分を摂取しないとイモ臭いままで一生終わるわよ? マサル君とも全然進展がないじゃない」
「姫姉、マサルなんてただの友達だろ? 進展とかわけわかんねぇ。それに何だよその成分ってのは? 何の栄養素だよ」
幸い、見られていることは気づいていなかったという。
「うんそうだよ。デートだよ、お兄ちゃん」
凛香はニコニコしていたが、林太郎はあきれた顔をしていた。
今回のデートは「おうちデート」なのだが、林太郎と凛香は兄妹。つまりは「おうちデート」と言えば聞こえはいいかもしれんが、要は自宅だ。
見飽きるにも程があるであろう場所でデートなんて……兄は乗り気ではない。
「こんな見飽きた俺の部屋なんかで満足なのかぁ? もう少し別の場所でもいいと思うんだが……その辺の公園じゃダメか?」
「ちょっと今月頭に交際費で映画やお店に行ったから、出費結構きつくて抑えなきゃいけないし……それにたまにはこういうのもいいかな? って」
相変わらず凛香は林太郎のそばにいるだけで嬉しそうだ。クラスメートが目撃してたら「砂糖を吐く」に違いない。
凛香が本棚に目を向けると「ボクシングマガジン The ビート」という雑誌が目についた。発行された年や月はバラバラで、歯抜け状態だった。
開いてみると、プロボクサーのインタビュー記事や彼の活躍の軌跡をたどった特集記事が組まれていた。
「そいつはボクシングに関わる雑誌さ。正規の手段だと手に入れるには年間購読しか無くて、オークションでバラで出品しているのを落札するのがせいぜいだけどな。
さすがに1万円以上の大金をまとめて出すのは難しくてさぁ、中々手に入らないんだよ」
「あーわかるそれ。1万円なんて大金だから中々貯まらないっての凄く分かる。つい使っちゃうよね?」
高校生たるもの、常にカネが無いのが相場。満足にソシャゲも出来なければマンガや雑誌を買う事も出来ない。
以前、パパ活をする女子高生が「月10万円無ければ満足に生活できないからパパ活せざるを得ない」という発言が出たのもそういう理由だ。
『高校生のくせに年120万円のお小遣いなんてもらいすぎだ』と即座に大人達からツッコミが入ったのだが。
「あ、そうそう。お兄ちゃんはTokTikやってる? どんな動画見てるか見せてちょうだい。私も見せるから」
「あーそれか。別にいいけどお前にとってはつまらんと思うぞ?」
動画の閲覧履歴をAIが見て、最適な動画を選んでくれるSNSなので、見る人によって動画の内容が全く違うSNSになると言われている。それの見せあいだ。
林太郎のスマホにはボクシングの試合に出場している選手の動きを解説する動画が映っていた。
「ここで猪上直人はジャブを打ち、相手との距離を測る。そして相手が後ろに下がるのを見て、一気に前に出る。
左のボディジャブを打って相手の意識を下に向けさせた後で、本命である頭への右ストレートを当てる。これはクリーンヒット、でも相手は耐えている。
すかさず相手はカウンターの右ストレートを打ってくるが、猪上はそれをよく見て反応していてスウェーで避けている」
試合の中のワンシーン、ほんの2~3秒の出来事で何が起きたのかをスロー映像で詳しく解説していた。
「へぇ~、こんな動画もあるんだ。私のはこんな感じなんだけどな」
一方、凛香のスマホにはアプリ内で流行している音楽に合わせたダンス動画が映っていた。
林太郎のものとは大違いで、まさに「別のSNS」と言っても言い過ぎではない位違っていた。
「へぇ、こんなのが流行ってるんだ。投稿したりしてるのか?」
「うん。昼休みに廊下で撮ってたりしてるんだ」
そう言えば1学期の頃、凛香は廊下で何かやってたのをふと思い出した。スマホを手に入れてからは特にそうだったから、投稿用の動画を撮影していたのだろう。
「動画撮るの楽しいか?」
「うん、凄く楽しい。PVも結構取れてるんだ。見てみる?」
凛香はそう言って撮った動画の詳細を見せてくれた。
「へー、一番多くて3万回再生程度か。3万回再生だと確か、結構見られてる方だとは聞いてるけど」
「うん。バズってるって程じゃないけどそれなりに見られてる方には入るかな。お兄ちゃんは?」
「俺は動画を見る専門で投稿はしてないなぁ。凛香みたいな美少女ならともかく、俺みたいな不良が出て来る動画なんて見たってつまらないだろ?」
「へっへー。私の事美少女だって見てめてくれてるんだー」
「あ、ああ。そりゃあ母親が元モデルだったんだから美少女なのは確かだろ?」
「ふふっ。アリガトね、お兄ちゃん」
そう言って林太郎の頬にキスをした。
林太郎の顔がみるみる赤くなっていく。
「あら? お兄ちゃんってばこういうのは慣れてないのね」
「……するなとは言わないけど、誰もいない所でしてくれよ。こういうキャラじゃねえからな俺は」
林太郎と凛香は恋人同士で語りあっていたが……それを見ている者がいた。
「うーむ……今の所お兄たんに付け入るスキは無いね。凛香姉たん、敵ながらも鉄壁の守りは見事だわ」
「兄くんと凛香姉さんの愛のオーラが凄まじすぎる。乙女ゲーでもこんな熱い展開になるのは珍しいなぁ」
「ハァーア。なんでオレまで凛姉とアニキが付き合ってる所を見なきゃいけねえんだ? 姫姉も霧姉も余計な事しやがって……」
「明、アンタは女っ気がこれっぽちも無いからこういう所で成分を摂取しないとイモ臭いままで一生終わるわよ? マサル君とも全然進展がないじゃない」
「姫姉、マサルなんてただの友達だろ? 進展とかわけわかんねぇ。それに何だよその成分ってのは? 何の栄養素だよ」
幸い、見られていることは気づいていなかったという。
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