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第2部 恋人になってからのお話

第54話 文化祭の練習

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 林太郎りんたろうのクラスは文化祭の出し物はピザ屋で決まり、その後2回目の話し合いで具材の仕入れ先と当日の人員配置が決まってから2日後の日曜日。
 朝6時だというのに既に動きやすい服装に着替えていた林太郎のクラスの教師は、倉庫と化しているガレージの中をあさっていた。
 作業を開始してからしばし、それを見つける。

「おお、あったあった」

 昔担当していた、今とは別のクラスが文化祭で使っていた小型の冷凍庫を掘り出したのだ。
 今では冷凍したピザ生地をWEBで注文できるようなのでそれを保存しておくためにまた使おうと思い、掘り出したのだ。
 ホコリをていねいに拭いて、正常に動くか通電して確認する。

「よし、問題なし。だな」
「あなた。何やってるの?」

 3歳年下である彼の妻が、夫がこんな朝早くから何をやっているのか? 大体予想はついていたが彼の様子を見に来たのだ。

「ああ。そろそろ文化祭だからな」
「あなたってば生徒以上に張り切っちゃって。まぁそんな事だろうとは思ってたけど」

 昔から文化祭だけはやたらと好きだった夫のやる事だ。そんなところだろうとは思っていた。



 午前8時の日曜日。外に出れば秋晴れの青い空が広がる中、高校の調理室に文化祭当日は調理場担当になる1年1組の生徒たちが集まっていた。林太郎をはじめとした不良集団も全員その中に入っている。

「よーし! まずは日曜だというのに集まってくれて本当にありがとう! 今からピザを焼く練習をする!」

 やたらとハイテンションで調理室にいるメンツの中では一番気合いが入っている先生に呆れながらも、日曜日だというのにわざわざ集まったのはピザ焼きの練習のためだ。

「ハァーア。岡田の奴ってばやたらと気合入ってるよな。仕切りやがって」

 ある意味文化祭をクラス内で、いや学校内で1番楽しみにしているのはコイツではないか? そんな『岡田先生』に引っ張られる感じで練習が始まった。

「マルゲリータピザ1枚、オーダー!」

 注文が来たと想定して練習を始める。
 今回はクーラーボックスに入っているが本番では先生が持ってくる冷凍庫に保管する事になっている、冷凍のピザ生地を調理室にあった電子レンジで解凍し、
 チーズや具材を乗せて本番では2台体制で行くところを今回は1台だけ持ってきた電気オーブンに入れて焼く。

「よし、測定を開始してくれ」

 今回の練習の大きな目的の1つは「誰でも確実に焦がすことなくピザを焼ける」時間の計測をする事だ。
 オーブンにピザを入れると、スマホのストップウォッチ機能を使って測定を開始する。



── 5分後 ──



「「「おおーっ!」」」

 オーブンを開けるとモッツァレラチーズとトマト、それにバジルの良い香りがしてくる。見た目も適度に焼目が付く上出来な焼き上がりで、その様子に生徒一同声をあげる。

「ふむ……大体5分だな。マルゲリータは5分で焼きあがるようだな。では今度はベーコンとソーセージのピザだ。焼いてみてくれ」

 順番が来た林太郎はベーコンとソーセージにチーズ、それにトマトソースをトッピングしたピザ生地をオーブンに入れて焼き始めた。
 これもおよそ5分で焼けたベーコンとソーセージの匂いが香ばしい美味しいピザとなった。

「おお! 美味えぞ!」
「スゲェ! ちゃんとしたピザになってる!」

 出来たピザは試食という形で生徒達が食べるが、これが美味い。本格的なピザ屋の物に比べたらさすがに見劣りするが、学生が手作りした物としてはかなりの上玉だ。
 調理担当メンバーが一巡するまでピザ焼きは続いた。そして……。

「よーし! これでみんなピザ焼きの基本はつかめたな! あとは本番で上手くやってくれ! 以上、解散!」

 調理担当メンバーが無事ピザ焼き体験を出来たところで今回は解散となった。



「しっかしまぁ『岡ちゃん』と来たら随分とまぁ張り切っちゃってるよなぁ」
「ホントだよ。あのテンションの高さはどこから来るんだか……俺らみたいな不良ヤンキーでもあそこまではしゃぐ奴はいないぜ?」

 林太郎とその不良仲間は、自分達生徒以上に文化祭を楽しみにしていると言っても過言ではない、クラスの担任教師である岡田先生との温度差を感じていた。
 先輩から彼に関する話は聞いてはいたがここまでとは……。

「文化祭、上手くやろうぜ」
「ああ、そうだな。岡田の奴抜きに楽しもうぜ」
「だな」

 まぁ岡田みたいな奴はこういう文化祭といったイベントでしか輝けない人種なんだろう。クラスを引っ張ってくれるのはありがたい、と思うようにしたという。
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