ぱっちわーく家族 七菜家 ~クラス1の美少女が妹になりました~

あがつま ゆい

文字の大きさ
上 下
45 / 86
第1部 クラスメートから兄妹を経由して、そして恋人となるお話

第45話 サクラチル ユキフカシ

しおりを挟む
 お互い好きで結婚したのに、恋人よりも距離の近い夫婦になると相手の嫌な所が見えてくる。恋愛小説では良く出てくる話は最初は信じてなかった。でもそれは本当の事だった。
 林太郎りんたろうを「兄」として見ているうちは「強くて頼りになる男らしい兄」で済んでいた。でも「恋人」になるとその強い部分が悪い所で噴出した。

 近くに寄って見ると本人も、彼と仲がいい高校のクラスメートも暴力を振るう事に抵抗がない不良で、共に近寄りがたい何かがあった。
 ボクシング世界王者を目指しているという立派な夢を持っているそうだが、自分にはその応援は出来そうにない。
 例えボクシングというスポーツだと知っていても彼が殴られる所を見るのは苦手というか、もっとはっきり言えば「無理」な話だ。

「月は遠くから眺めるからきれいなんだよ。俺なんて何度アポロになったか分からん」

 どこで読んだかは覚えていないが、そんなセリフがどこかのマンガに書いてあったと思う。本当だな、それ。



◇◇◇



 ゆきが姉のひめと相談した翌日の朝。朝食をとってさあこれから何しよう? という時に、彼女は意を決して思いを伝える事にした。

「兄さん。その、とても……とても大事な話があるんです。聞いてくれませんか?」
「!! あ、ああ。分かった。とりあえず俺の部屋でしようか」

 彼女の瞳からは不安や恐れ、そして決意の3つが混ぜ合わされた感情が読み取れる。どうやら大きな何かをするらしい。林太郎も真剣になって話を聞くことにした。
 林太郎の部屋の机のイスに雪は腰かけ、林太郎はベッドをイス代わりにして座って話を始める。

「兄さん、私は兄さんの事が好きだったんです」
「あ、ああ」

 好き『だった』……? って事は。林太郎は直感で彼女の話の内容が分かった。それでも相手が切り出すまで待つことにした。

「私、家族に男の人が出来るのは初めてで……やっとちゃんとしたお父さんや兄さんが出来るのを知って嬉しかったんです。だから、兄が出来るって凄く期待していたんです」

 雪の告白は続く。



「実際の兄さんは結構男らしいですし、遠くで見ている分には良かったんですけど、恋人になって近くで見ていると苦手な部分が出てきてしまって……。
 兄さんにとってはボクシング世界王者になるのが大きな夢なんだとお聞きしていますが、私としてはそういうスポーツなんだと分かっていても兄さんが殴られるところなんて見たくないんです。
 それに、兄さんの友達の不良も苦手でして見ているとどうしても怖くなってきて、襲ってきたらどうしようって不安で……」
「……」

 林太郎は黙って彼女の話を聞いていた。

「兄さん。私の方から好きだと告白してきたくせに、こんな話を切り出すのはどうかと思いますけど……私たちはもう無理なんだと思います。
 好きでいなきゃ、恋人でいなきゃ、って思えば思う程苦しくなってきてつらいんです。一緒に食べる食事も全然おいしくないですし。
 兄さんに好きって告白したこと、無かったことにしてくれませんか?」

 雪は言うだけの事は言った。後は返事を待つだけ。1分が1時間にも感じるほどの長い長い沈黙の後、林太郎が口を開いた。

「雪、お前もそう思うんだよな。俺も雪を傷つけないように慎重に接してきたけど、俺にとっては雪は「綿で包んでもケガをする」位に繊細で、正直どうしたらいいか迷ってた。俺も雪にはたくさん迷惑をかけてきたよ、悪かったな色々と」
「じゃあ……受け入れてくれるんですね」
「ああ。兄としてはきちんと接するから安心してくれ」
「ありがとうございます、兄さん。こんな女でしたけど色んな思い出をありがとうございました……じゃあね」

 雪はおじぎをして元恋人の部屋を出た。



 別れた直後、雪は姉である姫の部屋へとやって来た。

「姫姉さん……兄さんと別れました」

 生気の感じられない声で彼女は姉に報告してきた。

「分かったわ。ちょっと待ってね」

 姫はそう言って台所に行くと雪のコップを持って部屋に戻ってくる。そして部屋の隅に隠しておいたビール瓶のようなものに入った、これまたビールのような黄金色の液体をコップに注いだ。

「雪、これはお姉ちゃんからのおごりだから遠慮せずに飲みなさい」
「姫姉さん、これもしかしてビールじゃ……」
「大丈夫、これは『こどもビール』って言ってビールに似せたノンアルコール飲料だから。こういう時のための姉さんとっておきの物だから遠慮も何もいらないから飲みなさい。
 あと徹底的にグチりなさい。お姉ちゃんは彼氏はいないけど、グチだけはいくらでも聞いてあげるから」
「うう……姫姉さん……」

 ボロボロと泣きながら雪は涙混じりのこどもビールを飲み始めた。

(今夜プランを決行ね。今ならいけるかも)

 姫は妹のグチを聞きながら、頭の中では今夜決行するプランの最終確認をしていた。今夜こそ、アイツを、落として見せる。って奴だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...