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第1部 クラスメートから兄妹を経由して、そして恋人となるお話
第36話 花火大会
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7月最後の土曜日の夕方を迎えた七菜家にて。
「……遅いなぁ。予定じゃとっくに家を出てる頃だぞ?」
「林太郎、女の着替えに文句を言うような男じゃモテないぞ?」
林太郎父子は玄関前で女性陣を待つこと15分……現代ではスマホがあるから暇はいくらでも潰せるのは幸いだろうか、彼らは待ち続けていた。
「にしてもオヤジと来たらまぁた張り切っちゃってさぁ」
「別にいいだろ。こういう時くらいしかこんな服着ないからな」
林太郎の父親である栄一郎の服は浴衣、足にはこの時しか履かない古式ゆかしいゲタという完全仕様。いつもの私服を適当に着ている林太郎とは大違いだ。
「お待たせ」
父子が待つこと30分……ようやく女たちがやって来たのだが、明以外は全員浴衣を着ていた。おそらくそれへの着替えで時間がかかったのだろう。
「兄さん、お待たせしました。どうですか?」
上機嫌な雪はその場でくるりと回って浴衣姿を林太郎に見せる。金魚の柄が小柄な彼女に合って愛らしい。
「ああ、似合ってるぞ」
「へへー、嬉しいなぁ。凛香姉さんに着させてもらったんだー」
「へぇ~。凛香、お前浴衣の着付けも出来るんだ。すげぇな」
「こういう花火大会があるとみんな浴衣を着たがるから、江梨香お母さんに教えてもらったのよ。着物の着付けも出来るわ、基本は同じだから」
凛香は林太郎のクラスでもしっかりした才女だが、家庭内でもそうらしい。15歳かそこらで着付けが出来るのはかなり少ないだろう。
「明、お前は相変わらず男みたいな服か。たまには浴衣でも着たらどうだ?」
「アニキまでそんな事言うのかよ! 浴衣は着たくないんだって!」
「あー、悪い悪い。そこまで言うなら無理強いはしねえよ」
5人姉妹の中で唯一、明だけは浴衣を着るのをかたくなに拒んでいた。いつもの事だと家族一同軽く流していたのだが。
今日は地元で行われる花火大会があるので、それを七菜家一同そろって見ようとなったのだ。
花火大会、とは言うが隅田川花火大会のようなテレビで放送されるものとは大違いで、玉はおよそ2000発程度とおよそ10分の1。
30分もあれば終わってしまう短さで、観客動員数も1万人を超えれば御の字という小さな規模だ。
打ち上げ開始15分前に七菜家一同は会場入りした。今年は駐車場があっさり見つかったので迷わずに済んだのは幸いだ。
花火が打ち上げられる河川敷に近い場所にある運動公園がメイン会場で、1万人規模とはいえそれだけの人が公園に集まればかなりの人だかりになる。
「明、いる?」
「霧姉、大丈夫。そばにいるから。にしても霧姉は目立つからこういう時便利だよなぁ」
「明、姉を標識代わりに使うのは良くないぞ。ボクも好きでこんな背に育ったわけじゃないからな」
辺りは暗く公園内の街灯の明かりが頼りで、群衆に飲み込まれないように歩いていた。そんな中群衆から頭が一つ抜けている霧亜はこういう時は便利だ。
それに家族全員スマホやキッズケータイを持っているので、万一はぐれても連絡を取り合って合流できる。ケータイやスマホが無い一昔前では考えられない便利さだ。
「……姫、胸を押し付けるのは辞めろ」
こういう時でも姫は何を考えているのやら、林太郎に胸を押し付けてくる。
「えー、だってこんなに混んでちゃ仕方のない事でしょ? それとも兄たんはおっぱい嫌い?」
「バカ言うんじゃねぇ。雪に誤解されたらどうすんだよ?」
「あー、そうか。そうだよねぇ」
渋々彼女は林太郎から離れた。離れる余裕があるくせに胸を押し付けていたって事か。
打ち上げ開始3分前、七菜家一行は少し花火は小さくなるものの人が少ない穴場スポットに到着した。観光客はみんな花火に近づこうとするので、こういう所を知ってるのは地元民ならではだ。
ここ数日は熱帯夜が続くゆえに日没後でも浴衣のような薄着でも無ければまだまだ暑い……だからこそ花火で納涼というわけなのだが。
「もうすぐ始まるぞ」
栄一郎がスマホを見て時間が来るのを伝える。そして……
「おお~」
花火大会開始を告げる1発目、夜空を彩る大輪の花が咲いた。その華々しさに見物客が歓声を上げる。そこから遅れる事2~3秒……。
ドォン!
と花火がはじける音が届く。
それを皮切りに数多の花火が上がり、夏の夜空を鮮やかに彩った。
「綺麗だなぁ~」
雪の瞳に花火の華が映る様は宝石のようにも見えた。家族のだれもが花火に見惚れている中、凛香は雪と林太郎の事を見ていた。その瞬間「声」が聞こえた。
【私じゃないんだ】
「!?」
突然何者かの声が凛香の身体に響く。
(!? だ、誰!?)
彼女は慌てて周りをキョロキョロと見て声の主を探すが、いない……気のせいか。
突如現れた謎の声。それに彼女は翻弄されていくことになる。
「……遅いなぁ。予定じゃとっくに家を出てる頃だぞ?」
「林太郎、女の着替えに文句を言うような男じゃモテないぞ?」
林太郎父子は玄関前で女性陣を待つこと15分……現代ではスマホがあるから暇はいくらでも潰せるのは幸いだろうか、彼らは待ち続けていた。
「にしてもオヤジと来たらまぁた張り切っちゃってさぁ」
「別にいいだろ。こういう時くらいしかこんな服着ないからな」
林太郎の父親である栄一郎の服は浴衣、足にはこの時しか履かない古式ゆかしいゲタという完全仕様。いつもの私服を適当に着ている林太郎とは大違いだ。
「お待たせ」
父子が待つこと30分……ようやく女たちがやって来たのだが、明以外は全員浴衣を着ていた。おそらくそれへの着替えで時間がかかったのだろう。
「兄さん、お待たせしました。どうですか?」
上機嫌な雪はその場でくるりと回って浴衣姿を林太郎に見せる。金魚の柄が小柄な彼女に合って愛らしい。
「ああ、似合ってるぞ」
「へへー、嬉しいなぁ。凛香姉さんに着させてもらったんだー」
「へぇ~。凛香、お前浴衣の着付けも出来るんだ。すげぇな」
「こういう花火大会があるとみんな浴衣を着たがるから、江梨香お母さんに教えてもらったのよ。着物の着付けも出来るわ、基本は同じだから」
凛香は林太郎のクラスでもしっかりした才女だが、家庭内でもそうらしい。15歳かそこらで着付けが出来るのはかなり少ないだろう。
「明、お前は相変わらず男みたいな服か。たまには浴衣でも着たらどうだ?」
「アニキまでそんな事言うのかよ! 浴衣は着たくないんだって!」
「あー、悪い悪い。そこまで言うなら無理強いはしねえよ」
5人姉妹の中で唯一、明だけは浴衣を着るのをかたくなに拒んでいた。いつもの事だと家族一同軽く流していたのだが。
今日は地元で行われる花火大会があるので、それを七菜家一同そろって見ようとなったのだ。
花火大会、とは言うが隅田川花火大会のようなテレビで放送されるものとは大違いで、玉はおよそ2000発程度とおよそ10分の1。
30分もあれば終わってしまう短さで、観客動員数も1万人を超えれば御の字という小さな規模だ。
打ち上げ開始15分前に七菜家一同は会場入りした。今年は駐車場があっさり見つかったので迷わずに済んだのは幸いだ。
花火が打ち上げられる河川敷に近い場所にある運動公園がメイン会場で、1万人規模とはいえそれだけの人が公園に集まればかなりの人だかりになる。
「明、いる?」
「霧姉、大丈夫。そばにいるから。にしても霧姉は目立つからこういう時便利だよなぁ」
「明、姉を標識代わりに使うのは良くないぞ。ボクも好きでこんな背に育ったわけじゃないからな」
辺りは暗く公園内の街灯の明かりが頼りで、群衆に飲み込まれないように歩いていた。そんな中群衆から頭が一つ抜けている霧亜はこういう時は便利だ。
それに家族全員スマホやキッズケータイを持っているので、万一はぐれても連絡を取り合って合流できる。ケータイやスマホが無い一昔前では考えられない便利さだ。
「……姫、胸を押し付けるのは辞めろ」
こういう時でも姫は何を考えているのやら、林太郎に胸を押し付けてくる。
「えー、だってこんなに混んでちゃ仕方のない事でしょ? それとも兄たんはおっぱい嫌い?」
「バカ言うんじゃねぇ。雪に誤解されたらどうすんだよ?」
「あー、そうか。そうだよねぇ」
渋々彼女は林太郎から離れた。離れる余裕があるくせに胸を押し付けていたって事か。
打ち上げ開始3分前、七菜家一行は少し花火は小さくなるものの人が少ない穴場スポットに到着した。観光客はみんな花火に近づこうとするので、こういう所を知ってるのは地元民ならではだ。
ここ数日は熱帯夜が続くゆえに日没後でも浴衣のような薄着でも無ければまだまだ暑い……だからこそ花火で納涼というわけなのだが。
「もうすぐ始まるぞ」
栄一郎がスマホを見て時間が来るのを伝える。そして……
「おお~」
花火大会開始を告げる1発目、夜空を彩る大輪の花が咲いた。その華々しさに見物客が歓声を上げる。そこから遅れる事2~3秒……。
ドォン!
と花火がはじける音が届く。
それを皮切りに数多の花火が上がり、夏の夜空を鮮やかに彩った。
「綺麗だなぁ~」
雪の瞳に花火の華が映る様は宝石のようにも見えた。家族のだれもが花火に見惚れている中、凛香は雪と林太郎の事を見ていた。その瞬間「声」が聞こえた。
【私じゃないんだ】
「!?」
突然何者かの声が凛香の身体に響く。
(!? だ、誰!?)
彼女は慌てて周りをキョロキョロと見て声の主を探すが、いない……気のせいか。
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