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第1部 クラスメートから兄妹を経由して、そして恋人となるお話
第28話 図書館デート
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休日、林太郎と雪は私服を着て電車に揺られていた。
彼は半そでのシャツに長ズボン、彼女はいつも通りの太めの三つ編みに赤い額ふちの眼鏡をかけ、服装は白いブラウスにスカートをはいていて、清楚な感じが出るものだった。
自宅の最寄り駅から電車で揺られる事10分。県庁所在地の名を冠する駅から歩くことさらに10分。目的の場所へとたどり着いた。
「しっかしまぁデートの場所が図書館とはなぁ……いいのか? お前にとっては見慣れた場所だし、映画館でも行った方が良いんじゃねえのか?」
「好きな人と一緒なら公園でただしゃべってるだけでも楽しいものですよ。それに図書館の中は空調も効いてるから快適ですし」
「……さすが本好きなだけあるな。小中で図書委員やってるってのは聞いてるけどどこまでが本当なんだ?」
「あ、それは本当です。今でも金曜日は図書室の管理の手伝いをしていますよ」
『好きな人とならただしゃべってるだけでも楽しい』それを体現するかのように、雪の機嫌は上々だ。自然と笑みがこぼれている。
「……で、わざわざ近くの市立図書館じゃなくて遠い場所にある県立図書館に来たのは何か意味があっての事か?」
「ええ。県立図書館なら兄さん用の雑誌も揃っているんですよ。見てみます?」
「あ、ああ」
雪が選ぶ「林太郎におすすめの雑誌」とは何だろう? 具体的に想像は出来なかったが、それはすぐ明らかになる。
雑誌コーナーの中のスポーツカテゴリーに入っている、とある雑誌だった。
「これです。兄さんにぴったりの雑誌だと思いますよ」
「お! これ「ボクシングマガジン The ビート」じゃないか! しかもバックナンバーがこんなに!」
「その雑誌は確か月刊誌でしたから、2年分のストックがありますよ。兄さんはもしかしたら読んでるかもしれませんけど」
「いや、そうでもないぜ。ネットで見ても定期購入しか無くて、最低でも1年分の雑誌代をまとめて払わなきゃいけないから買えなかったんだよなぁ。
まさかタダで見れるとは思わなかったぜ。たまにバックナンバーが売られてるときもあったけど、なかなか無かったんだよなぁ。雪、お前結構センスあるじゃねえか!」
「へへっ。そう言ってくれると嬉しいなぁ」
プロボクサーを目指しているという兄なら喜んでくれるだろうと思うボクシング雑誌。それが県立図書館にあるのを父親の栄一郎に頼んで調べてもらったのだ。
結果は大成功。気に入ってくれたみたいだ。赤い額ふちの眼鏡を直しながら彼女はやってよかったと安堵した。
林太郎はボクシング雑誌4冊を持って読書スペースにどっかりと腰を下ろし、読みだした。たまにネット経由で買った雑誌の次号予告で見たかったものを優先的に見ることにした。
「にしても雪、お前俺がこれ読みたかったのによく気が付いたな。どうやって調べたんだ?」
「お父さんから兄さんの関しての話を聞いていましたのでそれで気が付いたんです。ここにコレがあるかどうかも調べてもらったんですよ」
「へぇ。そういやオヤジと仲良いもんな」
なるほど父親経由か、なら納得がいく。オヤジの奴色々しゃべったんだな、とは思うがこういう事につながるのなら悪い気はしない。
林太郎は読みたかった雑誌を時にはぱらぱらとページをめくり、時にはじっくりと熟読する。雪はそんな兄を横から見てニコニコしていた。
「なぁ雪。俺ってあまりおしゃべりとか気の利いた話とか出来なくても大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。本を読んでいる兄さんの横顔を見ているだけでも楽しいですし」
「そういうもんなのか?」
「ええ。本を読んでいるときの横顔に人の感性が出る、って言いますし。私から見たら兄さんの横顔は決まってますよ」
「へぇ、そうか。俺からは自分の横顔なんて鏡でもなきゃ見れないけど信じていいのか?」
「もちろんですとも。私が言うんだから間違いはないですよ、兄さん」
上機嫌の雪を見るに、多分嘘はついていないのだろう。
「そう言えば兄さんはボクシングで世界王座を取るのが夢なんですよね?」
「ああそうだ。雪は何かやりたい事とかあるか?」
「将来は司書になって図書館勤務をするのが夢かなぁ。それか書店に務めておすすめの本を紹介したいなぁ。出来るのなら図書館や書店の中に住みたい位ですよ」
「そこまで言うか。雪らしい話だけどな」
会話自体はぽつぽつとする程度だったが初デートは十分うまくいったと言える成果だった。
「「ただいま」」
林太郎と雪はそろって午後2時ごろに帰宅した。
「……お帰り」
リビングにいた凛香が不満げに2人を出迎える。
「凛香どうした? 妙に機嫌が悪いけど」
「凛香姉さん、どうしたんですか急に?」
2人はやたらと虫の居所が悪い凛香に声をかけるが……。
「別にいいでしょ、私だって機嫌が悪くなることの1つや2つあるでしょ? いつもニコニコしているわけにはいかないの、分かる?」
そう言って全く応じようとしない。彼女はそそくさと自分の部屋へと引っ込んでいった。
「……どうしちゃったんだろう凛香姉さん。あんな風に私の話を聞かないだなんて今までなかったのに」
「俺を毛嫌いすることはあっても雪にもあんな態度を取るのは確かに少しおかしいよなぁ」
2人には自分たちの一体どこに落ち度があったのか、まるで分らなかった。
彼は半そでのシャツに長ズボン、彼女はいつも通りの太めの三つ編みに赤い額ふちの眼鏡をかけ、服装は白いブラウスにスカートをはいていて、清楚な感じが出るものだった。
自宅の最寄り駅から電車で揺られる事10分。県庁所在地の名を冠する駅から歩くことさらに10分。目的の場所へとたどり着いた。
「しっかしまぁデートの場所が図書館とはなぁ……いいのか? お前にとっては見慣れた場所だし、映画館でも行った方が良いんじゃねえのか?」
「好きな人と一緒なら公園でただしゃべってるだけでも楽しいものですよ。それに図書館の中は空調も効いてるから快適ですし」
「……さすが本好きなだけあるな。小中で図書委員やってるってのは聞いてるけどどこまでが本当なんだ?」
「あ、それは本当です。今でも金曜日は図書室の管理の手伝いをしていますよ」
『好きな人とならただしゃべってるだけでも楽しい』それを体現するかのように、雪の機嫌は上々だ。自然と笑みがこぼれている。
「……で、わざわざ近くの市立図書館じゃなくて遠い場所にある県立図書館に来たのは何か意味があっての事か?」
「ええ。県立図書館なら兄さん用の雑誌も揃っているんですよ。見てみます?」
「あ、ああ」
雪が選ぶ「林太郎におすすめの雑誌」とは何だろう? 具体的に想像は出来なかったが、それはすぐ明らかになる。
雑誌コーナーの中のスポーツカテゴリーに入っている、とある雑誌だった。
「これです。兄さんにぴったりの雑誌だと思いますよ」
「お! これ「ボクシングマガジン The ビート」じゃないか! しかもバックナンバーがこんなに!」
「その雑誌は確か月刊誌でしたから、2年分のストックがありますよ。兄さんはもしかしたら読んでるかもしれませんけど」
「いや、そうでもないぜ。ネットで見ても定期購入しか無くて、最低でも1年分の雑誌代をまとめて払わなきゃいけないから買えなかったんだよなぁ。
まさかタダで見れるとは思わなかったぜ。たまにバックナンバーが売られてるときもあったけど、なかなか無かったんだよなぁ。雪、お前結構センスあるじゃねえか!」
「へへっ。そう言ってくれると嬉しいなぁ」
プロボクサーを目指しているという兄なら喜んでくれるだろうと思うボクシング雑誌。それが県立図書館にあるのを父親の栄一郎に頼んで調べてもらったのだ。
結果は大成功。気に入ってくれたみたいだ。赤い額ふちの眼鏡を直しながら彼女はやってよかったと安堵した。
林太郎はボクシング雑誌4冊を持って読書スペースにどっかりと腰を下ろし、読みだした。たまにネット経由で買った雑誌の次号予告で見たかったものを優先的に見ることにした。
「にしても雪、お前俺がこれ読みたかったのによく気が付いたな。どうやって調べたんだ?」
「お父さんから兄さんの関しての話を聞いていましたのでそれで気が付いたんです。ここにコレがあるかどうかも調べてもらったんですよ」
「へぇ。そういやオヤジと仲良いもんな」
なるほど父親経由か、なら納得がいく。オヤジの奴色々しゃべったんだな、とは思うがこういう事につながるのなら悪い気はしない。
林太郎は読みたかった雑誌を時にはぱらぱらとページをめくり、時にはじっくりと熟読する。雪はそんな兄を横から見てニコニコしていた。
「なぁ雪。俺ってあまりおしゃべりとか気の利いた話とか出来なくても大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。本を読んでいる兄さんの横顔を見ているだけでも楽しいですし」
「そういうもんなのか?」
「ええ。本を読んでいるときの横顔に人の感性が出る、って言いますし。私から見たら兄さんの横顔は決まってますよ」
「へぇ、そうか。俺からは自分の横顔なんて鏡でもなきゃ見れないけど信じていいのか?」
「もちろんですとも。私が言うんだから間違いはないですよ、兄さん」
上機嫌の雪を見るに、多分嘘はついていないのだろう。
「そう言えば兄さんはボクシングで世界王座を取るのが夢なんですよね?」
「ああそうだ。雪は何かやりたい事とかあるか?」
「将来は司書になって図書館勤務をするのが夢かなぁ。それか書店に務めておすすめの本を紹介したいなぁ。出来るのなら図書館や書店の中に住みたい位ですよ」
「そこまで言うか。雪らしい話だけどな」
会話自体はぽつぽつとする程度だったが初デートは十分うまくいったと言える成果だった。
「「ただいま」」
林太郎と雪はそろって午後2時ごろに帰宅した。
「……お帰り」
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「凛香どうした? 妙に機嫌が悪いけど」
「凛香姉さん、どうしたんですか急に?」
2人はやたらと虫の居所が悪い凛香に声をかけるが……。
「別にいいでしょ、私だって機嫌が悪くなることの1つや2つあるでしょ? いつもニコニコしているわけにはいかないの、分かる?」
そう言って全く応じようとしない。彼女はそそくさと自分の部屋へと引っ込んでいった。
「……どうしちゃったんだろう凛香姉さん。あんな風に私の話を聞かないだなんて今までなかったのに」
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