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第1部 クラスメートから兄妹を経由して、そして恋人となるお話
第26話 弟子入り
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「お父さん、ご相談したいことがあります」
姫が部活から帰って来て、夕食を取った後……彼女は義父である栄一郎に話を持ち掛ける。その内容は……
「トレードについて教えて欲しい。だと?」
「うん。お父さんが株で生活費を稼いでいるって聞いて私も調べたんですけど、数字のやり取りがお金になるってゲームみたいで興味が出てしまって、
どうしたらいいのかプロに聞いた方が早いかなと思いまして。出来る範囲で構わないので教えてくれませんか?」
「……」
栄一郎はふぅっ。と息を吐き、しばらく黙って熟考する。そして口を開いた。
「良いだろう。じゃあまず覚えてもらいたいのは、株をはじめとしたトレードの世界というのは『99%の人は負ける』という事だ。なぜだか分かるか?」
出てきたのは姫に対する問いかけだった。彼女はしばらく考えて答えを紡ぐ。
「えっと……俗にいう「コツコツドカン」って奴で最後に大きく負けるから。だと思うのですがあってますか?」
「ふむ。独学とはいえそこまで分かるのならなかなか優秀な部類に入るな。大体はあってる。正確には『勝とうとするから』負けるんだ」
「?? 『勝とうとして』負ける? って事はトレードは勝とうと思っちゃいけないんですか?」
「ああそうだ。今は分からないだろうけど、とりあえず「勝とうとすると負ける」というのを覚えてくれればいい。
勝とうとするのは競馬だと俗に『オッズが走る』っていう奴だし、パチンコでは『最後にでっかく勝てればチャラだ』という奴だ。
99%の人間は結局最後に勝つことが出来ずに、ズルズルとカネを吐き出し続けることになるんだ。ところで、なぜ99%の人は1%の勝てる人間になれないか、分かるか?」
再び栄一郎は娘に問う。
「え……? い、いや何でって言われても……う~ん、勝ち方が分からないから、なのかな?」
姫が苦し紛れの答えを出すと、父親は人差し指で彼女の頭をコツン、と叩いた。
「ここを使っていないからだ」
「え!? じゃ、じゃあみんな何も考えずにトレードしてるって事になっちゃうんですけど!?」
「その通りだ。99%の負ける人間は『トレードをする際に何も考えていない』んだ。何も考えずにトレードをするのは、目隠しをして耳栓をつけた状態で車を運転するようなものだよ」
「でも株価に関する情報を集めたり市場を見たりして頭使ってると思いますけど……」
「そんなのは頭を使っているうちには入らない。もっと収支にダイレクトに響く肝心な部分では99%の人間は何も考えずに取引をしているんだ」
姫にとっては意味が分からなかった。頭を使わずに、何も考えずにトレードをしている? じゃあ何のために? 答えは出ない。
「姫ちゃん、どうだい? なぜ99%の人間は何も考えずにトレードをしているか、分かるかい?」
「いえ……分かりません」
「そうか、じゃあこれは宿題だな。これの答えが出たらいつでも声をかけてくれ。自分なりの答えが出たら続きを教えてあげるよ。待ってるぞ」
今日の授業は、それでおしまいだった。彼女は早速自室にこもり、宿題を始めた。
ダダダダダダダダ……
ガチガチガチガチガチ……
姫は自分の部屋にあるパソコンのキーボードを高速で叩き、マウスをガチガチと連打する音が部屋に響く。トレードは思ったよりも難しそうなものだったが、それだけ奥深い何かがある。
少なくとも姫のオタク心に火が付くほどには魅力的な何かを持っていた。調べ事をしていてテンションが上がってノッてきたところで、横やりが入る。
「姫、もう10時よ? 夜更かしは体に毒よ? それにアンタ風呂も入って無いんでしょ?」
凛香が10時を過ぎても明かりがついている彼女の部屋を見て、確認のため開けてみると大当たり。風呂にも入らず調べ事に没頭していた姫がいたのだ。
「!? え!? もうそんな時間!? 早すぎない?」
姫はベッドにある目覚まし時計を見るが、姉の言う通りいつの間にか午後10時になっていた。
「もうみんなお風呂入ったから沸かしなおして入ってね」
「……はーい」
さすがに風呂に入らなかったり睡眠時間を削るのはまずい……今日の調べ事は終わりだ。彼女はパジャマを持って風呂場へと向かった。
「……ふぅっ」
沸かしなおしてぬるくも無い適温のお湯だが、みんなが入った後からなのかどことなく汗くさい浴槽に姫は身を沈める。
それにしてもトレードというのは奥が深そうだ。マンガやアニメ、ゲーム並みにハマると抜け出せなくなる沼の要素がある、とオタクの直感が告げていた。
明日の調べ事の続きが楽しみだ。そう言えば明日が楽しみだなんて小学校の遠足以来だな。とも思っていた。
翌日の午後9時半、彼女は答えを持って義理の父親の所へとやって来た。
「姫ちゃんか。答えは出たようだな?」
「はい。99%の人が負ける理由、それは『感情でトレードしている』からだと思います。
勝つと嬉しい、負けると悔しい。そして勝つと調子に乗って負けるまでトレードを続けてしまう。だから負けるのだと思います。
パチンコで勝っても勝った額以上のお金を吐き出してしまうのと一緒なんだと思います」
娘の答えに栄一郎は大きくうなづいた。
「そこまで分かるのなら十分だ。良いだろう、これからはトレードについて教えよう。
ただ、これは父さんがやっている手法で姫ちゃんにそのまま使えるとは限らない。っていうのは忘れないで欲しい。
まぁ完全に独学でやるよりは、はるかに近道できるのは確実だろうがな」
「分かりました。よろしくお願いします師匠!」
「ハハッ。そんなこと言わずに今まで通り父さんと呼んでくれ」
5年後、姫はトレーダーとして完全に自立するまでに成長し「20歳のプロトレーダー」として本まで出してしまうのだが、これがその始まりだった。
姫が部活から帰って来て、夕食を取った後……彼女は義父である栄一郎に話を持ち掛ける。その内容は……
「トレードについて教えて欲しい。だと?」
「うん。お父さんが株で生活費を稼いでいるって聞いて私も調べたんですけど、数字のやり取りがお金になるってゲームみたいで興味が出てしまって、
どうしたらいいのかプロに聞いた方が早いかなと思いまして。出来る範囲で構わないので教えてくれませんか?」
「……」
栄一郎はふぅっ。と息を吐き、しばらく黙って熟考する。そして口を開いた。
「良いだろう。じゃあまず覚えてもらいたいのは、株をはじめとしたトレードの世界というのは『99%の人は負ける』という事だ。なぜだか分かるか?」
出てきたのは姫に対する問いかけだった。彼女はしばらく考えて答えを紡ぐ。
「えっと……俗にいう「コツコツドカン」って奴で最後に大きく負けるから。だと思うのですがあってますか?」
「ふむ。独学とはいえそこまで分かるのならなかなか優秀な部類に入るな。大体はあってる。正確には『勝とうとするから』負けるんだ」
「?? 『勝とうとして』負ける? って事はトレードは勝とうと思っちゃいけないんですか?」
「ああそうだ。今は分からないだろうけど、とりあえず「勝とうとすると負ける」というのを覚えてくれればいい。
勝とうとするのは競馬だと俗に『オッズが走る』っていう奴だし、パチンコでは『最後にでっかく勝てればチャラだ』という奴だ。
99%の人間は結局最後に勝つことが出来ずに、ズルズルとカネを吐き出し続けることになるんだ。ところで、なぜ99%の人は1%の勝てる人間になれないか、分かるか?」
再び栄一郎は娘に問う。
「え……? い、いや何でって言われても……う~ん、勝ち方が分からないから、なのかな?」
姫が苦し紛れの答えを出すと、父親は人差し指で彼女の頭をコツン、と叩いた。
「ここを使っていないからだ」
「え!? じゃ、じゃあみんな何も考えずにトレードしてるって事になっちゃうんですけど!?」
「その通りだ。99%の負ける人間は『トレードをする際に何も考えていない』んだ。何も考えずにトレードをするのは、目隠しをして耳栓をつけた状態で車を運転するようなものだよ」
「でも株価に関する情報を集めたり市場を見たりして頭使ってると思いますけど……」
「そんなのは頭を使っているうちには入らない。もっと収支にダイレクトに響く肝心な部分では99%の人間は何も考えずに取引をしているんだ」
姫にとっては意味が分からなかった。頭を使わずに、何も考えずにトレードをしている? じゃあ何のために? 答えは出ない。
「姫ちゃん、どうだい? なぜ99%の人間は何も考えずにトレードをしているか、分かるかい?」
「いえ……分かりません」
「そうか、じゃあこれは宿題だな。これの答えが出たらいつでも声をかけてくれ。自分なりの答えが出たら続きを教えてあげるよ。待ってるぞ」
今日の授業は、それでおしまいだった。彼女は早速自室にこもり、宿題を始めた。
ダダダダダダダダ……
ガチガチガチガチガチ……
姫は自分の部屋にあるパソコンのキーボードを高速で叩き、マウスをガチガチと連打する音が部屋に響く。トレードは思ったよりも難しそうなものだったが、それだけ奥深い何かがある。
少なくとも姫のオタク心に火が付くほどには魅力的な何かを持っていた。調べ事をしていてテンションが上がってノッてきたところで、横やりが入る。
「姫、もう10時よ? 夜更かしは体に毒よ? それにアンタ風呂も入って無いんでしょ?」
凛香が10時を過ぎても明かりがついている彼女の部屋を見て、確認のため開けてみると大当たり。風呂にも入らず調べ事に没頭していた姫がいたのだ。
「!? え!? もうそんな時間!? 早すぎない?」
姫はベッドにある目覚まし時計を見るが、姉の言う通りいつの間にか午後10時になっていた。
「もうみんなお風呂入ったから沸かしなおして入ってね」
「……はーい」
さすがに風呂に入らなかったり睡眠時間を削るのはまずい……今日の調べ事は終わりだ。彼女はパジャマを持って風呂場へと向かった。
「……ふぅっ」
沸かしなおしてぬるくも無い適温のお湯だが、みんなが入った後からなのかどことなく汗くさい浴槽に姫は身を沈める。
それにしてもトレードというのは奥が深そうだ。マンガやアニメ、ゲーム並みにハマると抜け出せなくなる沼の要素がある、とオタクの直感が告げていた。
明日の調べ事の続きが楽しみだ。そう言えば明日が楽しみだなんて小学校の遠足以来だな。とも思っていた。
翌日の午後9時半、彼女は答えを持って義理の父親の所へとやって来た。
「姫ちゃんか。答えは出たようだな?」
「はい。99%の人が負ける理由、それは『感情でトレードしている』からだと思います。
勝つと嬉しい、負けると悔しい。そして勝つと調子に乗って負けるまでトレードを続けてしまう。だから負けるのだと思います。
パチンコで勝っても勝った額以上のお金を吐き出してしまうのと一緒なんだと思います」
娘の答えに栄一郎は大きくうなづいた。
「そこまで分かるのなら十分だ。良いだろう、これからはトレードについて教えよう。
ただ、これは父さんがやっている手法で姫ちゃんにそのまま使えるとは限らない。っていうのは忘れないで欲しい。
まぁ完全に独学でやるよりは、はるかに近道できるのは確実だろうがな」
「分かりました。よろしくお願いします師匠!」
「ハハッ。そんなこと言わずに今まで通り父さんと呼んでくれ」
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