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第1部 クラスメートから兄妹を経由して、そして恋人となるお話
第20話 茶色い弁当とプリン
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「林太郎、たまには弁当ぐらい自力で作ったら?」
「え? 俺が?」
夕食後、林太郎は凛香から「弁当くらい自作しろ」と言われる。
「お母さんはアンタのために学校のある日は毎日弁当作ってるんだよ? 少しは負担を減らしてあげても良いと思うんだけど」
「ふーむ……そうだな、お前の言うとおりだな。でも俺、料理はほとんど出来ないぜ?」
林太郎はそう返す。ただでさえ8人分の朝食の準備に追われている母親だ。少しくらい手伝っても良いとは思っていた……料理が出来ない。という根本的な部分があったのだが。
「それは大丈夫。最近のお弁当の具材は冷凍食品になってて、それを詰めるだけでも十分弁当になるんだから。私の弁当もそうで、毎日自分で作ってるんだから」
「へぇーそうなんだ。便利になったもんだなぁ」
そう言いながら彼は冷凍庫を開けて、中から良さそうなものをピックアップする。
まず鳥の唐揚げを4つ、弁当に入れる。次いでミニとんかつを4切れ。余ったスペースはひじき煮を申し訳程度に添えて出来上がりだ。
「よし出来た。後は冷蔵庫に入れときゃいいんだよな?」
「うん。後は学校行くとき忘れなければ大丈夫よ」
翌日……林太郎と凛香の通う高校で昼休みになった時だった。
「林太郎。アンタどんな弁当作ったの? 見せてちょうだい」
凛香が兄の弁当箱をのぞくと……その中身に落胆する。
「げ……茶色ばっかり。色どりとか関係ないわけ?」
「美味い物だけを選りすぐったらこうなったんだ」
「……ハァ。これだから男はやだわ」
色どりとか栄養面がこれっぽちも考えられていない、凛香だったら何があっても絶対作らないであろう弁当だった。
学校が終わり、自宅へと帰って来た林太郎は台所へとやってくる。
七菜家の台所には冷蔵庫が2台ある。1つは昔からこの家で使っていたもので、もう一つは林太郎とその父栄一郎が使っていたものを持ち込んだのだ。
七菜家の冷蔵庫は6人家族の食料を保管するので手いっぱいだったため、林太郎親子の冷蔵庫も使って何とか保存していたのだ。
「あれ? 母さんこのプリン誰かが買ってきたのか?」
冷蔵庫に入ってた昨日まではなかったカボチャプリンを見て確認を取る。5人の妹がいるとなると彼女らが買ってきたものを冷蔵庫に入れている場合も多い。
それを間違って食べてしまったら一大事になる。その意味でも林太郎はこの家に来てからは確認を取って食べることにしていた。
「ああそれね。それは私がみんなのために買ってきたものだから早い者勝ちよ」
「そうか、じゃあさっそく」
林太郎はカボチャプリンの容器を取り、スプーンで食べ始めた。
「……ふぅ」
ひとさじすくって口に入れるたびに卵、牛乳、そしてカボチャの優しい甘みが林太郎の口の中に広がる。
本格的にボクシングをやるとなると減量しなくてはいけなくなるから、そのうち自由に食えなくなるだろうと思うとちょっと悲しかった。
彼がカボチャプリンを味わっていると凛香が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り、凛香」
「なんだ林太郎か。ふーん、プリンなんか食べるんだ。アンタの事だから生肉の塊にかじりついているのを想像するんだけど意外ねぇ」
「凛香、お前は俺を何だと思ってるんだ? 原始人じゃないぞ俺は」
「フフッ」
江梨香は他愛のないことを言い合ってる二人を見て笑みがこぼれる。年頃の男女だから衝突するかもと思っていたが、
あんなことを言い合えているという事は大丈夫だろうと安心していた。
「いやぁ良かったわねぇ凛香、林太郎君と馴染んでて。最初に出会った頃はどうしたものかと思ったけど、なかなかいい仲になってるじゃない」
「!? ちょっとお母さん! そんなこと言わないでよ!」
「オイ凛香何だよ急に?」
「アンタもくつろいでるんじゃないわよ!」
「あら凛香、恥ずかしがってるのかしら? うん、お年頃みたいね」
「お母さんまで! もういい!」
凛香は怒って自分の部屋に引っ込んでいった。
「何だ凛香の奴。急に態度変えちまって……」
「青春ねぇ。良いわねぇ、甘酸っぱくて。私は経験できなかったからねぇ」
「……そういうものなのか?」
「そういうものよ。あなたは青春真っ盛りなんだから、うんと青春を味わいなさい」
江梨香はニコリと笑い、2人を見守っていた。
彼がプリンと夕食を食べ終え、自分の部屋に戻ろうとしたとき……。
「あ、兄さん」
「なんだ雪、お前見てたのか?」
台所の入り口で雪と出会って立ち話が始まる。
「え、ええ。立ち聞きですけど……その、凛香姉さんは兄が出来るのは初めてなので色々戸惑ってる事があるんですよ。妹は4人いますけど義理の兄や父親が出来るのは初めてなので。
ですので長い目で見てください。姉さんもものすごく悩んでいるんですし」
「……本人から聞いたのか?」
「はい。私が見ている限りでは凛香姉さんは兄さんにだけは弱い所は見せたくないと必要以上に色々頑張ってるみたいです。
……言っておきますけどこれは私と兄さんだけの秘密ですからね。くれぐれも漏らしたことを姉さんには言わないでくださいね」
「あ、ああ。分かった」
雪は2人だけの秘密とことわりを入れた。
「凛香は戸惑ってる。か」
自室に戻った林太郎はぼやくようにその一言を発する。凛香は学校じゃ「何でもできる優等生」という立ち位置だが、そんな彼女が戸惑うだなんて……。
「兄妹になってから1ヶ月かそこらなら無理もない……のかな?」
今まで女ばかりの家庭で育ってきたところにいきなり男が来るとなるとそりゃ戸惑っても無理はない。林太郎も5人も妹が出来ると聞いた時はビックリしたから、それと同じなのだろうか。
「え? 俺が?」
夕食後、林太郎は凛香から「弁当くらい自作しろ」と言われる。
「お母さんはアンタのために学校のある日は毎日弁当作ってるんだよ? 少しは負担を減らしてあげても良いと思うんだけど」
「ふーむ……そうだな、お前の言うとおりだな。でも俺、料理はほとんど出来ないぜ?」
林太郎はそう返す。ただでさえ8人分の朝食の準備に追われている母親だ。少しくらい手伝っても良いとは思っていた……料理が出来ない。という根本的な部分があったのだが。
「それは大丈夫。最近のお弁当の具材は冷凍食品になってて、それを詰めるだけでも十分弁当になるんだから。私の弁当もそうで、毎日自分で作ってるんだから」
「へぇーそうなんだ。便利になったもんだなぁ」
そう言いながら彼は冷凍庫を開けて、中から良さそうなものをピックアップする。
まず鳥の唐揚げを4つ、弁当に入れる。次いでミニとんかつを4切れ。余ったスペースはひじき煮を申し訳程度に添えて出来上がりだ。
「よし出来た。後は冷蔵庫に入れときゃいいんだよな?」
「うん。後は学校行くとき忘れなければ大丈夫よ」
翌日……林太郎と凛香の通う高校で昼休みになった時だった。
「林太郎。アンタどんな弁当作ったの? 見せてちょうだい」
凛香が兄の弁当箱をのぞくと……その中身に落胆する。
「げ……茶色ばっかり。色どりとか関係ないわけ?」
「美味い物だけを選りすぐったらこうなったんだ」
「……ハァ。これだから男はやだわ」
色どりとか栄養面がこれっぽちも考えられていない、凛香だったら何があっても絶対作らないであろう弁当だった。
学校が終わり、自宅へと帰って来た林太郎は台所へとやってくる。
七菜家の台所には冷蔵庫が2台ある。1つは昔からこの家で使っていたもので、もう一つは林太郎とその父栄一郎が使っていたものを持ち込んだのだ。
七菜家の冷蔵庫は6人家族の食料を保管するので手いっぱいだったため、林太郎親子の冷蔵庫も使って何とか保存していたのだ。
「あれ? 母さんこのプリン誰かが買ってきたのか?」
冷蔵庫に入ってた昨日まではなかったカボチャプリンを見て確認を取る。5人の妹がいるとなると彼女らが買ってきたものを冷蔵庫に入れている場合も多い。
それを間違って食べてしまったら一大事になる。その意味でも林太郎はこの家に来てからは確認を取って食べることにしていた。
「ああそれね。それは私がみんなのために買ってきたものだから早い者勝ちよ」
「そうか、じゃあさっそく」
林太郎はカボチャプリンの容器を取り、スプーンで食べ始めた。
「……ふぅ」
ひとさじすくって口に入れるたびに卵、牛乳、そしてカボチャの優しい甘みが林太郎の口の中に広がる。
本格的にボクシングをやるとなると減量しなくてはいけなくなるから、そのうち自由に食えなくなるだろうと思うとちょっと悲しかった。
彼がカボチャプリンを味わっていると凛香が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り、凛香」
「なんだ林太郎か。ふーん、プリンなんか食べるんだ。アンタの事だから生肉の塊にかじりついているのを想像するんだけど意外ねぇ」
「凛香、お前は俺を何だと思ってるんだ? 原始人じゃないぞ俺は」
「フフッ」
江梨香は他愛のないことを言い合ってる二人を見て笑みがこぼれる。年頃の男女だから衝突するかもと思っていたが、
あんなことを言い合えているという事は大丈夫だろうと安心していた。
「いやぁ良かったわねぇ凛香、林太郎君と馴染んでて。最初に出会った頃はどうしたものかと思ったけど、なかなかいい仲になってるじゃない」
「!? ちょっとお母さん! そんなこと言わないでよ!」
「オイ凛香何だよ急に?」
「アンタもくつろいでるんじゃないわよ!」
「あら凛香、恥ずかしがってるのかしら? うん、お年頃みたいね」
「お母さんまで! もういい!」
凛香は怒って自分の部屋に引っ込んでいった。
「何だ凛香の奴。急に態度変えちまって……」
「青春ねぇ。良いわねぇ、甘酸っぱくて。私は経験できなかったからねぇ」
「……そういうものなのか?」
「そういうものよ。あなたは青春真っ盛りなんだから、うんと青春を味わいなさい」
江梨香はニコリと笑い、2人を見守っていた。
彼がプリンと夕食を食べ終え、自分の部屋に戻ろうとしたとき……。
「あ、兄さん」
「なんだ雪、お前見てたのか?」
台所の入り口で雪と出会って立ち話が始まる。
「え、ええ。立ち聞きですけど……その、凛香姉さんは兄が出来るのは初めてなので色々戸惑ってる事があるんですよ。妹は4人いますけど義理の兄や父親が出来るのは初めてなので。
ですので長い目で見てください。姉さんもものすごく悩んでいるんですし」
「……本人から聞いたのか?」
「はい。私が見ている限りでは凛香姉さんは兄さんにだけは弱い所は見せたくないと必要以上に色々頑張ってるみたいです。
……言っておきますけどこれは私と兄さんだけの秘密ですからね。くれぐれも漏らしたことを姉さんには言わないでくださいね」
「あ、ああ。分かった」
雪は2人だけの秘密とことわりを入れた。
「凛香は戸惑ってる。か」
自室に戻った林太郎はぼやくようにその一言を発する。凛香は学校じゃ「何でもできる優等生」という立ち位置だが、そんな彼女が戸惑うだなんて……。
「兄妹になってから1ヶ月かそこらなら無理もない……のかな?」
今まで女ばかりの家庭で育ってきたところにいきなり男が来るとなるとそりゃ戸惑っても無理はない。林太郎も5人も妹が出来ると聞いた時はビックリしたから、それと同じなのだろうか。
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